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-BLACK MARIA-  作者: 高砂イサミ
2nd episode
9/66

December 1 (Sat.) am. -3-


「――トオル!!」


 問答無用もいいところだった。

 ガラスが割れるほどの勢いでドアが開くと、身構えるよりも早く、立て続けに鋭い痛みが身体を貫いた。

「っ、く……!」

 左肩と左脚にダーツの矢が突き立っていた。それほど深く刺さっていないと判断し即座に抜き捨てるが、すぐに左半身がしびれを訴えだす。バランスを保ちきれず片膝をついた彼を、4人の招かれざる客が取り囲んだ。昨夜とは違い全員が普段着だったが、殺気立った空気は隠しようもない。

「や、トオル。元気そうで何よりだね」

 そんな中で場違いに明るい声を上げたのは、フードを目深にかぶる小柄な少年だ。その双眸は焦点を結んでいない。そこに普通の視力がまったくないことは、彼も聞き知っていた。

「ヤマ……!」

「耶麻の“目”はすべてを見通す。逃れられはしない。お前も知っていたはずだ」

 長身の男が1歩進み出て、無表情に彼を見下ろした。

「なぜ去ろうとした、トオル」

「葉沼。その話は後にしましょう」

「鳥戸の言うとおりだよ。そんなことどうでもいいから、早く“師”のところにトオルをつれて帰ろうよ、葉沼ぁ」

 長髪の男が遮ったところへ耶麻が追随した。そして、外見だけは人なつこそうににこりと笑い、彼の背後を――ベランダの方を指さした。

「問題は、そっちをどうするかだけどさ?」

「っ!」

 彼は立ち上がろうとして、やはりできなかった。傷の痛みが薄れるかわりに感覚が鈍っている。それを、耶麻の見えない目がおもしろげに眺めていた。

「女の子が2人。まだ子供だね……って、あれ? なんかおもしろそうなこと始めたよ?」


 ガンッ! ――ガンッ!


 彼の背後で、身をすくめるような音がした。固いものでガラスをたたく音だ。葉沼が眉をひそめ、1歩、前に出た。

「待て――」

「お前は引っこんでろよ!」

 荒っぽい声とともに、彼は一瞬の浮遊感を覚え。

 次の瞬間、背中から思いきり天井にたたきつけられた。次いで床に落下する。二重の衝撃に息が止まりかけた。そこへ大股に寄ってきた茶髪の男が、力いっぱい左肩を踏みつけた。

「できりゃ今ので挽肉にしてやりたいとこだ。テメェ……1番カンジンなとこで怖じ気づきやがったらしいじゃねェか!」

「気持ちはわかりますが、ほどほどにしてくださいね、湯野」

 やんわりと鳥戸がたしなめる間に、葉沼がカーテンに手をかけていた。窓をたたく音は続いている。耶麻が興味深げに瞬いた。

「どうするのさ」

「一緒に連れて行く。“彼”に判断を仰ぐ」

「ま、そうなるよね」

「もう1人はどうします? 昨夜あの場にいたのは3人のはず」

「2人を捕らえてから待つ。トオルの顔を見られた以上、放ってはおけない」

 言って、葉沼は勢いよくカーテンを引いた。それはちょうど、蜘蛛の巣状にひび割れた窓の向こうで、少女が錆びたバールを大きく振り上げたときでもあった。

「うっ」

 ガシャンッと硬質な破壊音をたてて窓ガラスが砕け散った。破片が、反射的に腕で顔をかばった葉沼を襲う。どっと冷気が吹き込んでカーテンをあおった。

「お兄さん! だいじょうぶ!?」

 叫んだ少女はバールを投げ捨てると、とがったガラスにもかまわず手を伸ばした。カギをはずして勢いよく窓を開け放つ。もう1人の少女はその後ろで、呆然とした顔でいた。

「……どうして……?」

 ぐるりと部屋を見渡して、黒髪の少女が最初に発した言葉がそれだった。いち早く我にかえった葉沼が少女に向き直る。

「勇敢だな」

「おじさん達、誰? なんでお兄さんをいじめるの?」

「オレらおじさんかよ!? 鳥戸はともかく!」

「湯野、いらないことを言わないでください」

「ハヌマ……やめろ」

 彼はなんとか身体を起こそうとした。とたん、湯野の靴の先がのどに入った。激しくせき込んだ頭上からいらだった声が降ってくる。

「黙っておとなしくしてろっての!」

「! ひどい!」

「お前もうるッせんだよ!!」

 湯野に怒鳴りつけられ、少女がぐっと黙った。

 と、思いきや。


「――お兄さんから、離れてよ」


 すっと少女の声音が変わり、湯野が大げさに凄む。

「ンだと?」

「それで脅してるつもり? 大した力もないくせに偉そうな態度とったって恥ずかしいだけだと思わない? 思わないか? 実際恥ずかしいと思わないからそういうことするんだもんね?」

 湯野は絶句した。それは他の者も、霞む視界に少女を捉えた彼自身も同様だった。

 口調に対してだけではない。


 漆黒だったはずの少女の瞳が、鮮やかな金色に変わっていた。


「ねぇあなた達? “あたし”を起こすなんて……覚悟はできてるんでしょうね?」

 くっと、少女は唇をゆがめた。



            * * * * *



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