表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
-BLACK MARIA-  作者: 高砂イサミ
9th episode
43/66

December 17 (Mon.) -1-


 ――ゃん


 ――おね……ちゃん……




「……ん」

 時計の音が響いた。ホールの柱時計が12時を告げる。ふわふわの羽毛布団に埋もれながらマリアが目を開くと、すぐ横で、あまり機嫌のよくなさそうな声がした。

「起きたか」

「牧田せんせ……? こんばんはぁ」

 ベッドの脇の椅子で、世話になっている外科医師が腕組みをしていた。マリアはもう少し頭を動かそうとしたが牧田の目に止められる。

「事情はよく知らねぇが、無理するな」

「どうしてセンセーがここにいるの?」

「相川に呼びつけられたんだよ。手当ては出すから院を休んでこっちをたのむとさ。何をやってんだ、あいつは」

「あはは、ありがとー……」

 頭ががんがんと痛んで集中できず、生返事のような響きになってしまう。

 と、不意に牧田医師が身を乗り出してきた。

「お前さん――どうした?」

「なにが……?」

「いつもと雰囲気が違うな。てか、いつも一緒の姉貴はいねぇのか。相川の娘は」

 そこまで言ってからあわてたように口をつぐむ。病人相手に申し訳ないと思ったようだ。マリアは口だけ笑みの形にした。

「ちょっと、出かけてる……アズマ君もいっしょ」

「アズマ“君”?」

「あ」

「ホントにどうした。まさかお前さん、実はクリスちゃんの双子の姉妹だとか言わねぇよな?」

 思いきり怪訝な顔をされた。まあ似たようなものだろうかと思いつつ、面倒なので答えなかった。

 その沈黙をどう受け取ったのか、牧田医師は深く座り直してため息をつく。

「まあいい。詳しいことは聞かねぇよ。ただなあ。お前さんに言ってもしょうがないんだが、相川はいっとき音信不通だった時期があってな。それと関係あるんじゃねぇかって気はするんだがな……」

 不満げな顔で、それでも詩織の父を案じる色をにじませる。わざわざ思考を“読”まなくともそれがわかった。彼はもしかすると、詩織の父と案外親しくしていたのかもしれない。

「なんだよ。なに嬉しそうな顔してんだ」

 牧田医師が睨んできた。今度は本当に顔が笑っている自覚をしながら、マリアはまたまぶたを閉じる。

「心配してくれる人がいるって、いいよねぇ」

「はぁ?」

「友達でも家族でも。普通の意味での家族ってのは、あたしにはいなかったりするんだけど」

「ってお前。姉貴がいるんじゃねぇか」

「……あれは分身みたいなもの、かなー……」

 共に黒川麻里から作られた、同じ遺伝子を持つ自分とアンジュ。だからどちらかといえば一心同体、互いが互いの一部といった感覚だ。そんな関係も悪くはないが、『家族』とは少し違うのではないか。マリアはそう考えている。

「家族って、なんだろうね。特別な関係なのかもしれないけど、それだけでうまくやってけるわけじゃなくて……実のお兄さんと折り合いがつかなかったり、父親とうまくやってけない場合だってあるわけで、さ」

「お、おう」

「その点あたしは、先生達にはそこそこ優しくしてもらったし、アンジュも詩織ちゃんもいたし。恵まれてたと思うよ……これ、本音」

「おいおい。何があったってんだよ本当に」

 牧田医師の困惑を感じながら。意識はゆっくりと落ちていく。

「あの人も……早く、気付けばいいのにね……」

「言ってる意味がわからねえよ! 本当に大丈夫なのか?」

「ん、今のとこだいじょぶ……何かあったら……わかるから……」

 最も近しい存在だからか、アンジュからの呼びかけは、かなり距離があっても感じ取ることができる。そのアンジュからまだ本気のSOSはきていない。

 だから信じることにする。アンジュとアズマを。そして、詩織を。

「ごめん……寝るね……」

 牧田医師からの返答は聞こえなかった。安心しきってというわけにはいかないが、マリアは比較的穏やかに眠りについた。



            * * * * *



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