表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

夢を見た。

作者: 松田葉子

夢を見た。

あの人が出てきた夢を。


あの人とキスをした夢だった。

ドキドキして、それでいてとても幸せな気持ちだった。

もっと見ていたかったのに、現実はそうもいかなくて。

私はちょっと残念に思いながら、出掛ける支度をした。

通勤中の電車内で「貴方が夢に出てきたよ。キスをしたの。周りが見えなくなるくらいに浸って、幸せな気持ちだったよ。」とSNSのあの人のアカウントにDMを送った。



夢を見た。

あの人が出てきた夢を。


今日はファンタジーな夢だった。

あの人を探す旅に出たの。

最後に行き着いた場所であの人に出逢えた。

遂に逢えたと嬉しくて抱き合ったところで、目が覚めた。

夢だったけど、達成感に溢れた気持ち。

今日はいい気分で支度。

「また貴方が夢に出てきたよ。ファンタジー系の夢だった。今まで見たこと無かったから楽しかったよ。貴方を探す旅に出て、無事に会えたの!」とあの人にDMを送った。



夢を見た。

あの人が出てきた夢を。


おっきなベッドで私とあの人、寄り添って寝ていたの。

あの人の顔が目と鼻の先にあって、ドキドキ。

そんな私の様子を見て、あの人は微笑んで抱き寄せてくれた。

幸せ・・・と思っていたら、また目覚ましに邪魔されて、ちょっぴり不機嫌で支度。

「久々に夢に貴方が出てきたよ。同じベッドで一緒に寝てたの。幸せだったのに、目覚ましに邪魔された(笑)」とあの人にDMを送った。



夢を見た。

あの人が出てきた夢を。


私とあの人の共通の友達の男の人Kさんに、私襲われそうになったんだけど、間一髪のところであの人が偶然部屋に入ってきて、救われたの。

今日は目覚ましが鳴る前に起きた。

それにしても何でKさんに襲われる夢なんて見たんだろうと苦笑いしてしまった。

「今日ね、Kさんに襲われそうになる夢を見たんだけどね、間一髪のところで貴方が偶然部屋に入ってきて事なきを得たの。ピンチを救ってくれた貴方は私の王子さまです!(笑)」とあの人にDMを送った。



夢を見た。

あの人が出てきた夢を。


あの人と部屋で映画を観ていて楽しいなぁと思ってたら、場面が変わって、二人で外にいたの。

そしたら向こうからピエロの格好をした人が来て、ピストルであの人を撃ったの。


何が起こったのか、分からなかった。


あの人が地面に膝を着けるまで、スローモーションになった。

あの人が倒れてから漸く我に返って、あの人を抱き起こした。

顔は青ざめて目は虚ろになっていた。

あの人が死んでしまう?


嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ


あの人が死んでしまうのを見たくなくて、そのときにはもうこれが夢だと自覚していたので、無理矢理目を覚まして現実に戻った。

私は汗をびっしょりかき、心臓はバクバクと早鐘を打っていた。

どうしてこんな夢なんか・・・っ。

スマホを手にして時間と日付を確認した。


・・・そうか、今日はあの人の命日だ。



命日なんてものは忘れようと思って、日々生活していたのに。

あんな夢を見てしまったせいで思い出してしまった。

去年の今日、あの人は線路に足を挟んで動けなくなってしまった子供を助けた。

けど、あの人自身は避けるのに間に合わず・・・・・・。


涙がボロボロと溢れてきた。


あの人は死んでしまった。


またこの現実を直視してしまった。


死んでからもSNSのあの人のアカウントは残されたままで。

だから私はあの人の出る夢を見た度に報告のDMを送っていたんだけど。

それがあの人自身に読まれることはなくて。

私が送るだけで。



ダメだ、こんな状態でとても会社には行けない。

申し訳ないけど、休みを取ろう。

貴方のお墓参りに行くよ。



あの人のお墓の前で手を合わせて、心の中で話し掛けた。

「貴方を忘れることが怖い。だから貴方が死んでからもDMを送ってしまうのかもしれない。こんな私のこと、変な奴だと貴方は笑うのかな?」



昼前に帰宅し、横になったらいつの間にか寝ていた。

そして、夢を見た。

あの人の出てきた夢を。


あの人は私の両手を取り、真剣に話してくれた。

「僕のことを忘れたくないと思ってくれたことは、とても嬉しいよ、ありがとう。

僕はね、人間が死んだときっていうのは、魂が、肉体が無くなったことを指すものだと思っていないんだ。

本当に死んだときっていうのは、誰の記憶にも残らない、何の記述も無くなったときだと思ってるんだ。

だからもし、誰かと僕の話題が出たとしたら、止めないでほしい。

例えそれが悪口だったとしても、僕は有り難いなと思うよ。

・・・僕は君のことが好きだよ。

いつも見守ってくれてありがとう。

明るい君に何度も救われたよ。

どうか、幸せになって。

それが僕の、君に対する願いだよ。」

あの人はニッコリと笑った。



目が覚めたら、泣いていた。

これが、あの人を見る、最後の夢になってしまうのだろうか。


忘れたくない。


死なせない。


私はパソコンを開き、今見た夢の一部始終を綴った。

打ち込んでる間、涙が止まらなくて、何度も手の甲で涙を拭った。

終わる頃には涙は収まった。

明るい君に何度も救われたよ、とあの人は言ってくれた。

夢だけど、それでも、私はあの人の為にも明るさを取り戻したいと、幸せになりたいと思ったから。


明日からまた、ちゃんと働こう。

ちゃんとご飯食べよう。

ちゃんと遊ぼう。

ちゃんと親孝行しよう。


あの人に胸を張って「幸せに生きたよ!」と伝えたいから。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