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-BLACK MARIA-  作者: 高砂イサミ
1st episode
6/66

November 30 (Fri.) -3-


 雪を踏む足音が遠ざかり、少し経って。

 おもむろにアンジュが伸ばしかけた手を、クリスがさっと押さえた。

「詩織ちゃんがいない間に始末しよう、とか――思ってないよね、“お姉ちゃん”?」

 アンジュはちらりとだけクリスを見た。

「あなたこそ、どうして急に?」

「ん? ああ。さすがにちょっと驚いちゃったみたい。話には聞いてたけど、実際に会うのは初めてだったし」

 それを聞いたアンジュは、改めて、ため息混じりに視線を移した。

「詩織ちゃんが気づいてしまうかと思って、ハラハラしたじゃないの」

「平気平気。人を疑うような子じゃないから。あ、これ、けなしてるんだよ?」

「でしょうね」

「まぁそれはひとまず置いといて」

 クリスは青年に顔を近づけた。小さな指が、ナイフの突き立つ肩をなぞる。

 ややあって、口の端がにっと上がった。

「これ刺してないね。“刺さって”る」

「どういうこと?」

「刃が“進入”した跡がないってこと」

 妙に楽しげなクリスは、上目遣いにアンジュを見上げた。

 その瞳が街灯の光を映したように、キラキラと光っている。

「最初から埋まってたような状態っていうか。普通じゃありえないね。ちょっとオカルトっぽい感じかな?」

「……!」

「それでもけっこう痛かったろうけど、下手に抜こうとしなかったのは正解。抜いたら傷を広げるだけだったと思うよ」

 クリスは無造作に、ナイフの柄をつかんだ。

「じゃあこれ、今のうちに出しちゃおっか」

 ふっと短く息を吐き、クリスは目を閉じる。

 間をおかず「トスッ」と小さな音がした。ナイフはクリスの手の中にはなく、いつの間にか雪の上に落ちている。

「うん。久々のわりにうまくいった」

 手を握って開いて、クリスは得意げに言った。ナイフはアンジュが拾い上げる。そこにクリスがすり寄った。

「ね。彼、もちろん連れてってくれるんでしょ?」

 アンジュは苦笑とともにうなずいた。

「あなたが望むのなら。私が断れるはずがないわ」

「ありがと、“お姉ちゃん”!」

 手を伸ばしてアンジュと青年の身体に積もる雪を払ってから、クリスは天使のような笑顔で小首をかしげた。

「さてと。とりあえず一段落したことだし……もうそろそろ、“クリス”に返さなくっちゃね?」



            * * * * *



 - - <メール本文>- - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -


  お父さんへ


   お食事に行って来ました。

   おいしかったです。どうもありがとう。


   帰りに、ちょっとびっくりしたことがありました。

   落ち着いたらくわしいことを書きます。

                                   詩織


   '57.11.30(Fri.) PM11:23


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