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アンインストメルヘン  作者: なせり
第一章
7/39

2

 




「なにが目的なんだ?」


 この世界で夜があるか曖昧なところであるが、空が光を失う時間をアリスが定めている。そうした時間にみな、寝静まるのであるからあながち夜といって間違いはないだろう。

 静かな時間にぽつんと謁見の間で窓から空を見上げるアリスにアリオットは問いかけた。


「私も、探り探りなのよ」


  アリスの言った意図が読みとれず、アリオットは眉間にシワを寄せる。

  昔から、こういう所がある。こういうことを言って、勝手に死んでいった。


「なにが?」


 少しいらいらとしてハッキリと聞いた。

 だが、姉は答えてくれる気はないらしい。空から視線を外し、真っ直ぐアリオットを見据えた。


「―――ミヨちゃん、一週間後フィパリスに行かせて」

「は!?」


 フィパリスは能力者を徹底的に排除された国である。大昔に能力者を集め、どの国より多く絵本の数がある。アリオットの故郷でも能力者を集められ絵本にされた者は多いが、フィパリスほどではない。それに加え、フィパリスの絵本は内容――研究結果があまりにも多く綴られている。それは未だに謎のままである。

 そんなフィパリスは今では能力者が生きる事を1人として許さない国である。なぜその国に、御陽を。


「フィパリスのロズヴィルティア城ね、お願いよ」


「いや待てって、御陽はまだなにも……それに能力者だが一般人だぞ。ロズヴィルティア城なんて廃城でボロボロじゃねぇかそんな場所に」

「あら、一般人だと思ったかしら?アリオットは」


 目を細めてくすくすと笑う姉に腹が立つことは仕方がないだろう。ぐっと抑えて考える。

 ――確かに御陽は一般人ではない、普通に考えたらそうだ。それは能力者の事を指すのではなく先日の御陽を保護した時のことだ。

 自身が指示をしたとはいえ、一般人は母親を人質にとられ、いくら能力をもっていても自分が撃たれて惹きつけるなんて行動はしない。戦闘慣れしたような動きも気になった。

 けれど、御陽と話している時に何か隠しているとか嘘をついているなんて微塵も感じなかったのだ。なので一般人と枠付け、判断はしていた。


「どちらにしても要観察ってところね、でもフィパリスには行ってもらうわよ、アリオット抜きで」

「はあ!?あまりにも危険すぎる、あそこは科学獣がウロついている」

「大丈夫よ。死なないし、それに一人で連れて来いって言われてるんだもの仕方ないわ」

「誰に?」

「さあ」


 アリオットは頭を抱えたくなった。話をはぐらかせ幼子のように笑う姿は可愛らしくもあるが見た目だけの話で、それが実の姉というのだから何を考えているのか掴みどころがなく恐ろしい。





 だがアリオットはアリスに従うしかない。それが罪滅ぼしと目的の糧となるのであれば―――










 ****






「構いませんが、その国にバレてえらいことに……とかなっても責任はとりませんよ」


 聞かされた内容に顔を引き攣らせたが、了承したのは先日助けてもらったお礼のつもりだ。


 聞かされた内容はこうだ。

 フィパリスという国の今は廃城と化している城に能力者がいるらしい。そこにいる能力者を保護して欲しいとのことだ。


 しかし廃城と化した城には能力者が住みつきやすいらしく、科学獣という絵本からつくられた獣が多く放たれている。

 もちろん、ない生命を作り出すということにはデメリットが生じ、科学獣はほとんど知能を持たない。ただひたすらに能力者の匂いを嗅ぎつけ襲い、最終的には能力者を殺してしまう可能性もある恐ろしい獣らしい。

 実験をするには生きたままの能力者が必要であるのに科学獣が放たれている理由はなにか、それはフィパリスという国が徹底的に能力者を排除したいという意志の表れである。


 そんな危険な場所にいくのであれば、他の人に行かせて命の危険があるより確実に死なない私一人で行った方がいいと思ったのが一つ。恩返しになると考えたのも一つ。


 ただ、バレないようには無謀だ。

 科学獣には印が付けられており、能力者を見つけるとその印が反応し警察に報告がいく。私の国でいうセンサーだろう。

 そうするともれなく先日のようになるということだ。フィパリスは能力者を殺してもいいという考えだが、能力者を他国に売りつければ利益になるのでなるべくは欲しいのだろう。あくまで死ななければラッキーくらいの考えだ。それを聞いた時私は震え上がった、恐ろしすぎる。


