エッセイ「読後感想文」
久しぶりの読書だった。
忙しない日々。といっても、単に要領が悪いだけで、ひとり空回りしているだけなのだが。
ある日沸き起こった衝動。本を読みたい。じっくり本の世界に沈みたいと身体から欲して手にした一冊の短編集。パラパラとめくって気になった作品を読んでみると……。
ここからは読後感想文です。ああ、そうなんだぁと軽く読んでくださればと。
「金鵄のもとに」
金鵄とは何か。それが数ある短編の中この作品を選んだ理由だった。
一行足らずでこれは太平洋戦争時代の話だとわかり、戦争物が苦手な私は他の作品を読もうかと躊躇した。
このタイトルの意味は何のか気になり、思い切って読むことにした。
激烈な南方戦線から帰還した一人の兵士が主人公で、彼が見てきた、聞いてきたものが私の目の前に広がっていく。
砲弾や銃撃戦の場面はわずかだ。飢餓と熱病が兵士たちを蝕んでいく。
僕をあなたの腹におさめて、国へ連れ帰ってください、と言った兵士の言葉が胸に突き刺さった。
食料や情報などなきに等しい中で激烈な戦闘の矢面に立たされた日本兵たちがひたすら痛ましかった。
極限の中でも「神風が吹く」という噂を信じていたのか。
終戦後、一千万人が餓死者が出るという噂に「神風が吹く」という噂よりは信じられる、と主人公は思う。
南方では知らなかった戦中の状況を古新聞で読み返し、新聞を通して内地の国民は戦の概要を知っていたのに
その戦をしていた外地の兵隊は何も知らなかったことに驚き、戦地となった島が思いの他小さかったことと、
位置が日本からはるか彼方だったことに唖然とし、自分が生きていることが信じられなくなる。
私だったら虚しさに耐え切れず自ら命を絶つかもしれない。ここまで兵士たちを追い込んだ当時の日本のやり方に憤りがこみ上がった。
金鵄とは、神武東征のとき、金色の鵄が天皇の弓の先に止まって、長すね彦の軍卒たちの目を眩ませたという伝説のものだった。闇市で生きる久松ははこれを鼻で笑う。敵はまっ黒な色眼鏡をかけていたから目が眩むわけがないと。もう憤りを超えて笑うしかない。
クリスマスの夜、アメリカ兵ときよしこの夜を歌い、主人公は生きて祖国に帰れたのだと実感する。私は声を上げて泣いた。
あるところに応募して見事落っこちた感想文でした。応募記念です。