ジレンマ
週末、麻里は川原の部屋でカレーを作っていた。そして、テレビを見たり、音楽を聴いたり…。ベランダから外を眺めると、少し離れた場所に、大きな川が流れている。夕方になって、部屋にいても退屈した麻里は、外に出て近所を散策することにした―。
ベランダから見えた大きな川までは、歩いて10分くらい。河川敷はキレイに整備されている。遊歩道を散歩していると、麻里のスマートフォンが鳴った。
「もしもし?」
「今、どこにいるんだ…?」
電話を切ると、麻里は近くにあったベンチに腰をかけて川の流れを眺めていた。すると、
「オイ」
川原が駆け足でやってきた。
「あ、おかえりなさい…」
「暗くなるのに、ひとりじゃ危ないだろ…」
「だって、さっきまで明るかったから―」
川原は、麻里の頭をクシャっと撫でた。
「あ、鍵を返さなきゃ…ね」
麻里は、川原のマンションの鍵をポケットから取り出した。
「お前が持っててくれないか?普通に会えないから、せめて…」
「…うん」
ふたりはマンションに戻り、麻里はキッチンでカレーを温めている。
「明日、休みが取れたんだ。どこか行こうか?」
川原は上着を脱いで、ネクタイを緩める。
「ホント? じゃあ…、買い物に付き合って欲しいんだけど…」
「買い物?」
「うん。来週は敦子の誕生日だから。あ、先にお風呂にする?」
麻里は楽しそうにキッチンを動き回っていた…。
休日の午後、麻里と川原はランチのあと、ウィンドウショッピングを楽しんでいた。
「あ、この店…。入ってもいい?」
そこは、フレグランスのお店。店内は女性客でにぎわっている。
「…ここで待ってる」
「わかった。すぐ戻ってくるね」
麻里は敦子のプレゼントに、ボディシャンプー&ローション、それと、オードトワレがセットになっているものを購入。敦子の好きなroseの香り。
急いでお店を出ると、川原の姿がない。辺りを見渡すが、どこにも…。慌ててスマートフォンをバックから取り出すと、ちょうど川原からの着信があった。
「もしもし?」
「あ、ごめん。急に本部からの呼び出しで」
「そう…」
「先に戻っててくれないか。俺も、そんなには遅くならないと思う」
「はい。それじゃ…」
麻里はひとりでいてもつまらなくなり、川原のマンションへ戻ることにした。しかし、料理を作る気にもなれなくて、ソファーでぼんやりとしていた。川原からは連絡もないままに、5時間が経過していた。仕方なく、麻里は自宅に帰ることに…。
川原がマンションに戻ったときには、すでに麻里の姿はなかった。
「もしもし?」
「…はい」
「遅くなってしまって。悪かったな…」
「ううん。お疲れさま」
「また、連絡するから。おやすみ」
「…おやすみなさい」
それからも、川原に会えない日々が続き、麻里は寂しさを募らせていくばかりだった―。