第二話『初めての入学式』
王立ラフト・セルタミレゼ学園、その前にある少し細めの道。その道の両方からたくさんの入学生が門を通っていく中、きれいに磨かれた一台の黒いリムジンが門の前に止まり、辺りが少しざわついた。
「ヘレーネ様、到着いたしました。」
使用人がそう言ってドアを開くとふてくされたようにヘレーネが出てきた。
「ええ、ありがとう。でもいくらお父様の指示とはいえ、なんで私が学校なんて行かなきゃいけないのかしら。しかもここまで変装する必要あるのかしら?」
そう言っているのは前までの『金髪ロングヘア』のヘレーネ・テレスティアではなく、『黒髪のショートボブ』に変わったヘレーネ・フィルテスタという名前の普通の学生だった。そう、全くの別人だったのだ。
なぜこのような容姿になったのかと言うと、あの後国王から王女という身分を隠すよう指示があったためカレリアの協力のもとにこのような姿になったわけだ。
「念には念をという事です。ヘレーネ様。」
「わかっているわ。ここからは大丈夫よ、ありがとう。」
そういてお礼を残して一人門を潜っていくヘレーネの姿をカレリアは心配そうな顔で礼をしながら心配そうな顔で見送っていた。
校門を潜るとそこは煉瓦と木材できれいに整備され、道の両端には二百本以上はありそうな枝垂れ桜が満開に咲き風が吹けば桜吹雪の舞うとてもきれいな道、少し端に行けば木陰にベンチがありさらにその奥には広大な中庭が広がり、所々にいくつもの建物があった。
「まあ、入ってしまったものはしょうがないし学園生活めいっぱい楽しもうじゃないの!」
「君、すごい気合いだね。」
そう言って走るヘレーネに話しかけた人は、桜吹雪の舞う中ベンチで本を読んでいた真面目オーラを醸し出していた。
「あなたは?」
「おっといけない、私としたことが自己紹介をしていなかったね。私の名前はリーティア。リーティア・ヴァルディースという。今は二年次で生徒会長もしている。見ての党利私はエルフだがちゃんとまだ十七歳だからね。君の名前を聞いてもいいかい?」
そう言って細かい所まで教えてくれたリーティアだったが、なぜか最後のところだけにやけながら言っていたところに違和感を覚えた。
「わ、私の名前はヘレーネ・テレ、フィルテスタと言うの。」
危うく身分を隠すことを忘れて王女としての名前を口走りそうになったヘレーネだったが家名を変えてヘレーネ・フィルテスタと名乗った。
リーティアも少し首をかしげ疑問に思っていたようだが、名前を聞けたのが嬉しかったのか、なぜかにやけているが納得はしているように見えた。
「なるほどヘレーネか。時にヘレーネ、先ほどはなぜあんなに気合を?おっと、あと敬語はいらないよ。」
「わ、わかったわ。そもそも学校自体、私が入りたくてこの学校に入ったわけじゃないからよ。」
そう言ったヘレーネに対し、話がついていけない様子のリーティアが首をかしげるとヘレーネが続けて言った。
「私はそもそも学校に入るはずじゃなかったのに、分け合って親の意向で入ることになったのだけれど、行かされているのではつまらないから吹っ切れて楽しもうと思っていた。と言う訳よ。」
「なるほどね。また複雑な事情を抱えているようだね。おっと、すまないがそろそろ打ち合わせの時間なので私は行くとするよ。何かあればいつでも生徒会室に来ていいからね。」
そう言って去っていくリーティアを後にヘレーネは体育館に向かい、いよいよ入学式が始まろうとしていた。
入学式が始まって入場、国歌、中等部一組から五組、高等部一組から十組まで総勢約三百人の名前が順番に呼ばれ、入学許可、学院長の式辞がおよそ三十分、祝辞および祝電披露、そして生徒会長であるリーティアによる歓迎の言葉が始まった。
「新入生の皆さん。このたびはご入学おめでとうございます。在校生一同、皆様のご入学を心からお祝い申し上げます。・・・・・・・・・・わからないことがあればいつでも生徒会室に来てください。皆さんが一日も早くこの学校になれ、成長していけるよう、在校生一同、応援しています。以上をもちまして私からの歓迎の言葉とさせていただきます。」
こうしてリーティアが話し終わると新入生のほとんどが聞き入ってしまい、ワンテンポ遅れてから盛大な拍手が会場を包んだ。そして次に壇上に上がったのは入学試験で成績がトップだった一組のレイナ・シャルロッテが舞台に上った。
「暖かな春の訪れとともに、私たちは名門王立ラフト・セルタミレゼ学園の入学式を迎えることが出来ました。本日はこのような立派な入学式を行っていただき、ありがとうございます。私は、・・・・・・・・・・。」
やっと長い話がすべて終わり、担任の紹介と最後に国歌を歌い、入学式は無事終了となった。
このラフト学園は全寮制のため、入学式が終わった後、クラスに分かれてホームルームがあるらしく全員クラスに召集された。