December 18 (Tue.) -9-
一気に駆けて間合いを詰めた。しかしアンジュはバックステップで距離をとろうとする。ハヌマはぐっと踏み込み、前方へと飛び込んだ。床についた手を支点に低く身体を回転させ、アンジュの足を払う。
「あっ」
届いた。バランスを崩したアンジュは床を転がり、再び立ち上がろうとして、がくんと片膝をついた。その手はさりげなく左足首を押さえている。
ハヌマも素早く身体を起こし、体勢を整えた。
「手負いは手負いか」
「わかっているのなら、手加減くらい――」
言いかけて、アンジュは横へ跳んだ。その後を追うように金属のワイヤーが鋭く伸びた。
「逃げるな、黒井アンジュ」
「無茶な注文ね!」
「タナト。そのまま追い込め」
ワイヤーを自在に操りながらタナトが前へ出る。ハヌマも牽制しながら立ち位置を変え、アンジュが動ける範囲を狭めていく。
彼女にはリョウとアシヤの2人がかりでも敗れたというが、敗北は無駄ではなかったようだ。今のアンジュはハヌマと初めて手合わせをしたときよりも格段に遅い。足を痛めたというだけでなく、2人の与えたダメージがまだ残っているのだろう。
「っ、く!」
とんっとアンジュの背が壁についた。またとない好機――の、はずだった。
たたみかけようとしたハヌマは、ぞわりとした怖気に足を止める。
理屈ではない。ただ直観した。近づいてはいけない。
「――タナト!」
まずは完全に動けなくさせた方がいい。電撃発動を指示しようと、ハヌマはタナトをふり返った。
そこにいたのは、タナトだけではなかった。
「黒井マリア!?」
マリアは宙に浮きながらタナトの顔を間近にのぞきこんでいて、ハヌマには目もくれなかった。
そして、タナトは。
「…………!」
マリアがぴょんと跳び離れた。その拍子にタナトと目が合う。
「ハヌマ。……本当なのか」
彼にしては珍しく、はっきりと感情が読みとれる表情だった。浮かんでいるのは困惑と怒り。まさかという思いにハヌマは後ずさる。
そこでようやくマリアがこちらに顔を見せた。
「何をした、黒井マリア」
「何って? もうわかってるんじゃないの? ちょっと、“事実”を教えてあげただけだよ」
「ハヌマ――お前!!」
とっさにマリアに問い返したのは失敗だった。
タナトの敵意を感じる。背後ではアンジュがそろそろと移動している気配。もしかしたらこれは、最初からそのつもりで。
タナトは“ヘクセ”の中でも特に、ツカサに心酔している。だからあのことを――ツカサを屠ってきたことを、誰よりもタナトには知られないよう注意を払っていた。そのはずが。
「ハヌマあああああ!!」
タナトが叫び、ハヌマに向けて、ワイヤーを放った。




