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金木犀〜君と一緒に駆け抜けた夏〜  作者: 日下部けいた
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STORY⑧ 6人の絆

STORY8 6人の絆






六人でのキャンパスライフが始まって数日、毎日笑いで絶えなかったっけ…。




朝9時5分前。



駐車場に一番近い喫煙所。



「ねぇ!ケイター!早く行かないと講義遅れるって!早くしてよー!」


腕時計をみながら、焦りを隠せないまりえ。


「ちょっとだけ待ってって!!あと10秒!ほんとっ!10秒!」

思いっきりタバコの煙を口に含む俺。


「もぉーっ!さっきもアパートで吸ったばっかりじゃん!」

頬っぺたを膨らますまりえ。



「おーいっ!ケイタ!おはよーさん!最近お前遅刻しなくなったなぁ!やっぱ!まりえがいると違うなっ!」

なぜか朝から特に機嫌のいい健三と、いたっていつも通りのレミだ。



「はぁーっ!?うっせーしっ!お前!なんかいい事あったなっ!?わりぃけど!俺らは先行くぞっ!」

吸殻を灰皿にもみ消す俺。


「えぇっーー!!一本ぐらいタバコ付き合えよっ!」


「無理っ!もぉ吸ったしっ!今まりえに急かされてたばっかだしっ!レミよっ!健三だけ置いて行くべっ!」



「行こっ!行こっ!!タバコなんてやめればいいんだって!このっ!バーカ健三!!ってか!あんたもだかんね!ケイタ!!分かってんのっ!?」

とレミ。



「はぃ…。すいませんね…。」

少しシュンとする俺。


「まぁまぁ…。レミ…。席も取らないとだし、私たちだけで行こうよっ!」


「もぉーっ!」



すると。



「おーいっ!!ケイタ!健三!おっ!みんなもいんじゃんっ!!」


たまたま駐車場で会った康太とカズサだ。


「なぁー!健三!一本付き合ってくんねー?ケイタも一本ぐらいいっぺ?まーだ時間あるしっ!」

と、タバコに火をつけながら康太。



恐る恐るまりえとレミを振り返る俺。



その状況を


「えっ…!?俺なんか悪い事言った…?」


自分が放った言動に、心配を隠せない康太。



「もぉーっ!男っていうか、喫煙者って何でみんなこうなるのっ!?ねぇー!まりえ!」


「ほんとだよっ!」


まりえとレミは口を揃える。





健三が突然、レミに視線を向け慌てて発した言葉。



「あーっ!レミ!あとで売店で、特製生クリームプリン買ってあげるからっ!許して!」

咄嗟に機転の効く相棒の言葉。


「えっー!?ほんとっ!!!?んぢゃー!許すっ!!絶対だよっ!!絶対!お昼の時ね!まぢで!絶対だよっ!」



話の流れが全く分からない康太、そして一部始終の流れを知る俺とまりえ。


レミの食べ物に釣られやすい性格を目の当たりにし、健三のレミ扱いの上手さに俺とまりえは苦笑いするしかなかった。



だいたい朝は、こんな風に始まる毎日。

謙三はレミと、兄と妹の様な関係性を保ち、俺はまりえと恋人同士に発展し幸せ真っ只中。

そして、康太とカズサは余り物同士ではないが、何となく関係性が合致する様な感覚があった。


以前は、3対2という比率だったグループ。康太が入った事によって男女比が同等になり、人数的にしっくりくる関係性だったのかもしれない。


それでも、この時点で康太とカズサの関係だけは、少しハテナマークが点灯していた。


この康太とカズサの関係を皮切りに、後々グループ存続の危機を起こす事となる。



二限の講義が終われば、カフェ集合。

講義を抜け出して、いち早く謙三が、六人分の座席確保に行く。












「はい。今日はここまで。」


と、講義の終了を告げる教授の言葉。


この言葉が発せられると、今まで静まり返っていた講義室内が、一気に別空間へと変貌する。




ガヤガヤガヤガヤガヤガヤ。





「あぁ…肩痛いわぁ…。ぜんぜーん!内容わかんねぇわぁ!」


「毎回聞いてないと理解なんてできるわけないじゃん!てかっ!久々にケイタ寝なかったじゃん!」


「昨日けっこう寝たしなぁ。ってか俺もたまーには真面目にやっからっ!ところで謙三は?」



「どぉせ、さっき抜け出したからカフェでしょ?」





五人でカフェへと向かう。




「お前、いつの間に?つーか、飯食うの早っ!」


「だって、昼時は混むからよー。しかもよ!腹減ったしよぉー!」


「しかもっ!なんだそれぇー!その大盛り!」


「席取っておいただけでも感謝しろって!!」





