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天瀬川さんと洗濯物

「遠路はるばる御足労頂きありがとうございます。何のおもてなしもできませんがご自分の家だと思ってくつろいでください」

「自転車で十五分だよ」


 天瀬川さん宅にお呼ばれして訪ねたらこんな具合だった。

 旅館の女将か何かだろうか。三つ指ついてお出迎えどころか、読んでいたであろう本を片手にペコリと頭だけ下げた適当な挨拶だったけども。


 手に持っている本は『実践、オトコを惑わす夏の女子力強化バイブル』。

 今冬だよ天瀬川さん。




 僕が天瀬川さんの家にお邪魔するのは初めてのことではない。

 お嬢様然とした外見に反して至って一般庶民である彼女は、僕の家から一駅ぐらい離れた所にあるマンションの一階に住んでいる。

 先の発言の通り、自転車で通える距離にあるのでお互い気軽に遊びに行けるのは嬉しいことだ。


 親御さん達は留守のようで、リビングに案内されても天瀬川さん以外に人影はなかった。

 テレビでは前に一緒に見た覚えのあるC級パニック映画が一時停止しており、テーブルの上にはポテトチップスの袋が開けられていた。

 なかなか自堕落な休日の昼を過ごしていたようだ。

 ポテチの袋から、天瀬川さんの本を持っていない左手に視線を移すと、指先が欠片で少し汚れているのが見えた。それに気づいたのか、天瀬川さんはスッとその手をこちらに差し出してきた。


「いや舐めないからね」


 天瀬川さんは意外そうに目を見開いた。

 ……一体僕はどんな人間だと思われているんだろう。

 どちらかと言えば舐めたいのは確かだけどもさ。



 終盤からではあったが、僕は天瀬川さんと一緒にソファに座ってパニック映画を見た。

 長年人間に収穫され干されてきた昆布が復讐に走り、人類を次々に昆布締めにしていくという大変恐ろしい話だ。干された昆布はいわば昆布のミイラと言え、ある種のゾンビものでもあるわけだ。

 ラストシーンで殺人昆布達は罠にかけられてダシを取られ尽くして全滅するも、スタッフロール後に鰹節が意思を持って人に襲いかかろうとするシーンで映画は終わっている。


 見ていたのかいなかったのか、本に視線を落としたまま天瀬川さんは言った。


「ちなみにこの映画会社はこの作品を最後に倒産したそうです」

「まぁ……ねぇ」


 潰れた方がいいだろうなぁ。

 というか何で好き好んでこれをまたレンタルしたんだ天瀬川さん。

 映画が終わったところで、本を閉じて天瀬川さんはさてと立ち上がった。


「生地は準備してありますので、クッキーでも焼きます。岩波君はもう一度映画を最初から見るなりしてくつろいでいいですよ」

「見ないよ!?」


 実は結構気に入ってたりするのだろうか。

 では、と一礼してから天瀬川さんはキッチンに入っていき、冷蔵庫を開ける音や器具を取り出す音が聞こえてきた。


 彼女の手作りクッキーとはまたご機嫌だ。

 また手から直に食べさせられるかもしれないが、それはそれで。でもクッキーを口の中で手で潰すとしたらそれはちょっと難易度が高そうだ。

 破片が痛そうというか、粉だらけになるのもいかにも辛い。

 それでも彼女の指が口の中を弄り回す感触があれば耐えられそうではある。


 ……ちょっとお米の時の行為を思い出して体がムズムズしてきた。

 でもあの時の天瀬川さん本当に楽しそうで可愛かったなぁ。

 

