檸檬
拍手お礼小話の、加筆&再掲載です。
(メフィスト視点のため、口が悪いです)
なお時間軸としては、第一章と第二章の間辺りです。
プランシー社のデカ女や、その子分のウサ公ががばがば飲んでいやがるが、俺の店で出している水は一応、手作りだ。
煮たたせた湯にレモンの絞り汁を加え、冷めたら輪切りにしたレモンを浮かべる。
「真にいいお店は、細部にまで心配りが行き届いているものなんだよ」
という、俺の所有者サマの提案で実行しているわけだが。
正直、めちゃくちゃ手間がかかる。冷ますのも一苦労なんだよ。
特に夏場は、まぁ水をバカみてぇに飲む客が多いこと、多いこと。
「てめぇら、もうちょっと有難そうに飲めってんだよ! そんなに喉が乾いてんなら、ドリンクも注文しやがれ!」
などとは一応、雇われ店長で、かつ奴隷であるビーストが言えた立場じゃあない。
揉め事起こして、アミィの姉ちゃんにどやされるのもかなわねぇしな。
というわけで夏のクソ暑い中。客足が途絶えた今を狙って、店を飛び出した。
予想以上に客が多く、飲み水に使うレモンが切れやがったんだ。
普段なら屋根を上りスーパーまでの直線距離を行くところなんだが……今日は暑ぃ。大人しく、商店街のアーケードを歩いてやるか。
前にウサ公から、
「色が黒いから、暑さも平気なんじゃないんですか?」
と訊かれたが、んなわきゃねぇ。黒かろうが白かろうが、暑いもんは暑い。
むしろアメリカのサンフランシスコ育ちなんで、暑いのは大の苦手だ。
打たれ弱い都会っ子で、すいませんねぇ!
そういや、あのデカ女を始めとする保安課のエリート共は、この時分、暑くねぇのか?
さすがに店で見かけるのは、スーツ姿だけどよ。それでも上着を脱ぎもしねぇで、いっつも涼しい顔してやがったっけ。ケッ。
なんて考えてたのが悪かったか?
チッ。いやがるよ、プランシー社の保安課サマが。
アーケードの隅にいても、がっちりヘルメットまで被った黒い鎧もどき──デカ女曰く、正式名称は「外骨格付き特殊繊維製強化スーツです」らしいけど、長ぇよ!──はよく目立つ。
ったく、薄気味悪い連中だ。
俺の身分証明証でもある、「モンペリエの塔」のメダルを振りかざしてイチャモン付けてやってもいいんだが。あいにく今は、俺を待ってるレモンがいる。
気に食わねぇ連中だが、無視するか。
と、黒ずくめの近くを通る時、つい気付いちまった。
その黒ずくめの背筋が妙にピン、と伸びていることに。そういえば、アイツはウチで飯食う時も、いっつも姿勢良かったっけ。親の躾の賜物ってヤツかね?
アイツは背筋をまっすぐに伸ばしたまま、片手で人間の男の首根っこを掴んでいた。
男は目を回してるようだ。まぁ、あの電気を食らわされたか、プロレス技をかけられたか、そのどっちかだろう。ご愁傷様ってか。
そしてアイツの目の前には、ビーストの女がいた。詳しくは分からねぇが、ホッとした顔で頭下げて、アイツに礼を言ってるみてぇだ。
ふぅん。俺らの役に立つこともあるんだな、お前。
そう小さく感心するのと同時に、アイツへ向けて片手を上げた。
「よぉ。お勤めごくろーさん」
ぎくり、と一瞬身を強張らせて、慌ててデカ女はヘルメットのシールドを上げた。
やや切れ長の黒い瞳は、きょとん、としている。
正に、鳩が豆鉄砲を喰らった顔じゃねぇか。いい気味だぜ。
「なんで私だって分かったの」
「んなもん、見てりゃ分かるよ。お前ぇ、結構分かりやすいぜ」
「……どういうことですか」
「ウサ公にでも訊いてみろよ。で、そいつ、落としちまっていいのか?」
「あ!」
驚いた拍子に手を離し、ごつん、と地面に頭をぶつけた男を慌てて拾い上げている。
その光景をニヤニヤ見ながら、俺はスーパーへの歩みを再開した。
意外に鈍くせぇな、アイツ。