 いくら死ななくても捕まれば元も子もない。

 その時は助けてくれるそうだが、そうなるとそもそも私一人でいく意味がわからなくなる。


「手鏡を持ってもらって、鏡からアリオットが指示するから安心していて!それに保護する能力者は強いから心配するほどではないわ、いざとなったら守ってもらうのよ」

「科学獣が放たれてる時点でバレないようには無理だからな。最初から期待はしていない」

「色々と問いただしたいことだらけなんですけど…そもそもそんなに強いなら保護が必要ですか…?」


 口々に好きなことを言われ、なんだこの姉弟とげんなりしてしまう。仲がいいのか悪いのか、言うタイミングは一緒でも言うことがバラバラである。


「そうなのよね、それなのよ。私もアリオット一人で迎えに行って連れてくる方がいいと思うのよ、でもだめみたいなの」

「なにが駄目なんですか?」

「やめとけ、姉さんはそれしか言わない。俺が昨日聞いても、そう言われたの〜だめなの〜しか。聞くだけ無駄だ」

「ひどいわ!」


 文句は言っているが、否定する気はないらしい。

 まぁ私も余計な詮索はする必要は無いと考える。この姉弟の目的はなんであれ、助けられたのは事実である。少しでも役に立てばいいと考えるし言われたことをこなせばそれでいい。



(あれ)



(こんなこと、昔も思っていた気がする――)



 今よりもっと昔、ううん。

 いや、いい。おかしな事だ、私は母と歩んできた記憶しかないのにこんなことを思っていたはずなんて。


「とりあえず、向かってくれれば問題ないわ。はい、これ」


 そうアリスさんが言うと、私になにかを手渡してきた。

 見てみると、黒のホルダーケースだった。中に拳銃が入っている。


「わ、私拳銃なんてつかえませんよ!?」

「よく見てみろ、先日の水鉄砲だよ」


 先日の水鉄砲、ということは絵本から作られたあの――

 私はなんとも言えなくなった。能力者を殺して出来たものを私は使うのに躊躇う。偽善者ではないし善人ぶるつもりもないが、人々の行いを肯定しているような気がしてならない。


 私が眉を下げて黙り込んでしまっていたため、アリオットさんは察したのか優しく、囁くように呟いた。


「御陽、俺はそれがいけないものだとは思わない。もちろん能力者を殺して作ることには反対だ。けれど――それがそいつの生きた証なら大事にしたいと思う。」

「生きた、証……」


 それでも、なんだか悲しくなって泣きそうになった。

 そうも思う。けれど、絵本になった人達はどんな気持ちで死んでいったんだろうか。それだけが頭を占めてやるせない気持ちになる。


「んーそうね、考え方はそれぞれだと思うわ。これを使うことに抵抗はあるのかもしれない。だけど、死んだ身から言わせると少しでも生きている人の役にたつことに使って欲しいと私なら思うかしら。まぁ私の絵本はないんだけど」


 同時に優しい目でアリスさんが私に微笑み手を重ねてきた。


「強制するつもりもないし、貴女には必要の無いものかもしれない。けれど私は使えるものがあるのならば貴女に使って、貴女自身を守って欲しい。今生きているのはミヨちゃん、貴女よ」


「そう、ですね」


 絵本がいけないものだとか、絵本から作られたものに対してある意味嫌悪感を抱いていたと思う。でも、そうだ。嘆いていても仕方ない。


(ごめんなさい、利用させて貰います。貴方たちのような犠牲はもうきっと払わせないから、だから力を貸してください。)


「わかりました、預かります。早速フィパリスに向かいます。」


 顔を上げて、ハッキリと伝えるとアリスさんは頷いて微笑んだ。



「気をつけて。手鏡も持ったかしら?そこからアリオットが指示をするからそれに従って行動するのよ。」

「ちなみに指示すると言っても、能力者が城のどこにいるのかは俺達も分からないからそこは御陽、お前に探し回ってもらうことになる。」

「え!?それは聞いてないんですけど!?」

「だから俺が指示することは科学獣などに遭遇した時と能力者と会って鏡からこの国まで転移させることだ。頼むな」

「………わかりました」



 なんだか色々と幸先が不安であるがさっさと保護をしてやろう。

 どこにいるか知らないけれど。そんな決意をし、鏡の前に立つ。



「目を閉じて」




 指示の通り目を閉じた。眩い光に包まれている事が瞼の裏でも感じ、再び目を開けた時には。


 周りは暗く、広い空間にはホコリか蜘蛛の巣か、振り返れば転移してきたであろう鏡は薄汚れヒビが入っている。

 ベットであったであろうものは、黄ばみに加え、切り刻まれている。なにか血であった時のような、黒いシミまである。




 恐怖でどうにかなりそうになった。







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