四人で計画を立てていた、伊豆旅行に、まりえも康太も行くことになって、楽しみも二倍、三倍に増えた。





俺とカズサの微妙な空気、いつの間にか出来ていたしがらみも消えて、カフェテリアでの会話が四人出会った頃の様に、いや、それ以上に盛り上がっていた。




「ねぇ〜、男三人部屋と、女三人部屋に変更するよ」とレミ。




いつの間にか、レミが幹事になっていた。

レミは将来、福祉のツアーコンダクターを目指していた。考えてみれば、旅行に行く度綿密な計画の元に動けたような気がする。


「そぉだねぇー。まりえとケイタは一緒でもいいかもだけど、部屋数多く取らないとだしね…。」


とカズサ。


「いや、それはいーって!皆で、行くんだし!男3、女3で変更してくれよ!まりえとは、いつでも行けるしよ!なっ!まりえ」と俺。


「うん!そぉだよぉ〜!ホントっ!気を使わないで!康太君も一緒に行く事決定したし、皆で楽しもっ!」とまりえ。


「あっ!そーだそーだ!いっそぉのことよぉ!この6人で旅行サークルでもつくっちゃうかぁ!来年は一年生も入ってきて、人数増えるかもしんねーしなぁ!最高楽しみじゃねぇ!」

と健三。


「いーねぇ!でも、資金調達とか、貯金しないとね…。」

とカズサ。


「バイトかぁ…。私、掛け持ちでもしようかなぁ…。」

とレミ。



旅行話で盛り上がる五人とは対照的に、康太一人だけ浮かない表情。



俺はその様子に薄々気づいていた。



「どしたぁ?康太…。」


「あっ?いやっ…。こんなに、楽しくて、楽な仲間ってできるもんなんだなぁ…。もっと早く出逢いたかった。皆となぁ!」と笑った。



と、康太の携帯に、栃木の市外局番の0287の番号から電話が入る。


「はい。もしもし。 はい。そうです。 はい。 はい。今日午後一番に。はい。わかりました。すいません!周り騒がしいので、少し待って頂けませんか?」


かしこまった会話の康太は席を離れた。


俺は康太を心配になり、咄嗟に別な通路を使い、康太の後を追った。


一連のやりとりを終えた康太。電話を丁寧に切り、大きくため息を吐く。





(あいつ…。この前の喧嘩の件なんかなぁ…?)

と壁に隠れながら考え込む俺。






すっかり気を取り戻し帰ってきた康太に健三が。


「どぅしたぁ?」


「あっ…。いやぁ、ちょっと、バイトの件で、連絡あってよぉ…。バイトあがったみてぇだ!さぁてぇ!俺も気合いいれてバイトだっ!」


「おっ!良かったべ!でもお前あんま無理すんなよっ!」


「分かってる!分かってる!でも!そんなヤワじゃねぇって!」



康太は何か隠すように、誤魔化した。




まりえはすぐに、状況を悟った様だった。




その日の午後。



康太の後を相棒とまりえと三人でそっと追いかけた。


やはり、警察署だった。


30分後、康太はトボトボと警察署から出て来た。



健三が康太の後ろから待ち伏せて、不意をついて肩を叩く。



「康太!水くせぇじゃねーの?」


康太は皆に迷惑かけたくなかったのだろう…。


「おぉっ!びっくりしたっ!」


「康太!お前なんで警察署なんだよ!?警察署でバイトすんのか?」



(健三…お前は馬鹿かっ…。普通に考えれば分かるだろ…。)と心の中で。


「いやっ!そんなわけねーだろ!喧嘩の件でさぁ…。あの喧嘩は、俺がほとんど悪いからよぉ…。それに…皆楽しそうに旅行の計画立ててるとこに、こんな話題持ち込みたくなかったんだわぁ…。」


「あっ!そぉいうこと言う?俺ら仲間じゃねーの?さっき言ってたばっかじゃん!」と俺。


「康太!お前よ!そこで俺は知らねーなんて言うかよっ!つーか、なんで俺にはお巡りから、連絡入んねーんだべ…?」


と、謙三。


「いや、謙三はよぉ…。救急車乗んなかったべよ!んで、俺は次の日、病院までお巡り来て、丁寧に調書取っていったからよぉー。」


と、康太。


「あー!なるほどなぁ…。つーか俺も同罪だべぇー!今から出頭してくっかなぁー。」


と、謙三。


「って、お前はバカかっ!今、康太だけで、おさまってんのに、更に事を大きくすんなって!」


と、俺。





警察署の玄関の階段に四人座りこんで話し込む。


「いーから、言ってみろって!何がどうなってんだって!」


と、健三。




「店の椅子とテーブル壊したやつ、2セット弁償だってよ。お店側が、この条件を飲まないと大学側に責任を取ってもらうしかないって…。しかも俺金ねーし…。大学にバレたら俺退学だべなぁ…。」と重々しく康太は口を開く。



