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-BLACK MARIA-  作者: 高砂イサミ
11th episode
61/66

December 18 (Tue.) -12-


「ひとつ、聞かせてもらっていいかな」

 まばたきすらせずに、マリアはツカサを見つめ続ける。ハヌマも動けないながら、マリアをにらみ返してきた。

「あなた達が襲った元議員さん。ひとり、死んだよ。どんな気分?」

 ぴくりとハヌマの表情が動いた。声はない。しかしはっきりと、その思考はマリアの中に届いた。


 ――いい気味だ


  我らを狭い世界に閉じこめた、無能な老人が――


「……」

 マリアはあきれて息を吐いた。

「子供じみた自己顕示欲で罪を犯し、正当化して省みない。ダメだね。やっぱり、ダメだ」

 頬をはさむ手に力を込める。さらに、顔を近づける。

 ――頭が痛い。

「とはいえ今のニホンの法律じゃ、あなた達を裁けない。あなた達がやったってことを証明する方法がない……警察はSPPによる犯罪なんて想定してないからね。けど、許されていい限度は超えてると思うんだよ。このまま放っておくなんて、できない」

 だから、とマリアは宣言する。


「あたしの名――“囚人護送車ブラックマリア”の名の下に。あなたを送り届けてあげる。忘却という、暗闇の監獄へ」


 カッと目を見開く。意識を集中させる。

 彼が2度と思い出せないように。自分のしたことも。心から望んでいたことも。彼の根幹ともいうべき記憶をすべて。

「それが、あなたへの罰だ……」

 パンッとはじかれるような感覚。

 手応えはあった。ハヌマは一瞬のけぞり、ゆっくりと横向きに身体を倒した。それを見たリョウが声を上げる。

「兄貴――!!」

「あなたのお兄さんは、もう、あなたのことを覚えていない」

 マリアはけだるく髪を払った。

 頭が、痛い。

「あなたへの罰は、そういうこと。罪を噛みしめて……悔いなさい」

 目配せすると、アンジュが素早くリョウの首を打った。リョウががくりと脱力したのを確認し、マリアはアンジュの方へと歩いていく。

 1歩進むたびに視界は白濁していった。アンジュに笑いかけようとしたが、自分の表情がどう動いているかも、もうよくわからない。

「アンジュ。SPMがまだ……3人、残ってる」

「……ええ」

「たのまれて、くれるかな?」

「もちろんよ」

 アンジュもこちらへ歩いてきた。目の前で膝をつき、マリアを見上げてくる。もう表情はよく見えない。しかしマリアの脳裏には、幼い頃のアンジュの泣きそうな顔がふと浮かんだ。

「そんな顔、しないで。……ツカサさんに伝えて。ここから先は、前の生活に戻ろうが、自首しようが、また抗おうが……好きにするといい。……だけど」

 息が切れて仕方がない。マリアは無理やり呼吸を整え、言葉を絞り出した。

「せっかくなんだから、堂々と胸を張って歩ける生き方しろ、って――」

 力が抜けた。自分の身体を支えきれずに崩れ落ちる。


 ――これで、やっと。楽になれるのかな――


 誰かに名を呼ばれたような気もしたが、もうどうでもよかった。

 なかば以上夢見心地で、最後に、マリアはつぶやいた。


「じゃあね、みんな。ばいばい」



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