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アンインストメルヘン  作者: なせり
第一章
13/39

8

 

 午前九時十二分、アリオットはこの状況を不思議に思っていた。

 自分一人、しかも午後五時からプベルドに行くと聞き及んでいたので。

 何故、リドヴィッグと御陽が着いていくことになったのか。



「目立ったら駄目なんじゃなかったのか?」


 問いかけた先のアリスも心無しか笑顔が引きつっていた。


「そうね、この男の提案というのは気に入らないのだけど朝から張り込んで行った方がいいのかしらと思ったのよ」


 昨日から姉はわりと振り回されていると感じる。

 それもまぁ、リドヴィッグが原因だと分かってはいるのだが。

 リドヴィッグはなかなか掴めない男だ。御陽の事は一番大事であることは分かるが、何もかもを知っているようなのに何も話そうとはしていない。御陽が混乱するから、というのは弁明に聞こえる。御陽が記憶を思い出して欲しくないような。

 ――リドヴィッグの目的は本当は御陽が嫌な事もしくはリドヴィッグが嫌な事を叶えるためなんじゃないのか?


 考えても仕方の無いことだ、それよりかは身内の目的を把握していないのが自分の問題である。

 昨日の話から予想はできている、御陽の父親が姉の想い人なのだろう。目的というのはまぁ、それ関連だろう。

 だが引っ掛かる、姉がいつ御陽の父親と出会うことがあったのだろうか?自分と出会ったように夢の中だろうか。


「なんだか思いつめた顔をしていますね!」


 元気な声をあげた方に向く。

 思いつめる一つの原因は何故こんなに元気なのだろうかと呆れてしまう。


「プベルド、という所はそんなに危険なところではないんでしょう?外国のそういうの初めてで楽しみです!」

「旅行じゃねぇんだぞ……」


 確かにプベルドは隣国のフィパリスと違って能力者を徹底的に排除しようという動きはない。それよりか捕まえようという動きはなく、能力者はそういうものだと認識している。

 だからといって能力者が受け入れられている訳ではない。未知の魔女、恐れる対象として監禁または隔離されたり、子供のうちに能力者と分かればひっそりと殺される。能力者にとって住みやすい環境とは言えないだろう。