 などと惚気じみた思い出し笑いをしていると、キッチンとは別に、廊下の方から電子的な効果音が聞こえてきた。多分、洗濯機か何かだろう。

 天瀬川さんにも当然聞こえたようで、姿は見えないが声が飛んできた。


「岩波君。お客様に対して申し訳ないのですが、今少し手が離せないので、洗濯物を取り出してお庭に干しては頂けないでしょうか」

「いいとも」


 それぐらいならお安い御用だ。

 音から当たりをつけ、廊下の右手の扉に入る。

 バスルームへの入口と洗面台があり、手前に思った通り洗濯機が置いてあった。


「ピンチハンガーは洗濯機の上の棚にありますので使ってください」

「了解……っと、これか」


 言われた場所を見てみると、引っ掛けるフックと四角いフレーム、その下に沢山の洗濯バサミがついている器具が置いていた。これピンチハンガーって呼ぶのか。

 普通の衣類用ハンガーも几帳面に並べてあり、とりあえず大丈夫そうだ。


 洗濯機の蓋を開ける。

 まるで色とりどりの花畑だった。


 ……と、現実逃避したくなる光景がそこにあった。

 パンツ、靴下。洗濯ネットに入ったブラジャー。

 女性用の下着だけが洗われて重なっており、底に密やかに小山を作っていた。

 衣類は入っておらず、洗濯機のサイズに対して勿体ないほど量は少ない。


 頼んできた天瀬川さんには悪いけど、さすがにこれは色々と躊躇うものがある。

 報告のため台所に行くと、天瀬川さんは稼働するオーブンをボーっと眺めていた。

 とても手が離せないようには見えない。


 台所への侵入者に気づいた天瀬川さんは、何事かと首を傾げた。


「下着、しかないんだけど」

「下着しか入れていませんから、必然そうなるでしょうね」


 増えてたら怖いですよ、と当たり前のようにそう言った。

 つまりあれは天瀬川さんの本日の罠だ。

 食い下がろうが頼み込もうが僕は絶対に干す運命になっている。

 とはいえ一応抵抗だけは試みておこう。


「あのね天瀬川さん。一応、なんというか僕には刺激が強いというか。天瀬川さんが干した方が色々と後々の問題がなくなると思うんだよ」


 要するに恥ずかしいので勘弁して欲しいということだったが、そんなことは当然天瀬川さんにも分かって仕組んだことだろう。

 彼女はさも落ち込んだかのように俯くと、溜息をついた。


「岩波君は私の臭い足に鼻息を荒くして興奮するくせに、洗濯したての下着は汚くて触ることもできないと、そう言いたいのですね」

「そんなこと言ってないよ! というかそんなに臭くもなかったし、むしろ」


 天瀬川さんは即座にスマホを取り出して、僕が彼女のストッキングに包まれた足指に鼻を埋めている例の脅迫写真を構えた。

 分かりました、干します。

 諦めて洗濯機の前に戻ってくると、天瀬川さんもトコトコと後ろをついてきた。

 やっぱり暇なんじゃないか。


 改めて洗濯機を覗き込んだけど、当然中身が変わるはずもなくカラフルな下着が散らばっていた。

 どれから手を付けたものか悩んでいると、手を貸してくれるわけでもなく隣で眺めている天瀬川さんが解説をしてくれた。


「私の今週一週間分の下着です。今日是非岩波君に干してもらおうと溜め込んでおきました」

「そっか……よくご家族に変に思われなかったね」

「母に理由を話したら納得して応援してくれましたので」


 何なんだ天瀬川家。


 暗澹たる気持ちでとりあえず一番刺激の少ない学校指定のソックスをつまみ上げる。

 端を洗濯ばさみで挟んで、洗濯で丸まった爪先を引っ張って伸ばす。

 まぁ、これぐらいなら何てことはない。どんどん干していこう。


 しかし、こうして彼女の足を包んでいた靴下に触れていると、この前の足裏マッサージの光景や香りが鮮明に思い出されてくる。

 ……綺麗だったなぁ、天瀬川さんの足の指と側面のラインとふくらはぎ。

 こっちからお願いしたらまたマッサージさせてもらえるものだろうか。


 などと思い出していると、天瀬川さんがすすっと近寄って髪がくすぐったいほどに耳元に顔を寄せた。


「ソックス」


