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歯車と人外の近未来図  作者: 依馬 亜連
第三章 弱り目と可愛げ
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第十四話 スカート

 思慮が浅いのに洞察力はあるのか、それとも私があからさまなのか。

 メフィストの指摘は全て当たっている。

 本日は友人より、合同コンパへの参加を義務付けられていた。うっかり胸元に付けたままだった、社章の電源を落とし、カバンに押し込む。耳の小型ヘッドセットは……仕方がない、付けておくか。

 髪でどうにか隠そうと、暫くの間、鏡とにらみ合い、諦めた。

 目立たないし、バレないことにしよう。


 待ち合わせ場所に指定された広場には、二人組の華やかな女性がいた。

 その片割れが幹事兼、大学時代からの友人、鴨部(かもべ) 愛花(あいか)だ。

 強引な性格の友人だが、その社交性には何度もお世話になっているので、今回の参加要請も無碍に出来なかった。

「あ、光にしては可愛い服じゃん」

 合流しての開口一番、きれいにカールされた髪を揺らし、愛花が満足げに笑う。

「あんたのことだから、スーツとかで来たらどうしようって、思ってたのよ」

「さすがに着ないよ。暑いし」


 業務内容上、着る機会は皆無なのだが、スカートは普段のパンツスタイルより通気性がよく、夏場なので尚更心地いい。

「だから耳のソレは、見なかったことにしてあげる」

 コツコツと、左耳を叩く意地悪な仕草に、つい、腰が低くなった。

「助かります……」

「でも、それよりさ。あんたスタイルいいんだから、もっと胸とか足とか出せばいいのに。それに、そういう『いかにも』なパステルカラーより、光は顔がはっきりしてるんだから、原色とかのが似合いそう」

「赤とか?」

 問いかけて、ふと、メフィストを思い出す。やり過ぎだったかな、と心の片隅で反省。

「そうそう、赤いいね。あと、グリーンとか。濃い目のモスグリーンでも、あんたなら似合いそう……って、もう一人の子の紹介、まだだったよね」


 ごめんごめん、と手を上げ、彼女の隣でぼんやりと立ち尽くしていた、小柄な女性を紹介される。

津野(つの) 結衣(ゆい)ちゃん。うちの会社の後輩ちゃんで、あたし達のいっこ下。結衣ちゃん、こっちは大学時代の友達の、光ね」

 明るく染められた、ショートカットの小さな頭を下げ、結衣は律儀に挨拶した。

「よろしくお願いします」

「うん、よろしく」

 顔を上げ、はにかむ彼女は実年齢より幼く見え、ほんわかとした空気を醸し出している。


 一方、何人もの男を手玉に取っていそうな不敵な笑みで、愛花が、結衣と私の双方を見やる。

「で、男連中は、全員あたし達のいっこ上ね」

 愛花には数年来の彼氏がいる。今回は、その彼氏のツテによる合コンらしい。彼氏に合コン相手を要求する彼女も彼女だが、それに応じる彼氏も彼氏だ。

 おおらかと言うか、無頓着なカップルだ。ある意味お似合いである。

「しかも全員、消防士なんだって! 消防士よ、すっごいネームバリュー! これは期待できるでしょ!」

「あー、まぁ、それなりに」

「は、はぃ……」

 あいにく、マッチョに囲まれた職場なので、その手の男性に対してさして憧れもない。結衣も先輩の迫力に圧されているのか、声が小さく、歯切れも悪い。雰囲気通り、押しに弱い性格のようだ。


 男性陣とは現地集合という約束らしく、愛花を筆頭に歩き出す。次に従者のごとく結衣が、しんがりを私が務めた。

 そして前方の二人の姿と、自分の姿を見下ろし、思わずため息をつきかけた。

 スカートをひらひら揺らめかせて歩く二人の姿は、とても「自然」だった。恐らくいつもよりも着飾っているのだろうが、それでも華やかなもの、あるいは可愛らしいものに慣れているのが、背中から分かる。

 一方の自分は、慌てて買った淡色のサマーセーターにスカートを着用。クローゼットに並ぶ、寒色や暗色の服と比べ、なんと浮かれた色か。物理的身の丈には合っているが、心理的身の丈に合わない可憐な装いが、情けないことに卑屈さを生み出していた。


 更に指定された会場が、安さを売りにしたチェーン店の居酒屋だったので、申し訳ないが、士気はなお下がってしまった。

「もう少し、お金かかってもいいから、静かで美味しい店なかったのかな」

 一万五千円もしたスカート履いてきたのに、とまでは言わなかった。

 ふと、お昼の定番になっているレメゲトンが、夜はバーになることを思い出した。

 あそこなら、雰囲気も味も申し分ないのに。


 物思いにふけっていると、隣から途端に叱咤の声。

「あんたはまた、そうやって文句言う! だから彼氏出来ないのよ?」

 遠慮なく、愛花に腰を殴られた。

「鍛えてても、痛いんですけど」

 殴られた腰をさすると、愛花も拳を撫でていた。

「思いの他に硬かったから、こっちも痛いわよ。あんたさ、ただでさえ凛々しい顔してるんだから、ちょっと気抜いて、愛想よーく、ニコニコしなさいよ?」

「はいはい」

 ミラ・ジョヴォヴィッチと言われたり、王子扱いされたり、皆さん勝手なものだ。


 薄暗い居酒屋の階段を上がり、二階の座敷コーナーへ案内される。各座敷が区切られており、個室のような造りになっていた。

 男性三人はすでに着席しており、手には飲み物も用意されていた。

「おそーい! 先飲んじゃうとこだったよー!」

 快活な笑顔でまず出迎えたのが、男性側の幹事である花園(はなぞの)だった。愛花とは顔なじみでもあるらしく、彼女の恋人の近況について、軽く言葉を交わしていた。

 消防士ということもあるのか、全員黒髪を短く切り揃え、こざっぱりとした風貌だった。間違っても、ワカメみたいな頭はいない。

「俺が花園 (れん)で、こっちが日ノ出(ひので) 悠人(ゆうと)。で、こいつが別役(べつやく) (つばさ)。全員、消防士でーす」

「知ってまーす」

 女性陣の飲み物を注文しながら、愛花が軽い調子で返す。

「でも俺、マジでこんなレベル高いコばっかとは思わなかった」

 日ノ出と紹介された男が、お世辞交じりの歓声を上げる。

「でしょー? 幹事のコレがいいから」

 愛化が自分の腕を叩くと、少し愛想も混じった笑いが起こった。

「幹事さん、超ノリいいねぇ」

 別役と紹介された男が、手を叩いて笑う。

 日ノ出はメガネをかけており、別役は一番長身だった。

 女性陣の紹介を終えたところで、全員の飲み物が揃い、乾杯。合コンは始まった。

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