5話
地をジングルベルを(物理的に)引き連れたサンタが駆けていく。
そして(断熱圧縮で発生したプラズマの)光の粒を尾を引くように残しながら森を超え、川を飛び越え、海を割り嵐を呼んで山を貫く。
向かう先は禍々しいシルエットの魔王城だ。
賢明なる読者諸兄は疑問に思うだろう。
なぜ国の中枢部にやすやす乗り込めるのか?
その答えはとてもシンプルだ。
サンタだからである。
サンタは夜寝静まった中、誰にも気付かれぬことなく家に侵入することができる。
壁もない空を経由するならだれも疑問に思われることなくたどり着けるのだ。
「さて、よい子はこの部屋の中か」
石造りの屋根に立ちながらひとり呟く。
完全に危ない人である。
背に担いだ白い袋が子供を入れる人さらい道具にしか見えない。
「この石は魔法を食う鉱石か……」
鉄よりも固く、魔法も完全にシャットアウトする壁。
窓もあるように見えない。
どうやっても入ることができない密室だ。
さてここまで読んでくださった読者諸兄に質問したい。
子供のころに煙突もない密室で寝ていたらサンタがプレゼントを置いていった覚えはないだろうか?
またその方法はどうしたのか?
数えきれないほどあるその方法の一つがこれだ。
「メリィィッ!! クリスマス!!」
スルスルと壁の中に入っていく。
魔法が通じない壁に対してである。
西から太陽が昇るごときありえない光景だ。
だがこの行動が魔法を使っていないならどうだろうか?
答えを言おう。
トンネル効果を利用したすり抜けである。
これは物理的に可能な現象のため魔法が通じない壁でも通り抜けることができるのだ。
「だ、だれじゃ!!」
豪奢な内装の部屋の中に金の角を持つ一人の幼女がいる。
その身からは禍々しいとまで言えるオーラが出ており見るからに魔王だ。
端整な顔に困惑の色を多分に込めている。
「メリークリスマス、よい子よ、サンタがプレゼントを持ってきたよ」
「なっ!? おぬしは勇者!! 部下の仇じゃ!!」
右手に黒い球体を作り出し連射する。
一発で人一人を消滅させることができる究極魔法。
途方もない量の魔力が連射を可能にする。
空間が削り取られる音が連続する。
「やったか!?」
「流石この世界の有数の実力者、死ぬかと思った」
が、サンタは平然とそこに立っている。
命中したら跡形もなく人が消し飛ぶ攻撃を食らって何故平気なのか?
それはサンタだからだ。
サンタはよい子にプレゼントを渡す者だ。
そして子供から何かをもらうことはない善意の存在だ。
だから攻撃をもらうこともない。
「化け物め」
「違う!! サンタだ!!」
「は?」
鈴を転がすような声が響いた。
一時間後にお願いします。