 吐息混じりの色っぽい囁き声が耳を支配した。

 その甘やかな声と語感に力が抜け、靴下を取り落とした。


 天瀬川さんを振り向くと、自分は悪くないとばかりにふるふると首を振っている。


「いえ、岩波君が手に取ったそれの名前を親切心で教えてあげようと思っただけです」

「何でちょっと妖しい感じに囁いたの!?」


 まったくもう。時々こうして子供っぽいからかいもしてくるのが可愛い。

 妨害にも屈せずなんとか靴下は全てハンガーに吊るした。残りは……問題の下着類だ。


 チラと天瀬川さんを窺い、何もしてこないのを確認してからブラジャーをつまむ。

 どう干したものか。


「適当でいいですよ、洗濯ばさみでどこか固定すればそれでいいです」


 分かりました。

 ……いきなり黒くて手触りのいい大人っぽいブラだ。他にも、シンプルな白いの、ミントグリーンで真ん中にリボンがついてるの、淡いピンクでレースがたくさんついてるの。

 これらが彼女の多分柔らかな胸を包んでいたと思うと、洗いたてとはいえ強い興奮を感じる。

 これがもし洗う前なら、間接的に胸に触れたことになっていたのだろうか。

 そんな思考を見抜いたように彼女はポツリと呟いた。


「岩波君的には洗う前の汚れ物の方が嬉しかったですか?」

「な、何のことかな」


 震える手でブラを次々挟んでいく僕を、天瀬川さんはどこか冷たい目で観察している。

 危ない危ない。心を無にして作業に集中しなければ。


 続いては……女性用パンツ、ショーツというやつだろうか。

 最初に触れてしまったのはまたもや黒の、大分布面積の少ない代物だ。

 かなりアダルティーで、とても普段の彼女の様子からは想像できない。

 一週間分、ということは、制服の下にこんなに際どい下着を穿いて学校で優等生然として悠々と歩いていたのだろうか。

 なんだか凄くモヤモヤする。


「それは先日岩波君のお家に伺った時に穿いていたものですね」


 ああなんだそれなら……ってこんなものを穿いて部屋に二人きりでいたのか!

 また別種のモヤモヤが湧いてくる。いや、装備中のこれを見るような事態になれば天瀬川さんは容赦なく通報しそうではあるのだけど。


 なんとなく、端っこをつまんで震えながら挟む。堂々と真ん中を持つことなどできはしない。

 何しろこの小さな布が包んでいたのは天瀬川さんの……いや言うまい。

 とはいえ、目を閉じて作業することもできず、しっかりと目には焼き付け、こんな作りになってたのかなどと感心してしまう。母親のなんて注視する機会もないし。


 そうして順々に何とか挟んでいき、最後に残ったのは先のブラと合わせるような薄ピンクでレース付きの、可愛らしくも豪奢なショーツだった。

 それをピンチハンガーの端に挟む。

 やり遂げた達成感どころではなく冷や汗を流す僕に、天瀬川さんが追撃をかける。


「天瀬川診断によると最後に残した一枚が、岩波君が潜在的に最も興奮を感じる下着です。なるほど、こういうのがお好きなんですね」

「た、たまたまだよ!?」

「お嫌いですか? これと、そうですね、そっちの同じ仕立てのブラをつけた私の姿を想像してみてください」


 そんな想像なんてできるわけが……

 ……

 …………


「いやらしい」

「たまに天瀬川さんは理不尽だね!!」




 なんとかミッションをこなした僕は、一階ということでマンションにしては広い庭の物干し竿にハンガーをかけた。

 穏やかな風に天瀬川さんの下着がふわふわと揺れる。

 今日は季節の割に陽射しは強く、下着ぐらいならすぐに乾きそうだ。


 それからは至って平和な休日の午後だった。


 無事に焼けたクッキーを天瀬川さんの掌から食べさせられ、欠片を『唇は触れずに舌だけで』という条件で綺麗に舐めさせられた。

 とても美味しかった。


 その後は再び殺人昆布の逆襲を冒頭から通しで視聴する羽目になり、やはり本から一度も顔を上げない天瀬川さんから「怖いので足を握っていてください」と意味の分からないことを言われ、今日はもこもこした靴下を履いている天瀬川さんの足の感触を味わった。

