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ご都合主義による工程

30分小説?いいえ駄文です。

Re.30分小説?いいえ無制限です。

上記のサイトに投稿した小説を加筆修正した作品です。

ランダムに選ばれたテーマ『薪』『真珠』『指物師』を元に作成したショートショートです。

 とある時代とある場所に伝説の指物師がいた。  

何が伝説なのかとか言いたいことは色々あると思うが、まず指物 師とは一体何なのかから始めよう。

 指物師とは箪笥・長持・机・箱火鉢など板を差合せて作る木工品の専門職人のことである。

 さて、何が彼を伝説たらしめてる由縁か…だが。

 それは『発想の豊かさ』である。

 この時代にはお金に物を言わせ、無理難題を願う趣味の悪いお客様が数多く居た。

 しかし彼は性格なのか、そんな道楽者頼み事を断らず、寧ろ嬉々として依頼を受け、芸術品の粋にまで昇華させ作り上げる。

 だからこそお客様たちの間で『伝説』と語り継がれているのである。

 そして本日も依頼が男のもとに入っていた。


 「木材から真珠を創りだしてくれ」


 この依頼が如何に矛盾を孕んでいるかお分かりだろうか。

 そもそも真珠というのは貝の体内で生成される宝石であり、貝殻成分を分泌する外套膜が、貝の体内に偶然に入りこむことで真珠が生成されるのである。

 つまり成分は貝殻と等しいものだ。

 それを木材で作れとは、実に意味がわからない。

 それでも彼は、依頼に快く承諾し作業にとりかかった。

 まず彼は蔵の中に閉まってある上質な薪を一つ工房に持ち込んだ。

 持ち込んだ薪はそこら辺の木を切り倒して作ったものではなく、艶々とした年輪が渦を成している最高級の薪である。

 それを丁寧に掌程の大きさまで、愛用のナイフで切り出す。

 そして今度はヤスリを使って、丸い真珠の形を模した木の玉にした。

 もうこの時点で木材は、まるで宝石になったような輝きを放っていた。

 このままこれをお客様に差し出してもいいのだが、この程度の出来栄えで作業を終えるようならば、誰も彼を『伝説』などと呼ぶことはない。

 ここからの作業が本番であり、彼を『伝説』と呼ばれる由縁になる工程である。

 彼は作業の場所を変えるため、木の玉を手に取り工房の奥へと進む。

 分厚い垂れ幕を手で押し上げ進むと、先ほどの部屋よりも小さな部屋に辿り着いた。

 その部屋は、明るかった今までの部屋とは裏腹に、暗くて陰鬱とした雰囲気で、空気も少し悪かった。

 棚には、日本語ではない文字の書かれた本や生前の姿が想像もできない動物の骨などが鎮座している。

 この時点で普通ではないのだが、もっと奇妙なことにテーブルの上には星のマークのが描かれた布が敷いてあり、埃っぽい部屋なのにもかかわらず、布の上には塵一つ付着していなかった。

 彼は慣れた手つきで、ぽんっとその布に描いてある星の中心に先ほど削りだした木の玉を乗せ、ごそごそと後ろの不気味な棚からから麻袋を引っ張りだす。

 その袋に入っていたのはアラレ石とタンパク質の粉塵。

 これは真珠を形成するために必要不可欠な素材である。

 彼は、パラパラと木の玉に振りかけ何やら呟き始めた。


 「――。―――。―。」


 呪文のようだが、何を言っているかはサッパリ聞き取れない。

 しかし、その呪文に応じるかのようにテーブルの上にある木の玉と振りかけた粉が光り始めた。

 光の中、先ほどの二種類の粉が木の玉に交互に重なりはじめ、見る見るうちに真珠層が形成されていく。

 そうしてあっという間に一つの大きな真珠ができた。

 いやタダの真珠ではない、真珠の層からうっすらと覗くのは木の年輪である。

 これにて彼の『伝説』的な工程は全て終了した。

 彼も満足気にその作品を眺め、丁寧に布で包み箱にしまった。

 残る仕事は後日お客様に渡すだけである。

 彼は少しばかり疲れたのか、ググッと体を剃らせ息を吐く。

 元いた明るい部屋に戻り、窓を開け、懐から取り出したタバコに火をつける。

 窓の外に煙を吐き出しながら一人呟いた。


 「これで金が入る予定ができたし、ちょっくら魔女っ子たちとでも戯れてこようかな」

 

 窓の外に広がる風景は、人を乗せた絨毯が空を飛び交い、あらゆる所で『魔法』と書かれた看板が掲げられていた。


 「全くボロい商売だぜ、こんな簡単な事で大金が手入る。皆魔法に頼りっきりで、本物の木材を使わないから糞みたいな作品しか出来ないってだけなのによ。ちょっと考えれば直ぐに分かるのに、魔法のせいで考える力ってもんが欠如してしまったんかね。」


 懐から一枚の蜥蜴の模様が刻まれた皿を取り出して、更に言葉を続けた。


 「こないだ見つけた掘り出し物、嗚呼…実に良い。味があるというか…こういった技術に優れた作品は俺には作れない逸品だ。まったく、こういった作品を求める人はもういないのかね。さてと、出かける前にこの皿をツマミにして酒でも啜るとしようか」


 豪快な彼の笑い声が工房の中に響く。

 これは、魔法時代東京城下町に住む指物師の話。

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