シグナル
「おはようございます。…先輩?」
敦子は恐る恐る麻里に声をかけた。
「おはよ!」
元気な挨拶が返ってきて、敦子はホッとしている。
「それにしても、驚きましたよね~。…川原さんから、連絡ありました?」
「ううん。もう、いいの」
「えっ?」
「さぁ、今日もお仕事がんばろ!」
麻里は完全に怒っている。敦子は、そう感じていた。
仕事が終わって会社を出ると、敦子は川原の姿を見つけた。
「川原さん!昨日の女性は誰なんですか?」
敦子は川原の元へ駆け寄り、問い詰めた。
「はぁ?」
「とぼけてもダメですよ。昨夜、見たんですから。公園で抱き合ってるところを…」
「あぁ…それは」
「先輩、むちゃくちゃ怒ってますからね。言い訳は本人にしてください!」
そう言い残して、敦子は去って行った。
麻里は岡田のことを待っていた。
「岡田くん」
「麻里…」
「今日、時間ある?」
「あぁ」
ふたりで会社を出ると、そこには川原の姿が。
「ちょっと待ってて」
麻里は、岡田にそう告げると、川原の元へ歩み寄った。
「私、約束があるから」
川原は、麻里の口調に、殺気立つものを感じていた。
「あ…、昨日のことは、その…」
「もう行くから」
麻里は岡田に腕を絡め、足早に去って行った。
「いいのか?」
麻里は岡田とイタリアンレストランでパスタを食べている。しかし、麻里はほとんど食べていない…。
「いいのよ。彼とは、もう…」
そうつぶやくと、麻里はグラスワインを一気に飲み干した。
店を出ると、麻里はボーッとしている。岡田は麻里の腕を掴むと、タクシーを止めて乗り込んだ。
「どこ…行くの?」
麻里が小声で尋ねるが、岡田は麻里の手をギュッと握り、運転手さんに行き先を説明するだけだった。
「ちょっと寄っていい?」
タクシーを降りると、岡田はコンビニへとむかった。買い物を済ませ、コンビニを出ると、そのまま脇の通路を奥に進み、エレベーターのボタンを押した。
「ここは…?」
岡田はニッコリ微笑むと、エレベーターに乗ってRボタンを押した。
エレベーターを降りると、そこは屋上へとつながるホール。扉を開け、外に出ると、綺麗な夜景が広がっていた。
「わぁ~!」
麻里は駆け出し、身を乗り出す勢いだった。
「非常時の避難場所なんだけど…綺麗だろ?」
「うん」
岡田は、コンビニで購入した缶ビールのフタを開けると、麻里に手渡した。
「乾杯…」
ふたりは静かに街の明かりを見下ろした。
「俺、好きな子が出来たんだ」
「そうなの~?」
麻里は酔っていて、うわの空になっている。
「最初は、その気はなかったけど、彼女が積極的で。それで、付き合うようになったんだけど…」
しかし、岡田は浮かない顔をしていた。
「…なにか、あったの?」
岡田は声を震わせて、驚愕の告白をする。
「………殺したんだ」
そうして、震える手で麻里を抱きしめた―。