 見終わった後に自分の手を嗅いでみたけど、残念ながら匂いはなく、その様子を天瀬川に気付かれ、しばらく睨まれた。

 

 うん、平和だ。

 そして平和はそこまでだった。




 もう昼よりは夕方に近い時刻になって、天瀬川さんは庭の方を示した。


「そろそろ乾く頃です、取り込みましょうか」

「了解了解」


 干した洗濯物は取り込む。

 とても自然な流れであり、僕は疑問など抱く余地もなく、彼女の指示に従った。


「では、部屋のタンスにしまいますので、畳んでください」


 彼女の策謀がまだ終わっていないことにそこでようやく気づけたのは間抜けという他ない。

 干した、取り込んだ、ならば畳んでからタンスにしまう。当然のことだ。


「えーっと……畳み方がちょっと分からなくて」

「まぁ、私は別に適当でもいいのですが……教えますからお願いします」


 逃げることはもちろん許されず、僕は言われるがままに彼女の部屋までハンガーを持っていった。

 小物やぬいぐるみなどはあまりない、比較的簡素なのが天瀬川さんの部屋だ。

 親御さんがいる日などは大体ここで一緒に時間を過ごすので、やはり初めてではない。


 タンスの前のカーペットの上にすっかり乾いた下着を広げていき、その前に座らされた。

 隣にちょこんと天瀬川さんが座る。割と、体温を感じるぐらいに近い。


 まずは見慣れた学校指定のソックスを一組ずつに分ける。

 一足だけ余ってしまった……などということもなく、五組分、それと余所行きの靴下二組に無事分けられた。


「二足揃えたら爪先側を右として、左のゴム側の角を小さく三角に折ってください」


 靴下に手を乗せて少し迷っていると、天瀬川さんの手が僕の手首を握った。

 少しひんやりとして柔らかい、吸うと可愛い反応を返す指だ。

 天瀬川さんは僕の手を操って、先ほど説明したように靴下を折らせる。


「こうしてできた三角の内側の辺に沿ってどんどん折っていきます」


 ぱたん、ぱたんと三角形が分厚くなっていき、最後に爪先が余った。

 天瀬川さんの足指が触れ続けた爪先だ。


「いやらしいことを考えると脈が速くなりますね、岩波君は」

「ぜ、全然考えてないよ」

「まぁいいです……畳んだ断面に爪先を入れて、完成です」


 靴下はコンパクトにおにぎり型にまとまった。

 なるほど、固結びみたいに一回ギュッとする僕の適当な畳み方とは随分違う。


「じゃあ他のも同じようにするからもう手を離しても……天瀬川さん?」

「お気になさらず。一緒に力を合わせて畳もうではないですか」


 そう言って再び僕の手を操って靴下を畳ませていき、爪先に触れる段階になってやはり脈を測って横目でじーっと見てくる。人を足先フェチの変態みたいに扱わないで欲しい。

 天瀬川さんのなら土踏まずもかかとも大好きだ。


 無事に靴下は全て畳み終え、次に手を導かれたのはショーツだ。

 今度は端っこだけを触るというわけにもいくまい。天瀬川さんに言われるまでもなく脈が速まるのを感じた。こればかりはどうしようもない。

 まずは白くて簡素な、パンティーと言って浮かぶような一枚から畳むことになった。


「上下二つに折って、真ん中に寄せるように三つ折りにしてください」


 そう言って、ショーツの最下部、一番色々と考え込んでしまいそうな股布に手を誘導される。

 僕の指が触れた。


 天瀬川さんが体を寄せ、少し切なそうな息を吐いた。


「そういうドッキリはやめてもらえるかな!?」


 見てみれば天瀬川さんは至ってフラットな無表情で、切なさの欠片も見えない。

 表情の変化は少ないけど感情が乗ってくると結構分かるものなので、今は完全に僕をからかうモードでしかない。


