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私の肺は私の能力のおかげで息苦しくなることは無い。これまでおかげなど欠片すら思ったことがなかったのだがこれも成長だろう。
追いかけられ目的地から遥かに遠回りし、待ち伏せされているだろう場所は避け様々な工夫を凝らし追跡を撒いたのだ。もちろんその道を知っているのは私しかいないので…私って偉い、賢い。
「ねぇアリオットさん」
「わかっ…げほっ…わかったから……ぜぇ…」
息苦しそうにしている男を冷ややかな目で見つめる。抜けていると思ったが冷静に考えれば抜けてるという話ではない、クソおバカ。
とまぁ責めるのはそれぐらいにしておいてあげよう。どちらにせよ収容所に母という餌がいる限りどの道を行っても警察には出くわしていたのだろう。
「ところで目的の収容所に着いたのですがどうなさるつもりです?」
そう言葉を投げかけると、やっと呼吸が落ち着いてきたのかようやくアリオットさんが余裕のある顔で言い放つ。
「そんなもん正面突破だろう」
あっけらかんとなんの悪びれもなく言い放つ姿に呆然としたが、今までの行動からアリオットさんが大した人間であることは分かる。だが見た感じ武装など感じられず、丸腰であるのだ。
「あの、その格好と私の能力の驚き方の反応から察するに普通の人では無いことは分かるのですけれど、その、どうするんです?」
チラとわざとらしく目を向けると、アリオットさんはあぁ、と思い出したというように話した。
「お前の察する通り俺はお前と同じ能力者だ。…まぁ、見てろよ。」
にやりとアリオットさんのポケットから私が先程治した手鏡を取り出す。手を鏡に近づけると、その瞬間私は目を疑う光景を見た。
指先に触れた鏡の部分が波紋した。そこからアリオットさんの手が少し留まる。真っ暗闇の中に落としたものを見つけるような探る感覚に近いのだろう、見つけたと言わんばかりにそれを引っ張り出した。
出てきたソレは間違いなく
「剣……?」
ここの国よりずっと西の剣に似ている。サーベル、といったか。如何せんこの鎖国体制がしかれた国では教科書にしか書かれた知識しかない。
「そんなもんだな。正面突破と言ったがバカ正直に入り口からこんにちはする気は無いからな。」
「最初から正面突破のつもりないじゃないですか。」
「能力者の収容所なんて能力を起こされたらたまったものじゃないよな。だとしたら地上施設ではなく地下だろう?だから地上の入り口から入るつもりはないってことだ。」
「はい?それってどういう…」
「コソコソしないで堂々と行くんだから正面突破ってことだ。」
そういうとアリオットさんがサーベルを地面にとんっと軽く突き刺す。
するとその地面がぼろぼろと崩れ出し私は慌てた。自分の立っている所が崩れ出しバランスがとれない。そしてそこから落とし穴にハマったかのように下に落ちていき、私は思わず悲鳴をあげた。
「ひっ…ぎゃああああああ」
「恐ろしいほど女らしくない叫びだな」
同じように平然と落ちていたアリオットさんが言った。うるせぇな、女子高生なんてこんなもんだよ。
そのつかの間背中全体に衝撃を感じる。見ると、少し遠い天井からは光が大きく漏れており、大きな通路のような場所にいた。落ちてきたのだ。見渡すと鉄格子が左右に見えた。幸いにも鉄格子の中には人などは入れられていなかった。
しかし私が痛みを感じず治るとはいえ、なんということをしてくれたのかこの男は。
「これがあなたの能力ですか、それにこの地上からのこの距離で着地ってアリオットさん大丈夫なんです?」
「能力、と言うよりかはこのサーベルの能力って言った方がこの能力は正しいだろうな。着地に関しても問題ない。」
「ど、どういう事です…?」
「俺の能力は正しくは鏡の中の世界と現実世界との行き来。このサーベルは鏡世界のサーベルだ。」
「…つまり別世界の魔法の剣だと?」
「まぁそんなとこだな。俺の履いてる靴もそんなもん。」
なるほど、だからか。普通はこんな距離骨折しても不思議ではない。下に人がいなくて良かった。
はっとした。アリオットさんの能力は確かに気になる鏡の世界とはどんな世界なのかと興味もわく。けれどそれとは全く別に気になったのだ。
「そういえば、収容所であるのにまるで牢獄みたいなところですね…」
「入ったのは初めてなのか?」
「逆に入ったことがあるのなら問題でしょうよ」
入ったことがあるのなら私は既に能力がばれて収容所行きしているではないか。
収容所というのはそもそもスパイやテロの防止のため隔離して監視し、共同生活を送らされるといったものを想像していたがために、このような牢獄だとは露にも思わなかった。
「能力者自体が犯罪なんだろ?そりゃそうなるわな」
「確かに、そうなのかも…今まで見て見ぬふりをしていたがためにここまで人権がないなんてショックですね…それにしても何故人がいないのでしょうね」
「いてくれた方がよかったか?」
「そりゃあ…いてくれた方が同胞って感じで安心しますし。」
「ははっなんだそりゃ。…俺も同じだな、いてくれた方がよかったと思う。」
アリオットさんが軽く笑うとポンポンと私の頭を軽く叩く。そうかこの人も能力者か、と思い出し少し安心した。
出会って間もないけれど何だかお兄ちゃんみたいな人だなと感じる。私にお兄ちゃんはいないから分からないけれどいたら軽口を叩き合うけれど、私に安心感を与えてくれるアリオットさんみたいな人なのかなと思った。
「お前の母はもう一階下あたりだろう。人がいねぇとはいえこれだけ派手にやったし気付いてるだろうな。ここだいぶ深いんだろうな、地上施設から呑気に駆けつけられる前に行こうぜ。」
「え」
そう言うとアリオットは再びサーベルを地面に突き刺す。
「いぎゃああああああ」
私はまた女らしくないと評価を受けた叫びで落ちていた。