 だから今回の件もそういう事だ。

 とある侯爵家の夫人が死んだ。そこに後妻とその子供が来て、直系の血筋の令嬢を虐げている。高貴な身分を虐げるなんてリスクの高い事をと思ったが実は違う。

 侯爵家当主、父親が直々に娘を監禁をしていた。

 そして後妻は当主が娘を軽視していると思ったのか、元々前妻の娘というのが気に入らなかったので便乗をして虐げていた。

 当主の意図はわからない。もしかすると本当に娘が疎ましく思ったのかもしれないし、後妻から守る為に監禁したのかもしれない。

 そして能力者だからこそ監禁されたのかもしれない。


 その能力者かもしれないという理由で今回探りを軽くいれる事になっていたのだが、二人増えたという現状だ。


「というか私の時もリドさんの時もそうなんですけど、どこからそんな能力者がいるという情報を手に入れてくるんですか?」

「私が夢で聞いてくるのよ、でも所詮は人の夢だからアリオットに確かめに行ってもらうの。」


 質問をしてきた御陽にアリスが答えた。

「そうなんですねぇ」と呑気に感心している御陽もいつも通り振舞っているが、どことなく空元気のように感じる。

 こんな面子と自分で果たして上手くやれるだろうかとため息を吐きたくなる。


「でもリドがいるなら舞踏会とか、大丈夫か」

「え?大丈夫かな、行ったことも踊った事もないけど」

「は!?」


 漏らした声に意外な言葉が返ってきて思わず声をあげた。

 隣で余裕のある笑みを浮かべておいて、なんだそれは。お前王子だったんじゃないのか。


「王子とか名ばかりだって言ったでしょ、あぁでも座って微笑んでるだけなら慣れてるよ。役に立つかな?」

「……多少は」


 駄目だ役に立たない。

 そんなアリオットを見かねたのかアリスが声をかけた。


「まぁまぁ舞踏会まで行かなくても目的は令嬢が能力者かどうか確かめるだけなんだし。目的を果たせば目立ってもさっさと逃げ帰ってくればいいだけよ」

「……鏡の前に立ってくれ」


 そう言うと素直にリドヴィッグと御陽が鏡の前に立つ。

 舞踏会に行くことになっていたのは、とある侯爵家のとある、部分を探すためだ。だが舞踏会前に行くとなると話は別だ。



 王都でまず情報収集から入る。





 ****



「とっても賑やかな場所ですね!」


 御陽が目を輝かせながら声をあげた。

 人の殆ど見かけない路地裏に放置されていた鏡から出てきたが、表に出てみると人通りが激しく賑わっていた。

 道はきちんと整備され、人の雰囲気も明るい。

 前にプベルドに来た時は辺境だった為かもう少し静観な場所であったが、王都と比べるとこんなに差があったとは驚いた。


「人が多くて聞き出しは出来そうだけど能力者ってばれそうだね」

「聞き出しなんかしない、貴族の事なんて民は知る事もないだろ」


 なら何故こんな所に来たのか理由は一つだ。

 王都には図書館がある、だがその図書館は学者やその国の貴族など入館できる人は少ない。もちろん俺達は入る事は困難だろう。

 けれども図書館があるということは本に関しては潤沢だということだ。つまりは下町にある古書店、本屋を巡る。




「色々とこなしてきたの?凄く順応だよね」


 リドヴィッグが感心したようにこちらに問いかけた。

 人の流れに添いながら本屋を探す。


「本が好きだったからな、特定の貴族の皮肉った話なんかは名前を変えていても住んでいる環境の描写で分かったりする」

「あれ、じゃあ新書本とかの方が新しい貴族の情報なんかは載っているはずですよね?どうして古書店を探してるんですか?」

「……二人ともちょっと近くに寄れ」


 自分の指示通りにこそこそと二人が近寄った。逆に怪しい気もするがまぁいい。特にリドヴィッグは誰もが振り返るような美形だ。目立ってもいいが話の内容はあまり聞かれたら良くないだろう。


「能力者の事はここでは魔女だ。つまり悪魔と同じ類だ、プベルドでは悪魔を信仰するのも良しとしない」

「まぁ、そうですよね」

「だからその悪魔関連の本は禁書としてこっそりと売られていたりする。」


 その答えが意外だったのか御陽が目をまんまるとさせた。


「嫌われてるんですよね?どうしてそんな本が売られているのですか?」

「どこにでもイカれた奴らはいる。能力者になりたい奴や崇拝する奴、まぁ欲しがる奴らの多くは知識層の学者だがな」

「なるほどね、つまりそういう奴らが弾圧を避ける為に古書店としてこっそり禁書を売ってるってことなんだ」


 リドヴィッグの言葉にこくりと頷く。

 だがそうは言っても古書店を見つけたとして、禁書を売っているとも限らない。そもそも売っていたとして貴族に繋がることが書いていなければ元も子もない。禁書の言語は自分以外は読めないだろうから分散して探すのも効率が悪い。

 マガヒノラの時のように運が良ければいいが、そうもいかないだろう。結局、舞踏会で探しあてる事になりそうだ。


「あれ、ちょっと待ってください!あの橋の下あたりにあるお店、本屋じゃないですか?川の通りだから人が多いので古書店の可能性は低いとは思いますけど」

 「いや丁度いい。折角だから見て行こう」



 無闇矢鱈に探るのはリスクが高いが、逆に本屋を巡っていれば自ずと禁書売りが声をかけてくるかもしれない。

 むしろそちらの方が今の状況ではありがたい。リドヴィッグの目立つ顔でそちらを釣れればと淡い願望を胸に御陽の見つけた本屋へ入った。



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