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-BLACK MARIA-  作者: 高砂イサミ
10th episode
51/66

December 18 (Tue.) -2-


 腕時計が午前0時を指した。

 2度目に訪れた相川邸はひっそりと静まりかえっている。ひどく不気味な雰囲気だった。深夜とはいえまるで人の気配が感じられない。前回は多数の警備員を“処理”しなければならなかったというのに。

 すでに敷地内への潜入は成功した。実行隊6人は息を殺し、屋敷の影に身を寄せた。


「目標はユノとシバの奪還。そして黒井姉妹と、神崎アズマの排除」


 ハヌマの静かな宣言に、まずタナトとリョウがうなずいた。リョウは首や手に包帯を巻いており、動きが少しぎこちない。それでも表情は気迫に満ちていた。

「リョウ。今度こそ、黒井アンジュに勝て」

「わかってる。もう惑わされない。俺達は間違っていない」

「タナト、アシヤ」

「“師”の理想を実現する、そのためならば」

 タナトがいつもの淡々とした、揺るがぬ調子で返答する。しかしそのあとから、アシヤが間の抜けた声を上げた。

「けどさーあの女バケモンだよ? いくら“師”の指令だからって、このまま突っ込むとかさ、そんなのありー?」

 リョウと同じく包帯だらけのアシヤは、頭を掻きつつ顔をしかめる。2対1でも勝てなかったアンジュに若干の恐れを抱いているようだ。そんなアシヤを、ふり返ったハヌマが睨んだ。

「泣き言を言うな」

「だーってさー」

「……あの! ハヌマ!」

 シンは、思い切って口を開いた。

 全員の視線がこちらへ向いた。一気に緊張が高まる。シンは内心で自分を励ました。

「排除というのは、絶対に必要なんでしょうか? しかもトールまでって……本当に、“師”がそんなことを言われたんですか?」

「疑うのか」

「そういうわけじゃないですが……!」

 ――何か、変だ。

 シンは眉根を寄せる。そもそも今日はいつもと違った。ツカサは任務の場に同行することはまれだったものの、出発前には必ず姿を見せて、任に当たる者を激励の言葉と共に送り出してくれた。それが今回はなかった。突然のハヌマの号令だけで、ここまできてしまった。

「ならば従え。我々の悲願を達成するためにはやむをえないことだ」

 剣呑な目を向けられ、一瞬すくむ。しかしシンにも言いたいことはある。

「……ぼくは……」

 シンはアズマと歳が近い。そのため研究所での訓練は一緒になることが多かった。

 ごく弱い物体移動能力しかない自分。それでいじけていたシンを、アズマはよく励ましてくれた。

 だから、本当は。


「ぼくはアズマ君とは……戦いたくないです」


 なんとか言い切った。

 そのとたん、乱暴に胸ぐらをつかまれた。

「そんな甘いことでは足下をすくわれる。邪魔だ」

 ハヌマの腕力は強い。足が地面から浮き上がるほど締め上げられて、シンは身をよじった。

「は、はなっ……」

「従わぬ者は必要ない」

 いきなり投げ捨てられ、地面にたたきつけられた衝撃で息が止まった。思わずせき込んだ頭上で、トリトが驚いたように言うのが聞こえた。

「やめてください! いくらなんでも、それは」

「お前もか。トリト」

 ぞっとするようなハヌマの声。シンは恐怖で顔を上げられなくなった。

「ハヌマ……?」

「これが終われば、次は中枢に切り込むことになる。今こそ我々は一体でなければならない。結束を揺るがすような真似は、許されない」

「それはわかりますが……一体、どうしたっていうんです」

 トリトの声も震えていた。

 やはりこれまでとは違う。よくわからないままどろどろとした場所へ踏み込んでしまったような、ひどくいやな感じがする。

 ツカサに従うと決めた時に、まっとうではない道を行く覚悟は決めたが――それにしても。

「共に戦うか、さもなければ、ここで消えるかだ。選べ」

 全員がしんと押し黙った。“消える”、とは。

「返答を」

 トリトが緊張気味に息を吸い込む気配がした。答え方によっては何が起こるかわからない。シンはやっと顔を上げ、逃げ腰で身体を起こした。

 その時だった。


 ――まったく。大した困ったちゃんだよね、あんた達って!


 どこからともなく、黒井マリアの声が響いてきた。



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