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アンインストメルヘン  作者: なせり
第一章
8/39

3

 


 アリスは御陽を見送った後、現場はアリオットに任せて謁見の間に戻った。彼女は彼女でやらなければならないことがあった。


 それにしても不可解だと、ふと先程の会話を思い出す。

 御陽には何も隠している様子もない、それよりか何よりも人間らしい感情というか、当たり前なのだが同情心にも嘘がないように見えた。

 正直なところ弟に実状を聞かされても信用はしていなかったのだ。外の国を一国以外は全て遮断された鎖国国家に、能力者が一人。それにアリスもそういう能力者がいると聞かされなければ、全く気が付きもしなかった。


(やはりあの子と関わって動き始めたと考えるべきなのかしら)


 御陽が着く前に、多く聞き出さなくては。あいつは目的を達成したらきっと何も話さなくなる。

 そういう人間だ。私も同じ類なのでは責め立てることが出来ない。


 つかつかと早足で歩き、玉座に座り目を閉じた。その瞬間に広い夜空のような空間に飛ばされる。

 星のような光に触れると人々の夢に繋がる、慣れ親しんだアリスの能力だ。その無数の光の中で、迷わずアリスは手を伸ばす光があった。




「そういう訳で、きたのだけれど。」

「どういう訳……?」


 アリスの目線の先には気だるげに起き上がる、美しい顔の男がいた。白く広い空間にベッドが一つ、男の寝ているベッドの下には茨が地面を張っている。相変わらず男の夢の中だというのに変な空間にいる感覚になる。

 男は今まで見たことがないくらいの美貌だった。ローズピンク色の宝石のような瞳に鼻はすっととおっている。絹糸のような銀色の髪は陽の光にあたるときらきらと輝いて見えるのだろう、女が嫉妬する程の美しさだ。


「全くもって、にくたらしい顔だわ。貴方の言うとおりに保護をして、貴方の元へ連れていったわよ」

「ふうん、それでお前は幸せの前兆にありがたくも起こしに来てくれたんだ?」

「そういう所が素直に貴方美しいわねって言えないのよ。……聞きたいことしかないのよ」

「なんで?」


 本当にむかつく男だ。私が言えたことでは無いが、なにか話す度に皮肉しか出ないし、話していると本当に話しているかどうか分からなくなる。


「どうしてミヨちゃん一人で向かわせたの?」

「ミヨっていうの?」

「はぐらかさないで」


 ギロリと睨みつけると、男はやれやれと肩を竦めため息をついた。


「はぐらかしてるつもりはないけど。だってお前の弟じゃ、俺のいる場所なんて分からないでしょ」

「ミヨちゃんもわからないでしょ?」

「そんなわけないけど、あのこしか知らないよ。それにお前の弟を頻繁に現実世界に連れ出すのいい加減リスク高いよ」

「はあ?本当にわけのわからない男ね。そもそも貴方とミヨちゃんのつながりってなんなの?貴方の目的はなに?」

「目的なんかお前と一緒だよ。いや、少し違うかな。お前はあの男を救いたいんだもんな。わけのわからない女」


 ぐっと言葉につまる。気まずく、目を逸らしてしまった。この男と話していると本当に腹が立つ。ままならない感情を息で吐き出した。


「ねぇ、ミヨは結局どこにいたの?」

「……?いるといったのは貴方でしょ」

「そういう能力者がいるって言ったけどどこにいるとは言ってないよ。で、どこにいたの?」

「マガヒノラ、鎖国国家だけど……」


 私の言葉に初めて顔を変えた。一瞬黙り込み、考え込む様子を見せた。すると静かに口を開く。


「お前が生きてる時にはあった?」

「ええ、私の前世を含めて生まれた時からあったわ」

「ふうん。でも鎖国国家だから全然知らないと」

「そうね……私が生まれた時にはマガヒノラはどこの国よりも発展していて、能力者もほぼ生まれることはないって聞いていたわ、噂だけれど。けど、アリオットがミヨちゃんをその国で保護したけどちゃんと収容所も能力者を絵本にする所もどの国と変わらないのですって」


「………」


 すっかり黙り込んでしまった男にこれ以上聞き出せる様子がない。聞き出すつもりだったのに結局有耶無耶にされてしまった。私の精神が未熟なのもあるが、この男と話していると探り合いになってしまう。信用できるのかできないのか分からないところだ。


「貴方、ミヨちゃんを連れてきた後でも私達に協力するつもりはあるの?」

「もちろん、だけどお前の願いは叶えられないよ。俺はあの男を殺すからね」

「それでいいわ、協力をしてくれるのであれば。……もうすぐミヨちゃんが貴方を見つけることでしょうね、まったくどこで寝こけているの?よく生きてられるわね」



「さあ?どこに隠したんだろうね、二千年も」










 ****




『御陽、聞こえるか?』

「え、ええ!聞こえます!アアアリオットさん、思った以上に怖いんですけど!」


 がくがくと震えながら手鏡を握りしめる。ここってなんだかおば、おばけというものがでそうなのでは、ないだろうか?だって血のような……あまり考えたくない。


『気のせい気のせい、あぁ、その城が滅びたのは二千年も前の事だそうだ、二千年も前でそんだけハッキリなんかモノが残ってんのは割と最近流血沙汰があったのかもな』


 声にならない悲鳴がでた。

 なんてことをいうんだこの男は!何も考えないようにしていた所に追い打ちをかけてくるのはどうかと思う。


『とりあえずその部屋をでろ。長居はできないからな、能力者がどこにいるのか部屋を虱潰ししていけ』

「そ、外に出たらいきなり科学獣が……とかそんなことは」

『その時は俺の指示の出番だ任せろ』


 頼もしくはあるが、なるべくその指示は授からないようにしたい。出くわさないようにと祈りながら部屋の扉を開けた。


 その瞬間、私は足を止めた。


(私はこの光景を、見たことがある――?)


