プレゼント
朝のロッカールーム。麻里は制服に着替え、髪をとかしていると、敦子が出勤してきた。
「おはようございます!」
「おはよ…」
「なんか、元気ないですね。最近、川原さんとは、どうなんですか?」
「…彼は、いつも忙しいから」
「あ、でも、川原さんなら、先輩のこと…」
「とりあえず、仕事よ。今日は給湯室の当番でしょ?先に行くからね」
「そうだった! 急がなきゃ…」
麻里は、川原に会えない寂しさを、仕事で紛らわせようとしていた。
ランチタイム。麻里は同期である、総務の岡田と社員食堂で食事をしていた。
「なんか、元気ないな…」
「あ…、うん。彼と、あまり会えなくて…」
岡田には、素直に自分の気持ちを打ち明けていた。
「…そうか」
「ずっと、一緒にいたいのに…」
麻里はうつむいてしまった。
「元気出せよ。ほら、これやるから」
岡田はデザートのプリンを麻里の前に差し出した。麻里はクスッと笑って、
「岡田くん、…甘いもの、嫌いなだけでしょ?」
すると岡田は、
「バレたか…」
と言って優しく微笑んだ―。
「もしもし? …もう、寝てた?」
「う…ん。寝てた…。でも、大丈夫」
「悪い。もう、切るから」
「待って! 電話ありがと。うれしかった―」
「あぁ、声が聞けてよかった。それじゃ、おやすみ」
「…おやすみなさい」
いつも、こんな調子。麻里は大きくため息をついた…。
川原は仕事で教会を訪れていた。そこでは1組のカップルが撮影を行っている。新婦が身にまとっているのは、純白のウェディングドレス。
「彼女のこと、大事にしてるんですか~?」
川原は後輩からつっこまれている。
「まぁ、理解してくれているから…」
「そう思ってるのは、先輩の方だけなんじゃないですか?」
…川原も内心そうじゃないかと不安に思っていた。
「プレゼントでもして、彼女を喜ばせてあげたほうがいいですよ!」
「…プレゼント?」
「やっぱり、ジュエリーでしょ」
「ジュエリー…ね」
「麻里」
「あ、岡田くん」
仕事が終わって会社を出ようとすると、岡田に呼び止められた。
「明日、麻里も行くんだろ?」
「うん。敦子ったら、すごく楽しみにしてるんだよ。あのね、………あ」
ふたり並んで歩いていると、エントランスには川原の姿があった。
「彼氏?」
「…うん」
「じゃ、俺行くわ」
岡田は先に出て行ってしまった。
「今のは誰なんだ?」
川原はムスッとしている。
「同期の岡田くん。…ね、迎えに来てくれたの?」
麻里はうれしそうに川原の腕をつかむ。
「いや、近くまで来たから…。もう、戻らないと」
「そっか…」
麻里は下をむいてションボリとしている。
「じゃ、もう行くから」
「えっ?」
川原は歩き出した。そのとき、麻里のほうを振り返って、小さな箱をポーンと投げた。
「何これ?」
「やる」
と、一言残して人混みの中へ消えて行った。その包み紙には、ジュエリーブランドが記されている。
「ありがと」
麻里は、ひとりつぶやいた…。