「喜ぶかなと思ったのですが」

「少なくとも脈は上がったよ」


 まぁ、嬉しくなくは、ない。


 二つに折った後は左右の端を真ん中に畳む。随分と簡素だが、考えてみれば下着をそんなに小さく小さく畳んだら傷んでしまいそうだし、こんなものだろう。

 ……しかし女の子のパンツって手触りがさらさらして、男物のトランクスやボクサーとは全然違い、こんなものが今も天瀬川さんのスカートの中、下半身を優しく包んでいると思うと。


「今とてもいやらしいことを考えましたね。謝ってください」

「すいません」


 考えさせたのは誰だという文句は彼女には通用しない。


 股間に、もとい股布に触れるたびに息を漏らす天瀬川さんに翻弄され、苦心しながら、ショーツもなんとか全て畳み終えた。

 最後はブラジャーだ。

 薄紫色のまた随分と派手なブラジャーを持たされる。


「まずカップの形を整えてください」


 言われてもいまいちピンと来なかったが、ブラジャーの内側に手を持って行かれ、胸の膨らみの曲線となる部分を外側に押して丸く整えることだと体で教えられた。

 ……下着はぴったりなサイズを選ぶのが大事って物の本で読んだけど、つまりこの膨らみこそが天瀬川さんの胸の形と大きさなわけで。ああやっぱり着痩せするというか結構大きいなぁ。


「怒りますよ」

「怒っていいところじゃないよね!?」


 多分、僕がドキドキしなかったらもっと怒る。

 ああでも触りたいなぁ胸。

 待て落ち着け僕、度重なる刺激で煩悩がダダ漏れになってる。


「次にホックを留めて、ストラップをカップの中にしまったら、後は形を崩さないようにタンスにしまいましょう」


 ホックなどこれまでの人生で留めたことがないので、カチャカチャと何度も失敗する。

 さすがにそれで天瀬川さんが怒ることはなかったが、手首を優しく握ったまま、苦闘する僕の顔をじーっと見つめ続けていた。

 畳む、というか整えて揃え、ブラジャーの対処も無事に完了した。


「お疲れ様でした。下手ですが頑張りましたね」

「どうも……教えてもらって活かす機会があるかは分からないけどね」

「何を言っているんですか。油断した頃にまた一緒にお洗濯させますよ」

「させるんだね」


 いやまぁ、触って嬉しい布の数々ではあったけど。


 あとはタンスにしまうだけだ。

 靴下は一番上の小さな引き出し、ブラとパンツはその下だと教えてもらい、タンスを開ける。

 ……タンスの中は当然、さらに色とりどりな下着が出迎えてくれ、いっそその中に飛び込んでしまいたいような気持ちになる。

 畳んだ下着を、既に収納済みの他の下着の入れ方に倣って収めていく。

 ブラが七枚、パンツが七枚、靴下が……六組しかなくて、おやと首を傾げる。


 天瀬川さんの方を見ると、残りの一組の余所行きの靴下を机に置き、自身は今まで履いてた靴下を脱いで、眩しいまでの裸足をウェットティッシュで丁寧に指の股まで拭いていた。

 裸の、足である。

 一瞬、今日一番理性が飛びかけたけど何とか耐える。耐えた。


 僕の視線に気づいた天瀬川さんは、ティッシュをゴミ箱に捨てると、先程洗って畳んだばかりの靴下をゆっくりと、いやらしいほどゆっくりした動きで履いた。

 そうして靴下に包まれた足裏を僕に見せつける。


「岩波君さえ良ければまた交替で足のマッサージでもして遊びましょう。足も靴下も完全に綺麗にしましたから、今度は本気で嗅いでも大丈夫です」


 天瀬川さんは時々とても根に持つ。


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