「なーんだ!そんなことかよぉ!」

と俺。


「ケイタ!お前!なんだよっ!そんなことって!」

少し怒り口調で健三。



「いや!わりぃ!そんなことか!って、言われたら、他人事だって、ムカつくかもしんねーけど、俺!いい事思いついたわっ!しかも、あんなセット、5、6万でしょ?」と俺。



「あー…。そぉーだなぁ…。バイト掛け持ちするしかねーなぁ…。」


康太は肩を落として、心理学の講義に戻った。


俺はすかさず、康太が車に乗り込んだ事を確認して、車に戻りフラワーのマスターに電話した。



まりえも助手席に乗り込み、俺の会話を聞きながら微笑んだ。





その夜、相棒とまりえ、俺は、康太を無理に誘いだした。









午後19時、フラワー。



「なーんだよー!押すなって!だから!俺金無いって言ってるだろってっ!?」


「大丈夫だってっ!」


「いーから!いーから!早く入れって!」

フラワーの玄関先で無理矢理康太を店内に押し込もうとする俺と健三。


「いらっしゃいっ!今日は大勢だわね!」


「どぉも!マスター!ここの席大丈夫?」


「好きな所座っていーよぉ!なーんか、ニューフェイス増えたね?」と笑顔のマスター。


「こっちが康太で、あっ!マスターにはまだ言ってなかったけど…。やっーと付き合えましたよっ!渦中のまりえです。」

と紹介する俺。


「なーにそれぇ!渦中って!そんなに私の話してたのぉ?」

と少し恥ずかしそうにまりえ。


「まぁまぁ…結果オーライでしょ?よろしくねぇ〜康太君!なかなかイケメンねぇ!まりえちゃんもおめでとう!なんかお祝いしないとね!」とマスター。



「とりあえず生を三つと、レゲパン一つ」


「はーい!ちょっと待ってねぇ!」


一時間くらい飲んだだろうか…。



健三と俺がカウンターに座り、開口一番。


「マスターに、折り入ってお願いがあるんですっ!」


「なーにぃ?そんなかしこまって…。あっ!ケイタ君、昼間の電話のことね…?」



「俺らに週一日でもいいから、バイトさせて下さい。お願いします。」

と俺。


康太は呆気にとられ、


「はぁっ!?なんで!?しかも俺らって?」


「いーから康太は、黙ってろって!」


と健三。


マスターには、昼間、警察署の駐車場で、先日あったイザコザの件を何と無く話していた。


「よーしっ!わかった。ケイタ君からも、事情は聞いているし、常連以上のケイタ君からのお願い却下するわけに行かないでしょ?」



「マスターありがとう。俺ら、大学の掲示板で、フラワーのこと紹介するし、飲み会もフラワーってゴリ押しすっから!」と俺。


「わかった、わかった。じゃぁ、それで始めましょっか。詳しく決めないとねぇ。」


と微笑むマスター。



呆気に取られ、理解ができないでいる康太。

まりえが康太に、あえて理由を説明してる。



「ねぇねぇ!康太君!ケイタと、謙三君は、康太君の弁償代を、ここで働いて稼ぐみたいだよ。ただねぇ…。それだけじゃなくて、昼間旅行サークルの話もあったじゃん?その資金調達もあるみたいだけど。なーんか、頭無いなりによく考えてるみたいだね」


とまりえ。




「イェーイ!健三!俺偉業を達成した気分だっ!康太良かったべ!これでとりあえずは一件落着だべやぁー!」


俺らが盛り上がって席に戻ると、康太はうつむいて、


「皆、ほんとにありがとう…。なんて感謝したらいいか…。言葉になんねーよぉ…。」


と少し涙ぐんでた。






カランカランカラン。





「まぁ、そぅメソメソしなさんなって!これからだよ!皆で協力するのは!」


どこかで聞いたことある声だ。しかも妙な名古屋弁混じりの。

のれんの方に顔を向けると、レミとカズサが立っていた。


「とりあえず!カズサ入りまーす!マスター!生泡無しで!なーんだ!皆水くさくない?仲間でしょ?私達にも、手を貸させてよ!」


とカズサ。


「今、のれんの外で、聞こえちゃった。しかも!全部!だって、ケイタたちの声でかすぎるんだも!」


とレミ。


「レミは?レゲパンかなぁ?お願いしまぁす!」


とカズサ。


六人一緒になって、再び飲み開始。



「ケイタ!なんであんたは、こういう大事な事みんなに言わないかな?」

とカズサ。


「いやっ!正式に決まったら報告しようと思ってたからよぉ!」


「まぁまぁ!とりあえず、6人揃ったわけだし!これからの事も相談しながら、飲み直すべ!」

と健三。


「お前!いーことたまには言うじゃん!」


「うっせぇっ!ケイタ!」



笑い声は深夜まで絶える事はなかったっけ。


通常、12時閉店だったが、マスターが気を使ってくれて、深夜2時くらいまで飲みは続いた。



勿論、康太はハメを外し泥酔。


「俺さー…。みんなの前で死んでもいいわっ!」


「お前はバカかぁっ!これからだって言ってんのにっ!」


カズサは口が悪くなり、健三と仲の良い口喧嘩。


「健三!テメェはいつも事後報告なんだよっ!」


「その言葉、絶対カズサだけには言われたくねーなっ!」



俺とまりえとレミは、その光景の傍観者。


(まーた…始まったな…。)


と三人同時に思わされた夜。


最高に幸せな思い出が六人の心に刻まれていく。



六人の夏の夜は、こうして更けていった。


もしも…あの夏に戻れる術があるのなら何もかもいらない…。




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