白の間③
「うむうむ、では話を進めるぞ。
…だがその前に茶を飲め」
命令口調なのに、幼女な神はいそいそ何処からか湯のみに入った茶を出した。
「ありがとう。…いま、どっからだしたの?」
「む!?」
いま二人は向かい合って座っていた。
それ以外は何もない真っ白な世界で。
なのにいきなり湯気たつお茶が出て来たのだ。有り得ない。
「?、?、!?。
おぉぉ、それは妾が神だからじゃ!!!!」
少年の発言の意味が分からなかったのか、しばらく難しい顔をして悩み、パッと顔を輝かせる。
「この世界は妾であり、妾はこの世界じゃ。
今は何も必要ないから空っぽの世界じゃが、必要なら「何でも出す」事もできる!!!!」
むふー。
腕を組み、自慢する幼女な神の鼻息が少年の前髪を揺らす。
「へーすご」
「!?、うむうむ。妾はすごいのじゃ!!!!」
偉そうに、心底嬉しそう小さな神様は笑った。
しばらく、幼女の自慢話を聞いていると、飲みかけのお茶が消えた。
「あれ?」
「――そこで妾は――、ん?
どうしたのじゃ?」
「お茶が…」
「ああ即席だからの」
「そくせき?」
両手を見下ろす少年に、幼女はカカカと笑う。
変で、面白い笑い方だなあと思った。
「パッと作るからすぐ消えるのじゃ。始めから時間をかけて作れば消えない「物」も作れるぞ」
幼女は「存在」その物の事を言った。
少年は「お茶の入れ方」の事だと思った。
時間をかけ、丁寧に入れれば消えないと思った。
「じゃ、次は俺が入れてあげる」
「む?」
「きゅうすと、お茶っぱと、お湯と、湯のみ2つ。あ、きゅうすは茶色のだよ。でる方がきゅーってなってて、持つ方が太いの」
「むむむむ…?!?」
不思議そうな顔から難しい顔へ、幼女の変化に少年は「きゅうす」を知らないのだと思い一生懸命説明した。
そもそも少年はその全てを作らない事には始まらないのを忘れて。
少年の常識は道具がある事が当たり前で、そこから作り出す事が物や料理の始まりなのだ。
「きゅうす…きゅうす…解るぞ…だがきゅうすとは、一体何で出来ているんじゃ?」
「え!?…えーと、木?」
「木!?じゃと!?」
「いや、泥かも?」
「どろぉ!?じゃとぉぉっ!?」
大げさな反応に少年はテンパり、幼女は青ざめた。
「一体どうすれば木や泥がきゅうすに育つんじゃ!?」
「育つ?え育つの!?」
「凄まじい、凄まじいぞおぬしの世界は…」
きゅうすがなる木…
泥溜まりに浮かんでくる大小のきゅうす達…
木の方は収穫期が分かりやすそうだが…
「泥のきゅうすは目が離せないのじゃ!?」
「何で!?」
間。
「落ち着いた?」
「うむ」
即席自作のお茶を5杯ほど飲んで幼女は気難しい顔で頷いた。顔は林檎のように赤い。
「もうきゅうすはいいよ。一番必要なのはお茶っぱとお湯だし」
「…」
幼女は不思議そうな顔で少年を見つめた。
嫌な予感がした。
「お茶っぱとはどんな葉じゃ」
「…え、」
えーと。
「お茶の、葉っぱ…?」
「それはどうやって「なる(存在する)」のじゃ?」
「な、なる?
えーと、えっと…木から育って…」
「木?それは土が必要という事か?」
「う、うん。いっぱいの土が…」
「いっぱいの土…
それは、大地と言うのではないか?」
二人はいつの間にか青ざめた顔で辺りを見渡した。
白。
なーんにもない真っ白の世界。
床も天井も、
空も陸もない、
上下左右すら分からない世界。
ここに、大地を作る?