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-BLACK MARIA-  作者: 高砂イサミ
10th episode
56/66

December 18 (Tue.) -7-


 シンは硬直した。動けない。身体がまるでいうことをきかない。

「緊張しないしない。――信じる信じないはともかく、“これ”が。あなたの知りたいことだよ」

 突然、頭の中に映像が流れ込んできた。

 モノクロームに近いが、目の前にいるのはハヌマのようだ。かすかに覚えのある声も聞こえる。

 静かな言い合い。のはずが。

 ハヌマがナイフを取り出した。


「――!」


 軽い衝撃と共に視界がガタガタと下に落ちた。

 刺されたのか。

 ハヌマに――ツカサが?

「そう。今のはあたしが神崎ツカサさんの電話から受け取った“記憶”」

「え、ウソだろ……あの人……!?」

 アシヤが呆然とつぶやいている。同じイメージを見ているのだろうか。シンはかろうじて動く視線を横へとずらした。すると研究所の医務室の風景と重なるように、マリアの姿が浮かんだ。

 注意深くこちらを観察しているようだった。そんな彼女に、アシヤがくってかかる。

「なんで……なんで!! “師”はハヌマに……!?」

「はいはいストップ。――ツカサさんは生きてるよ。今のとこね」

「なんでわかんだよ!!」

 マリアは「どうどう」と手を振った。

「あたしだって“M”なんだよ。ツカサさんとは血縁だし、おまけにお互い精神感応系だもん。1度つながっちゃえば、意識を追っかけるくらいのことはできるよ」

「……ほんとに、無事なんだよな?」

 アシヤは泣きそうに言い返した。シンもほっとして細い息を吐く。マリアの言葉に嘘は感じられない。ただ自分が信じたいだけかもしれないが、それでも。

「それにしたって、なんで、こんな……!」

 アシヤの声はだいぶ落ち着いた。対するマリアは、あっけらかんと小首をかしげた。

「価値観の相違ってとこかしらねー?」

「それは、ツカサさんと、ハヌマさんの?」

「あは。もうわかってるんでしょ? 2人のやりとりまで見せたはずだよ」

 容赦のない返答と同時に、急に視界がクリアになった。それでもまだ、目の裏にあの光景が焼きついているようで、シンは強く心臓のあたりを押さえる。

「……そんな」

「で、だ。――あなた達、どうするの?」

 ふわりとマリアが床に下りた。そうしてきゅっと唇の端を上げた。


「これからどうしたい? 今度はハヌマさんに従って、まだ“ヘクセ”を続けるの?」


 シンは息を呑む。一瞬のうちにいろいろな思いが頭をよぎった。

 最初は。ツカサから自分達の理不尽な境遇を聞かされた時は、ひどく憤りを感じた。だから“ヘクセ”の計画に加わることを決めた。そのことは後悔していない。しかし、だんだんと怖くなったことも事実だ。

 自分達がまずターゲットと定めたのは、SPM国際研究期間との協定を結んだ当時、政権の中枢にいた政治家達だった。個人的に見も知らない人間なのだし、踏み台にはちょうどいいとさえ思っていた。

 なのに、実際に行動を起こした後は、自分の中には苦い後味しか残らなかった。

 そんなことをしているうちに、今度は仲間同士で傷つけあうことになってしまった。

 いつからこうなってしまったのだろう。どこで間違えたのだろう。

 自分はただ、皆といっしょで。


 “居場所”がほしかっただけ――


「……ふふ」

 笑い声がした。とおもった瞬間、強く頭をつかまれた。

 驚いて見開いた目の前には、いつの間にか黄金があった。


 「まあ一応、合格にしとくわ」


 パンッと頭に軽い衝撃を受けた。

 そして視界が、意識が、白く染まった。



 ――あなた達はまだ、大丈夫だね。


   だから……“力”を奪うだけで、許してあげるよ――



            * * * * *



 マリアはゆるゆると息を吐いた。また頭痛が始まっている。痛みは波のように上下する。頂点に達すると、さすがに堪えた。

「だけど、まだ……動けないほどじゃない」

 うつぶせに倒れている2人を見下ろした。どちらからもかすかな呼吸音が聞こえてくる。

 次に目を覚ますのはおそらく数時間後。そして、その時には。

「あんた達はまだ引き返せる。だから余計なことは忘れて、ちゃんとまわりを見てみなさい。居場所なら、きっとあるはずだから」

 シンとアシヤ――本来の名前は、“カズキ”と“ソウタ”。

 マリアは彼らに強力な暗示をかけた。2度と、SPPの発現のやり方を思い出せないように。

「あと4人、と、プラスアルファ。うーんきっついわー……」

 1人でくすくすと笑いながら、マリアは顔を上げた。動けるうちは動く。そう決めて、覚悟も済んでいる。


「さあ。残りの全員におしおきするのと、あたしが潰れるのと、どっちが先か。

 ……勝負よ」


 つぶやいたその時。向こうの壁の陰に、気配を感じた。



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