完成した私
30分小説?いいえ駄文です。
上記のサイトに投稿した小説を加筆修正した作品です。
ランダムに選ばれたテーマ『橋』『深夜』『宝石』を元に作成したショートショートです。
ふと子供の頃の夢について私は思い返していた。
警察官?パイロット?野球選手?女優さん?お医者さん?看護師さん?
私はテレビでよく見かけたとても綺麗な女優さん…の身につけていた大きくて輝く宝石になりたいと考えていました。
もともと私は綺麗なものが大好きでした。
毎年誕生日やクリスマスにパパにお願いするのは、安いガラス細工の装飾品。
それで宝石コレクションなんて作って、学校の友達に自慢しとこともあったわ。
それを拗らせたのかテレビで女優さんを見ても、着けている宝石が綺麗としか思わなかった。
でも私だって一時は女優さんに憧れていた時期もあったの。
綺羅びやかなテレビ業界で輝く女優さん。
とっても綺麗と見ていたけど、何時か放送したドキュメンタリー番組で舞台の裏側を見てしまった時から、テレビ業界は綺麗なものなんかじゃなくて、汚いもの、そこに登場する人達も汚れているんだとしか認識することが出来なくなった。
それでも汚い女優さんの着けている宝石だけはいつもピカピカで輝いて見えた。
私はアレになりたい…宝石になりたい。
だから中学生の時、学校で将来の夢っていう作文に『宝石になりたいです』って書いたら、先生に両親を呼び出されて叱られちゃった。
あの時パパは何も言わなかったけど、ママの怒り様ったら凄かったな…。
直ぐに部屋に逃げ込んじゃったけどね。
それから高校生になって、進路相談の話題になった時に同じことを言ったら、周りの皆はケラケラ笑って馬鹿にされた。
先生からはそんな冗談はいいから早くまともな進路を決めてちょうだいねって言われたから、心に嘘をついて先生や両親の喜ぶような所を選んで先生に報告したわ。
そして今は社会人、普通のOL。
子供の頃の夢は叶わなかった…。
夢は自然と自動的に願えば突然叶うものだと思っていたけど私はもう大人だ。
夢は待ってるだけじゃ叶わないものだと理解した。
ならば努力しよう。
大人には大人の夢の叶え方がある。
諦め切れない子供の時の夢。
いつか…いつの日にか私は絶対宝石になってやるわ。
―
あれから宝石以外の物に興味が全く湧かなくなってしまった。
いつからか私が働いて稼いだお金は全部宝石に変わった。
宝石を身につければ、宝石を身近に置けば、夢に近づけると思って宝石を買い集めた。
でも何も変わらなかった。
これではあのテレビの中にいた女優さんと何も変わらない、彼女たちは宝石にはならずに老いて醜く死んでいったから。
そうはなりたくない、だから私はもっと宝石に近づかなければいけない。
私の夢は女優になることではないのだから。
身に付けるだけでは駄目だ、ならどうすればいい?
そうだ…宝石の成分を私の体に取り込めば良いのだ。
私は宝石を食べてみることにした。
持っていた宝石やダイヤ・サファイヤ・ルビーなどのありとあらゆる宝石も食べてみた。
上手くいけばコレで私は宝石に近づける。
そうおもってた矢先に体調不良で私は病院へと運ばれることになってしまった。
目が覚めた時、お医者さんが深刻そうな顔をして私の体に起ったことについて話してくれた。
真剣に語る医者を無表情で眺めながらも、私は歓喜していた。
どうやら内蔵が変化したそうだ。
人間の肉ではない、何か硬い鉱物のような物に。
こんな事例は初めてとのことで治療法もわからないということだった。
私は余命数ヶ月という代わりに宝石の内蔵を手に入れたのだ。
後は宝石の体を手に入れるだけ。
病院の鏡を見ていると欲求が強くなるばかりだ。
宝石の内臓のせいなのか私の体はどんどん衰弱するばかり。
早く体を…時間が足りない。
そんな焦る私の目の前を全身包帯の患者さんが横切った。
その瞬間私は次は何をしたら良いのか閃いたのだ。
隙間なく宝石を体に埋め込めば宝石の体が手に入ると。
嗚呼、なんて素敵なんだろうか、早く…早く宝石…に。
―
余命を盾に退院し家に帰ると、直ぐに手元にあった数少なくなった宝石を体に埋め込んでみた。
不思議と痛みはなかった。
でも宝石は右腕を少し覆えたくらいで直ぐに無くなってしまった。
もうお金など残ってはいない。
私にはもう時間がないのだ、手っ取り早く宝石を手に入れなければいけない。
気がついた時には宝石店の前にいた。
右手には宝石の詰まった袋、左手には血が吹き出す切り傷、鳴り響くサイレン。
そう、私は宝石強盗をしたのだ。
左手の傷は右手に埋め込んだ宝石を傷つけたくなかったので、生身の右腕でガラスのショーケースを叩き割ったせいだ。
とりあえず帰ろう警察が来る前に宝石の体にならなければいけない。
滴っている血の痕跡を地面に残しながら、急ぎ足で自宅へと向かった。
自宅へ着いた私は早速傷ついた左腕から宝石を埋め込み始めた。
傷のお陰で左腕の作業は簡単に終わった。
怪我の功名というやつだろうか?
その調子で体全てを宝石で埋めていく、魚の鱗のようにびっちりと隙間なく。
最後に残った宝石は手のひら大のダイヤ二つ。
今まで埋めてきた宝石のどれよりも高価な物だ。
後はあそこへこの宝石を嵌めれば完璧な私の体が完成するのだ。
もう汗すらかかない皮膚から汗が吹き出す感じがした。
両手に宝石を持って、最後の箇所に近づける。
嗚呼、これで…私の夢が…。
ドンドンドン
こんな時に何なのだ、乱暴にドアを叩く音がする。
最後の作業を中断してドアに近づいた。
「警察だ!ココを開けろ」
やばい…やばい…やばい…
まだ作業が終わっていない、でもこんな大切なことを急いではしたくない。
そうだ、嗚呼、そうだ、皆に見てもらおう。
警察の人にも、マスコミの人にも、世界中の人に輝いている私を見てもらおう。
ベランダから逃げ、警察を巻きながら近くの大きな橋の前に辿り着いた。
直ぐにパトカーのランプが近づいてきた。
マスコミのカメラも確認できた。
警察が何かを叫んでいるがもう関係ない。
私は服を脱ぎ、大きく手を広げて叫ぶ。
「皆さん、私は宝石になります。この宝石を目に嵌めれば完璧な宝石に私はなります。見てください私見てください。夢を私は叶えました。最高の気分です」
パトカーのサイレンのランプやマスコミのカメラのフラッシュが私の体を照らしている。
深夜に宝石たちが光に反応してキラキラ踊るのを見て私は更に興奮した。
そして私は両手に手に持ったダイヤのピースを両目に嵌め込んだ。
プチっという音が聞こえると同時に何も見えなくなった。
私は宝石になれたのだろうか?確認することは出来ないがきっと私は宝石になったのだろう。
そう思ったら私は力が抜けてしまい、するりと橋の下に転落する。
落ちている感覚はなかったが、ガシャンという音が聞こえて、それ以降は何も聞こえることも感じることも考えることも出来なくなった。
―
「警部、橋の下に犯人はいませんでした、ただ宝石だけが砕けて散乱しています」
「馬鹿な。服を脱いだときはギョッとしたが、本当に宝石になったとでも言うのか。」
「そのまさかかも知れません。本当に血すら残っていないのです」
警部と部下はバラバラになった宝石の前でただ佇むしかなかった。