仕事
洗礼が終わり、リンダとリュートが来るまで応接室でローザと話すことにした。
頼むのは今がチャーンス!
「シスター、お願いがあるのですが良いですか?」
「あら?何ですか?」
紅茶で喉を潤し、カップをソーサーに置く。
背筋を伸ばして90度頭を下げた。机と鼻先ギリギリだ。
「私に魔法だけじゃなく、武器の戦い方も教えてください!」
「いいですよ。」
え?
思った以上に、あっさりと許可がでた。
ローザの表情はいつものように微笑んでいる。
まぁ、確かに過保護そうなのはファインだけで、稽古をつけるのはいつものことなのかも知れない。有難いけど意外ではある。
「良いんですか?」
「ええ、でも私は厳しいわよ?」
「が、頑張ります!」
今まで運動とか本気で取り組んだことがないからどんなものか想像つかない。リアルで武器なんて握ったことないし、お祭りでアーチェリーやったことあるくらいだ。
でも一応、ヒロインが扱える武器が剣、弓、杖の三種なんだよね。ゲーマーの矜持をかけて武器の剣、弓、魔法を扱えるようになりたい!
「ねぇ、私からも一つ聞いて良いですか?」
「はい」
「何故武器を持ってまで強くてなりたいのですか?魔法だけでも強くなれますよ?」
いつもの優しい笑顔の筈なのに、翠緑の瞳が細めているせいか暗く見えて怖い。
だけど、そんな事はどうでもいい!
「武器も使えれば便利ですし、お兄さまの足手まといになりたくありませんし、狩りが出来れば皆の為にもなります!
私、何かできる自信も根拠もありません。何を出来るかも何をすればいいかも判りません。手段と自信があれば自然と何をすればいいか判るようになる為強くなりたいです!」
よくよく思えば本当に強くなるか解らない。アレはゲームだから、強くなれたのはヒロインだから。今ここにいるヒロインの皮を被った何かの私は強くなれないかもしれない。
ヒロインは日常コマンドと冒険のレベルアップで強くなる。でも現実はあり得ない。簡単に強くなれないだろう。
運動神経は悪くないと思う、部活だって学生のときは運動部だった。…弱小で遊びの延長だったけど。社会人になって仕事と家の往復で買い物以外遊びに出ることはなくなったけども…。
つまり特訓なんて自分から自分を苛めるようなことが出来ない、一人だと絶対折れる。
冒険者や魔法剣士を目指す以前の問題ですね。意思が弱くてさーせん。
丁度部屋にノック音が響く。
ローザが「どうぞ、入って」と声かけると控えめに扉が開いてリンダとリュートが入ってきた。
「シスター、畑の世話終わりました。」
「はい、お疲れ様です。」
リュートが報告するとシスターがにこやかに労りをかける。
「リンダちゃん、リュート。ちょっとお願いがあるのだけど良いですか?」
「「?」」
二人がシンクロしたように同時に首を傾げる。
「「シスターなんでしょう?」」
声までハモった。
「明日からで良いからメルディちゃんも一緒に畑の世話をして欲しいのです。
それと、メルディちゃんも恩恵を持っている事が解りましたので、リュートに基礎を教えてもらってくださいな。武器を持つのはその後にしましょう。」
「僕はいいですが…。」
リュートはチラっとリンダを見る。リンダは喜びを顔にだして「わたしもいいよ!メルちゃんと一緒にお仕事だね。」と喜んでくれた。可愛い。
そんな可愛い表現をしてくれるリンダに私も嬉しくて「よろしく!」と返した。
明日から畑仕事だ!
そしてこの日はそのまま勉強ということで部屋の中で過ごした。
と、言ってもシスターに国語と言うか…双子と一緒に読み聞かせで絵本を読んでもらった訳だけど。文字は不思議と読めるのに…文字は英文に似たナニかでした。
これ勉強し直しって事だよね…。
そして本棚のもう少し年齢層が高そうな本を試しに手にとって開いてみたら読める部分と読めない部分があって確信した。
これ、私がヒロインになる前にヒロインが勉強して覚えた部分が今の私に解るって事を…。ヒロイン…字を書くこと苦手だったんだね…。
まぁ6歳だもんね、学校ではやっと小1か?
実際紙がないから私も書けるか解らんけど。何となく気持ち的に書けそうな気がするけど、自信がない。
生前経験した漢字を読めるけど書けない。そんな気持ちが私の胸に湧き立った。




