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-BLACK MARIA-  作者: 高砂イサミ
11th episode
59/66

December 18 (Tue.) -10-


 ハヌマはとっさに身を引いた。ワイヤーは届かず床に落ちかかり、再びタナトの手元へ戻っていく。その時。

「兄貴!?」

 背後からリョウの声と、走ってくる足音が聞こえた。間をおかずにアンジュの声が続く。

「私が相手よ」

「リョウ! 黒井アンジュは足を負傷している! 仕留めろ!」

 いいところへ来てくれた。リョウがアンジュの足止めをしてくれれば、自分はタナトに集中できる。タナトとの1対1ならば、勝てる。

 一瞬で思考して強く床を蹴った。

 ワイヤーの動きさえ見切れば恐れる相手ではない。まずは避けるためのスペースを確保する。そのためには、広間へ。

「待て、ハヌマ!!」

 思惑通りにリョウが追いかけてくる。玄関ホールまでは遠くない。歩数にして、あと3歩。

「!」

 殺気を感じ前へと飛び込む。頭上を銀色がかすめていった。

 追撃を警戒し即座に身を起こす。

 そうして目にしたのは、鬼気迫る形相のタナトと――


「はい。そこまで」


 その頭上にふわりと浮き上がったマリアだった。マリアはそのまま、タナトに突撃した。

 不意をつかれたタナトはつんのめるように前へ倒れた。ハヌマもつかの間あっけにとられ、はっとして気を引き締める。

 マリアはやはり、こちらを見てはいなかった。タナトの背に馬乗りのまま、にっと不敵に笑ったのがわかった。



            * * * * *



『――次のニュースです。先日ショッピングセンターの4階から転落し、意識不明の重体となっていた鈴木元議員が、今日昼過ぎ、入院先の病院で死亡しました。現場の状況に不自然な点が多かったことから、警察はなんらかの事件に巻き込まれたものと見て、捜査を――』


 牧田医師の車には古いタイプのラジオがついていた。そこから流れてきた不穏な単語に、詩織はぴくりと顔を上げた。

「あーあれな。結局ダメだったか。ここんとこ妙な事件がいろいろで、物騒だよな」

 くわしい事情を知らない牧田医師に、詩織は黙ってうなずくだけにしておいた。


 相川邸までは、もうすぐだ。



            * * * * *



 マリアはぐっとタナトの両腕を押さえつけ、意識を集中させた。彼の記憶をのぞきこむのは比較的簡単だった。


 ――はじめまして、ヨウスケ君。


 ツカサに出会ったのはそれほど前のことではない。場所は研究所。SPP訓練がうまくいかず、半ば投げやりになっていた頃だった。

 電気に関わるSPPの素養は成長してから突然現れた。それ以来親に怪我をさせてしまったり家電を壊したり、いいことなどないように思う。研究所では「うまく“力”とつきあえるようになれば大丈夫」と言われたものの、なかなか慣れることができず、次第に鬱屈が溜まっていった。研究所職員に八つ当たりをしたりもした。

 そんなところへ、ツカサはふらりとやってきた。


 ――焦ることはないよ。君にもきっとできる。


   よかったら、僕がコツを教えてあげようか……?


 それからというもの、研究所での訓練とは別に、ツカサからも教えを受けるようになった。それまでまるでうまくいかなかったSPPの発現と制御が、嘘のように楽にこなせるようになった。

 ツカサのおかげで今の自分がある。


 だから今度は、自分が、ツカサのために――


「……ふうん。そうなの」


 ここまでを一瞬で読みとって、マリアは思わずくすりと笑った。

「本当に好きなんだね。じゃああなたのことは、ツカサさんに任せちゃえばいっか?」

「何を言ってる!」

 タナトが身体をひねって逃れようとした。と同時にマリアは力を抜いた。勢いでタナトが仰向けになる。その頬を両手でがしっと押さえ、マリアは間近に目を合わせた。

 同じ金色の瞳。それは同じ血統の証。

 けれど、だからこそ容赦はしない。

「なっ……!?」

 干渉する。彼の精神の奥まで手を伸ばす。


「あたしがしてあげられるのは、ここまでだけどね」


 中の一部をつかんで握りつぶすイメージ。

 びくりと痙攣したタナトは、そのままゆっくりと意識を落とした。これでもう彼はSPPを発動できない。

 これ以上、“力”に振り回されることもないだろう。

「ふう。……さてと」

 そしてマリアは立ち上がる。

 顔を上げると、ハヌマは緊張の面もちで身構えていた。

 マリアは鋭くそれを見返した。


「うふふ。待たせてごめんね。今度は――あなたの番だよ」



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