December 18 (Tue.) -12-
「ひとつ、聞かせてもらっていいかな」
まばたきすらせずに、マリアはツカサを見つめ続ける。ハヌマも動けないながら、マリアをにらみ返してきた。
「あなた達が襲った元議員さん。ひとり、死んだよ。どんな気分?」
ぴくりとハヌマの表情が動いた。声はない。しかしはっきりと、その思考はマリアの中に届いた。
――いい気味だ
我らを狭い世界に閉じこめた、無能な老人が――
「……」
マリアはあきれて息を吐いた。
「子供じみた自己顕示欲で罪を犯し、正当化して省みない。ダメだね。やっぱり、ダメだ」
頬をはさむ手に力を込める。さらに、顔を近づける。
――頭が痛い。
「とはいえ今のニホンの法律じゃ、あなた達を裁けない。あなた達がやったってことを証明する方法がない……警察はSPPによる犯罪なんて想定してないからね。けど、許されていい限度は超えてると思うんだよ。このまま放っておくなんて、できない」
だから、とマリアは宣言する。
「あたしの名――“囚人護送車”の名の下に。あなたを送り届けてあげる。忘却という、暗闇の監獄へ」
カッと目を見開く。意識を集中させる。
彼が2度と思い出せないように。自分のしたことも。心から望んでいたことも。彼の根幹ともいうべき記憶をすべて。
「それが、あなたへの罰だ……」
パンッとはじかれるような感覚。
手応えはあった。ハヌマは一瞬のけぞり、ゆっくりと横向きに身体を倒した。それを見たリョウが声を上げる。
「兄貴――!!」
「あなたのお兄さんは、もう、あなたのことを覚えていない」
マリアはけだるく髪を払った。
頭が、痛い。
「あなたへの罰は、そういうこと。罪を噛みしめて……悔いなさい」
目配せすると、アンジュが素早くリョウの首を打った。リョウががくりと脱力したのを確認し、マリアはアンジュの方へと歩いていく。
1歩進むたびに視界は白濁していった。アンジュに笑いかけようとしたが、自分の表情がどう動いているかも、もうよくわからない。
「アンジュ。SPMがまだ……3人、残ってる」
「……ええ」
「たのまれて、くれるかな?」
「もちろんよ」
アンジュもこちらへ歩いてきた。目の前で膝をつき、マリアを見上げてくる。もう表情はよく見えない。しかしマリアの脳裏には、幼い頃のアンジュの泣きそうな顔がふと浮かんだ。
「そんな顔、しないで。……ツカサさんに伝えて。ここから先は、前の生活に戻ろうが、自首しようが、また抗おうが……好きにするといい。……だけど」
息が切れて仕方がない。マリアは無理やり呼吸を整え、言葉を絞り出した。
「せっかくなんだから、堂々と胸を張って歩ける生き方しろ、って――」
力が抜けた。自分の身体を支えきれずに崩れ落ちる。
――これで、やっと。楽になれるのかな――
誰かに名を呼ばれたような気もしたが、もうどうでもよかった。
なかば以上夢見心地で、最後に、マリアはつぶやいた。
「じゃあね、みんな。ばいばい」