 私は言いようのない焦燥に駆られた。はやく、行かなければ。

 足がどこかへ動き出す。


『おい、御陽!どこに行くんだ!?』

「わからない、分からないです……!私……!」


 石が崩れボロボロになった廊下を走りだす。ボロボロの廊下には茨がそこかしこに張っているので躓きそうになりながら進む。

 廊下の先には階段がある、そこを降りれば――





「グルルルル……ギャオオオン!!」


『科学獣だ!銃を構えろ御陽!』



 涎を垂らし狼のようであり、蝙蝠のような翼の生え目が複数個ある獣が突如目の前に出てきた。これが科学獣か!とはっとする。

 アリオットさんの指示で咄嗟に距離をとる事ができた。アリスさんから預かった銃をホルダーから引き抜く。


『なんだ、ちゃんといるじゃねぇか……御陽!そいつの心臓部分は頭だ!』

「あ、頭!?」

『動きは俊敏だからな、動きをとめろ!そこから頭を狙え』


「うそうそうそ、ちょっとまっ……ぎゃあああ!」


 そう言っているうちに大人しくしてはくれない科学獣は肉を食いちぎらんばかりの勢いで、私に突進してきた。咄嗟に避けてしまったが、私は別になんともないので避けなくてもいい。けれど気持ち的には避けた方がいいので避けれてよかった。

 アリオットさんの話を頭で理解し噛みしめ、算段を立てていく。

 銃は素人で扱えないが、先日のこの水鉄砲の能力なら周りに発砲して、足場を固めてから銃弾として撃つのが得策だ。


『三回発砲して、足、翼、口をそれぞれ固めろ!』


「はい!」


 言うとおりに発砲し、三箇所動きを封じる。唸りもがいている科学獣は塞がれた口の端からだらだらと涎をこぼしていた。


『そのまま遠くから、頭を狙って撃てるか?外しても水から弾を撃てたから問題はないが』

「は、はい。おそらく動きは止まっているので大丈夫だとは……まぁやります」


 拳銃のように想像して撃つとそのまま普通の弾のように科学獣の頭に直撃した。するとそこから黒くドロドロしたものが吹き出す。グロテスクな光景に唖然とした。


『頭の部分が心臓だからそこを燃料にしているのか、仕組みは知らないが黒いヘドロがでてくるからあまり見たくはないよな』

「先に言っといてもらえませんか?」



 それにしても、どうしてここまできてしまったのだろうか。階段を降りようとしていたソコは地下へと続いていた。

 ただでさえ暗く見えずらい状況であるのに地下に潜ってしまったら足元さえ見えにくく危険だ。


「ころんでも別に平気なんですけど、こんな見えないとこにいるとも思えないですね」

『地下か。見えにくく逃げ道もなさそうな所に確かにいるとも思えないが、とりあえず危険な場所から調べてみようぜ』


 アリオットさんの言う通りに、階段を降りていく。崩れたところから漏れていた陽の光が完全になくなり、前は全くもって見えなかった。恐る恐る前に進んでいたが、またふと、私は自然に足が向いていた。


(おかしい。なんで足が進んでいくの……こんな所知らないはずなのに)


 懐かしい感じがした。何か必死に走り出したくなる衝動に駆られる。

 止まらない足が、ふと何かの前で止まる。

 目の前のものをぺたぺたと触ると取手のようなものに引っかかった。扉だろう、しかも一際大きな。


「部屋、ですかね?」

『こっちからだと何も見えないな、ランプとか持ってくればよかったな。全然用意周到じゃなかった』

「今反省しないでくださいよ……開けますね」


 扉を押すと、ギイィと古めかしい音を立て冷たい空気が流れてきた。そのまま足を進めると、靴音が響く。広く静かな空間のようだ。

 つかつかと迷いなく目的の場所に向かう。


 ここだ、ここに居る――


『御陽?そこになにがある?』

「棺、です」

『いや、え?それは俺、人としてちょっと……あ?おいっ』


 アリオットさんの声は私の耳に届かなかった。いや、聞かなかったという方が正しいか分からない。けれどここを開ければ会えると思った。

 焦るように手をかけて開ける。棺の蓋は重くは感じなかった。

 中にあるのは人骨ではなく、腐った人でもなく、暖かい人間だった。左胸に耳を傾けて音を聴いた。


「生きて、ます……肉が腐ってません。心臓の音も、聞こえる」


 私の声が震えていた。何故、こんな感情になるのか。何故こんなにも懐かしく思うのか。何もかもわからなかった。


『御陽、泣いてんのか……?』

「なん、なんででしょう……なんで」


 止まらない涙に戸惑いが隠せない。

 だが、ふと棺で寝ている人の左腕がない事に気付く。私は手をかざし、能力を使った。

 すると規則正しくたてていた寝息が止まる。小さな声がこぼれ、その瞬間私の顔を両手で掴まれ引き込まれた。


「ひゃっ」


「もっとよく顔を見せて」


 ほぼ距離がゼロに近い位置でじっくりと顔を見られ思わず息を止める。相手の顔も当然見えるわけで、私もじっと見つめた。

 暗くてよく見えないが黒い瞳ではなさそうな、目尻が少しつり上がっていて、流れるようにすっきりした目の形をしている。


 しばらくお互い無言の状態で、私は緊張した面持ちをしているとふと男の口の端があがり



「おはよう」


 と、彼は綺麗な笑みで言った。






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