白の間②
「マジか」
「まじじゃ」
自称神様な幼女は踊るように少年の周りを歩き始めた。
「妾は神だから何でもできるぞー。本当だぞー。生き返るだってゾンビなら可能じゃ!!!!」
「イヤだよ」
ガビン!?と固まる幼女。
ゾンビならそのまま死体でいさせてくれ。
というか…
「まさか俺…死んだ?」
「ちちち違うぞ――ぉ!!!!」
幼女は頭を抱えしゃがみこんだ。
「妾が殺したんじゃない妾が殺したんじゃない妾が殺したんじゃない」
「ちょ」
「落ちてたのを拾っただけだもん」
ちょっと待て
「それどういう状況?」
「すんすん」
幼女はぼろ泣きの顔を上げた。鼻水が凄い。
少年は無言でハンカチを鼻に当てた。
「ちーん!
あぁぁ、ありがとう。
……怒らない?」
「……うん」
まるで幼女をいじめているかの状況に嫌とは言えなかった。
話をまとめるとこうだった。
まず少年は本当に死んだらしい。
「おぬしの死体はお骨しか残っておらぬ」
葬式も火葬も終わり、三年の月日が流れていた。
少年の死因は交通事故だ。しかもひき逃げ。……4回目の。
「4回目?」
「恨みを持つ者をひき、酔っ払いをひき、子猫3匹をまとめてひき、最後はおぬしじゃ」
「…」
絶句した。
「その者は直ぐに捕まった。何しろ車は血みどろでボコボコだし、恨みを5つを背負っておったからじゃ」
「5つ…」
「おぬしは恨んでおらん」
死んだ少年はしばらく状況が分からなかったらしい。
透けた体が何処かへ引っ張られる事を感じながら、自分の死体を見下ろしていた。
少年の死体や他の死体を発見され事件発覚。
自分の死体と一緒に行動した少年は衝撃を受けた。
泣き崩れる両親。精神的ショックを受け言葉が話せなくなった姉。必死にみんなを支えようと不眠症になる兄。死が理解出来ない弟。
自分が死んだ事を理解した。だが少年には家族の事の方が衝撃的で…
幽霊となった少年は誰にも見えなかった。
だけど少年はずっと家族の側にいた。
ごめんなさい。ごめんなさい。泣かないで。悲しまないで。壊れないで。…笑って…
ずっと言い続けた。
今日は晴れだよ。洗濯物がぽかぽかだよお母さん。
今日は雨だよ。帰りには傘がいるよお父さん。
お友達が来ているよおねぇ。今日は風が強いから、スカートはなしだね。
おにぃ。おにぃ。おにぃ。夜は綺麗だよ。星が月が。おれ今空も飛べるから知ったんだ。上を見ておにぃ。
泣くね。でも笑ってくれる嬉しいな。君は笑ってくれる。嬉しいな。俺の初めての弟。
ありがとう。ありがとう。泣いてくれて。悲しんでくれて。
…笑ってくれて……
…ありがとう。ごめんね
「おぬしは家族や周囲の人間が幸福になるようにと祈り、自分の葬式を見て満足して其処を去ったんじゃ」
「…覚えてないんだけど」
「まぁそんなもんじゃ、気にするな」
「えー」
少年は満足し、ずっと気になっていた事にやっと目を向けた。
引っ張られてる気がするのだ。ずっと。
それは強くなく、でも忘れる事はないくらいの力で。
だから身を任せてみた。
ヒューと霊体が飛ぶ。空をきり、壁をすり抜け。
たどり着いたその場所にいたのは男だった。
悪霊に埋まった…
「ひぃぃ!?」
必死に踏ん張り引力に逆らった。
一人の男をスッポリ覆うおどろおどろしい霧。
そのまま霧に突っ込むと自分も悪霊になる。
直感的にわかった。
そして、男は自分を殺したひき逃げ犯で、悪霊は少年と同じ…
「そこでおぬしは一人一人引き剥がし、説得したんじゃ」
同じ犯人に同じ殺され方をしたからか、混じりあった悪霊を少年は「一人」づつ引っ張る事が出来た。
なだめたり、泣いてみたり、怒ってみたり、少年は説得した。
でも悪霊は男への憎しみしか持っていなかった。
少年はさらに引っ張った。
嫌がる悪霊をなだめ、悪霊の家族の元へと…
時間をかけ、元悪霊は何処かへ「帰って」いった。
ふてくされた顔をしていた。
悪霊だった酔っ払いも「帰った」。
泣いて笑って謝って大変だった。
最後の子猫3匹。人間とは違い家族を探すのが大変だった。野良猫一匹一匹を訪ね回る。
何百匹訪ね、見つけた母猫は橋の下にいた。
子猫はなきながら母猫のお腹へスーッと消えていった。
そして少年は満足した。
だが「ここ」に止まりすぎて少年にはみんなのように「帰る」場所も方法も分からなくなっていた。
疲れたので少年は寝る事にした。深い眠りに。
「そして妾がおぬしを拾ったんじゃ。おぬしは長い時を眠り、妾も目覚める事はないと思っていた」
満足した。
それは目的がない事を意味する。眠りそのまま消える事もあり得た。
「とある場所へ「帰る」事の出来なくなった魂は見つけた者が持つのが決まりじゃ。そのまま放置すると世界が「ズレ」てくるんじゃ」
「ズレ?」
「うむ」
世界という器には、入る量と出る量が決まっている。
それらはそれぞれの流れで時間をかけ巡り続ける。
しかしたまにそれに逆らう物がある。
流れを逆流したり、
変質し、他を害したり、
止まり続けたり。
「それが俺…」
「1つ2つは問題ないのじゃ。だが無視し続ければ大変な事になる。流れる事を止めたおぬしを妾が見つけ、拾った」
「わぁ…」
それは、なんだか…
「ちょっと神様みたい」
「妾は全部が神じゃ!!!!」
幼女は両腕を振り上げ怒鳴った。
…涙目で。