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-BLACK MARIA-  作者: 高砂イサミ
12th episode
63/66

December 18 (Tue.) -14-


 ――暗い。

 何も見えない。


 ここ、どこだっけ……?


 マリアはぼんやり考えた。と同時に、目の前にぱらりとまっ白なスクリーンが広がった。

 カラカラと音がしてぼやけた映像が流れ始める。「映画」というのによく似ていた。アンジュと詩織と3人でほんの何回か観に行ったやつだ。それを無心に眺めるうち、徐々に、画像ははっきりと映るようになった。


『おねえちゃん、はやくはやく』


 黒髪の少女がふり返った。まだ小さかった頃のアンジュだ。歩いているのは研究所の廊下――どうやら訓練室へ向かう途中らしい。ずいぶんとなつかしい光景だった。

 廊下の先で扉の開く音が聞こえた。向こう側に焦点が合うと、白衣の相川博士が手招きをしていた。

 アンジュが足を速め、つられて自分も小走りになる――

 それは間違いなく、あの頃の日常だった。


 ああ。これはもしかして、うわさの走馬燈ってやつ……?


 画面がぱっと切り替わった。今度は外の風景だ。


『おねえちゃん、こっちみたいだよ!』


 今度は自分がふり返ったように、くるりと視点が回った。

 見上げたアンジュは今と変わらない容貌で、しかし硬い表情をしていた。これはたぶん、研究所から相川家に向かっているところだ。

 自分が“クリス”の人格を作り上げ、能力すべてを失ったかのようにふるまい始めたあと、政府からは予算がおりなくなった。そのために国内の研究所は閉鎖した。他にSPM判定をされた“黒川麻里”のクローン達は、もういなかったから。そこまでの展開はマリアの読み通りだった。

 しかも、その後は適当な施設に放り出されると予想していたところを、博士の娘の面倒を見さえすれば、いわゆる“普通の生活”ができるということになって。

 そして――


『え、と。どなたですか……?』


 詩織との初対面。インターホン越しに聞いた声は警戒と共に、疲れたような響きを帯びていた。

 彼女が母親を亡くしたばかりらしいとは聞いていた。反面、彼女の方にはまだ話がいっていなかったようだ。しかし「相川先生の紹介で」とアンジュが告げると、すぐにドアは開かれた。

 そろりと半分だけ顔をのぞかせた詩織は目を赤く腫らしていた。泣いていたのだとはっきりわかった。


『はじめまして。私達は』


 どう説明するべきか悩んだようで、アンジュは言葉に詰まった。

 と――


『……はじめまして』


 ごしごしと目をこすった詩織は恥ずかしそうに笑って、ドアを大きく開け放った。

 受け入れてくれた。詩織からすれば何者とも知れない自分達を。


 “家族”に、してくれた。


 ああ。そんなこともあったっけなぁ……


 マリアも思わずほほえんだ。いろいろと不自由はあったにせよ、やはり自分の生は幸福だったと思う。アンジュ、相川博士、詩織。皆のおかげで。

 最後までやりたいこともやらせてもらった。もう……思い残すことはない。


               ――本当に?――


 ほんの少しだけ、詩織やアンジュ、他の“M”達のこれからが気にならないこともないが。きっとだいじょうぶだろう。ツカサとアズマが他の者を律してくれる。アンジュもサポートしてくれるはずだ。そう信じている。

 だから自分はもう、安心して――


              ――……うそつき――


「ちょっと! 誰なの!」

 口を開くと声が出た。予想外だった。しかしそれよりも、思考に割り込まれた不快感の方が強かった。


                ――誰?――


「勝手に人の中でしゃべらないで。あんた、何者!」


               ――…………――


 ゆらり。

 目の前の闇が動いた。徐々に凝って人の形になっていく。

 マリアと同じくらいの少女の姿に。

「――え、え……!?」

 目を見張ったマリアと“同じ”少女の姿。

 そして彼女は口を開いた。


「わたし、だよ。“マリアおねえちゃん”」



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