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-BLACK MARIA-  作者: 高砂イサミ
10th episode
55/66

December 18 (Tue.) -6-


「3手に分かれる。リョウ、シンとアシヤを連れて2階を捜せ。タナトとシバは玄関付近から。俺は奥から当たる。トリト、ついて来い」

「……わかりました……」

 玄関ロビーに踏み込むなりハヌマが命令を飛ばした。トリトが渋い表情でうなずくそばから、リョウとタナトが動き出す。シンはあわててリョウを追いかけた。

 このままハヌマに従っていいのかどうか、わからない。それでも従うほかなかった。

 自分達はどこへも行けない。ハヌマから逃げたところで、行ける場所もいられる場所も。あるはずがないのだ。

「シン。早くしろ」

 リョウが先に立って階段を上がっていく。シンもあきらめて足を速めた。

 そして2階の廊下で、3人は1度立ち止まる。電灯はすべて灯されて、赤い絨毯がずっと続いているのがはっきり見て取れる。それでもやはり他の人間の気配は感じられなかった。これはマリアがあえて無人の舞台を用意したと考えるべきだろうか。

 しかし、なんのために……?

「探せ。陰からの不意打ちに注意しろ」

 リョウがシンを見て、廊下の向こうを指さす。あちらからかかれということらしい。おとなしく扉のひとつに手をかける。そこまで見届けたリョウはふいときびすを返し、壁を折れて姿を消した。

 シンのさらにうしろから来たアシヤは、困ったようにシンと壁とを見比べてから、こちらへちょこちょこ歩いてきた。そのままシンの耳元に顔を寄せる。

「なーシン、ハヌマがこえぇんだけど」

 ささやいた声は少しだけ震えていた。かなり強力なSPPを発現させるアシヤだが、気迫では非SPMのハヌマやリョウに負ける。というかそもそもがサボり屋なので、シンでさえ、1度は格闘訓練で「参った」と言わせたことがあるくらいだ。

 ただ、アシヤの自分に正直なところが、シンは嫌いではなかった。

「うん……怖いな」

「だよな! “師”もそこそこ怖かったけどさ。なんていうか、怖さの種類が違うよなー……」

 シンはうなずいてから、ふと、小声を返してみた。

「今日のハヌマさん、なんだか変って気がするんだけど。アシヤはどう思う? ぼくの考えすぎかな」

「んー? まあヘンっちゃヘンかもな。あの人、何するにもだいったい“師”に聞いてからやってたじゃん? 今回それしてた?」

「してない、ね」

 やはりアシヤも同じことを考えていたようだ。そうなるとますます、黒井マリアの言ったことが気になった。


   柱だったはずのツカサさんを“切り捨てた”今となっちゃ、あんた達は

   理念もなにもなく突っ走るただの暴走集団だ。



          ――真実を、知りたいのなら――



「……ハヌマさんより先に、黒井マリアに会えるかな」

 シンは思わずこぼした。アシヤがきょとんと目を見開いた。

「なんで? まさか惚れた?」

「いやいやいやいや。まだ直接顔会わせたこともないから。まあ、会いたいような会いたくないようなって気分なんだけど――」


「心配いらないよ。もう、会ってる」


 不意に間近で声が聞こえ、シンは心底驚いて飛びすさった。

 ふり向けば、目の高さに黒髪の少女の顔。いつからいたのか。気配をまったく感じられなかったのみならず、少女は重力に逆らいふわふわと宙に浮いていた。

「あー何それ。傷つく反応だなぁ」

「黒井、マリア!」

 アシヤの瞳が金に染まった。戦闘態勢だ。他方マリアも、金の眼をきらきらと輝かせている。どうもこちらの反応をおもしろがっているように見えた。

「あなた達とは“初めまして”かな? ケンカしにきたんじゃないから落ち着いて。ていうか、もう1人が来ると面倒だからちょっと静かにしててね?」

「なっ、何言って」

「しー」

 マリアはひとさし指を立て、自分の唇に当てた。

 シンは拍子抜けした。何やら恐ろしげな噂ばかり耳にしていたが、こうして見る限りは普通の少女だ。――いまだ宙を漂っているという事実の他は。

「ケンカじゃないって、じゃあ何しに出てきたんだよ」

 アシヤが顔をしかめて言い返した。それでも声量が落ちついてきているあたり、子供の、それも女の子の“お願い”効果は絶大だな、などというどうでもいいことをシンは考えた。

「何って。お兄ちゃん達と、少しお話ししたいな、と思って……」

「オハナシだ……?」

「ダメかな?」

 マリアは上目遣いになった。アシヤがうっと詰まり、右を向いて左を向いて、助けを求めるようにシンを見た。シンは1歩前に出た。

「それはツカサさんのこと? 君は何を知ってるの、黒井マリアさん?」

「……。知りたい?」

 ゆっくりと、マリアの表情が変化した。突然顔をのぞかせた妖艶さに、シンは不覚にもどきりとする。

 ほかの誰よりも深い金色から、目を離せない。


「あたしが知ってること、本当に知りたい? だったら……あたしの眼、よーく見てくれるかな……?」




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