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11、新学期

11、新学期


 謹慎期間を終え、ぼくは新学期の前日にドーワくんに会った。顔つきが変わっていた。見ないうちに背が五センチも伸びていた。彼は明日から学校に行くと宣言してくれた。

 文芸サークルのおじいさんとは初対面。この方とは教師と生徒の関係性について語り合った。今の時代、「スクール☆ウォーズ」や「金八先生」のようには簡単にいかない。現役時代、不良たちに鉄拳をかまして問題視された教師を知っていると彼は言った。

 協調性を保てて、個性も尊重できて、安全性も保障できて、問題が起きても冷静に対処、平和的に解決できて――なんていう学校は一教師の力だけでは困難だと渋い顔だった。とにかく、抱え込み過ぎて胃炎を起こさないことだとアドバイスを受けた。

 衝撃の事実だったのが、彼の父親も教師で、幽霊児童の臨時教師を引き受けた経験があるということだ。赤紙をもらって戦地に行ったはずが閻魔庁にいて、それで鬼に幽霊児童の教育を命じられたという。数ヶ月経って、気づけば今度は陸軍病院のベッドの上だった。臨死体験そのものだった。

「そのせいか、私も霊感があるんですよ。姿は見えないんですが、大きさなら感覚でわかるんです。磁石が反発しているような、そんなもやもやっとしたものを感じることができるんです」

 ドーワくんが初めて喫茶店に来た際も、もう一人子どもが入店したと感じたという。コウシュウちゃんだろう。おじいさんは始終ニコニコしていた。おそらく、この時も彼女がいたのだろう。


 新学期当日。桜は三分咲きといったところだった。ぼくは校舎前に立って考え事をした。

 久々の朝の学校は不思議な気分だった。本当に時間帯はあっているのか何度も腕時計を確認した。

 桜の咲き具合がぼくの中途半端な気持ちを表しているようだった。これから相手をするのは生きている子どもたちで、これから身も心も大人になっていく子たちだ。

 ぼくを見てみんながどんな反応をするのか、どう迎えてくれるのか不安でたまらなかった。帽子をかぶっていなかったから、ハゲを指摘されるのは明白だったけれど、そんなことよりもビンタされたことをずっと恨んでいないかとか、クラスが別だった子たちも怯えやしないかとかと考えた。

 A氏は未だにぼくの復帰を大反対していた。何かにつけて目くじらを立てられては、この学校ではやっていけないかもしれなかった。結局、一年後にはH小を離任してN小に行くことになるのだけれど。

 建設的にあれと心に言い聞かせていながら、あと一歩が踏み出せずにいると、膝かっくんを食らった。振り向いても誰もいなかった。代わりに風が吹いて、ぼくはうなずいて歩き出した。

 メグミ一人じゃ頼りねーや! と、心配して戻ってきてくれたワガヤくんが後押ししてくれている気がした。


 あの卒業式以降、コトブキ先生とは一度も会っていないが、何度か松方さんのところに顔を出して思い出話をしている。おしゃべり好きな幽霊たちの姿は見えず、はて、ここの寺ってこんなにも広かったかしらんと、やっぱりさみしい思いをしてしまう。

 卒業というのはそういうものでしょう。松方さんは諭した。

 それから、ワガヤくんがただの霊ではなくなっていると教えてくれた。まさか座敷童かと思ったけれど、まだ経過途中でわからない。ワガヤくん次第だ。家の守り神になってくれたらとても心強いのだけれど、大黒柱はメグミだろと言われそうだ。

 ちなみに松方さんは現在、警備員を引退している。またあの学校も、校長が代わってしまったことでGBEの指定から外されている。


〈了〉

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