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-BLACK MARIA-  作者: 高砂イサミ
7th episode
34/66

December 15 (Sat.) -10-


「ずいぶん、おおげさだね」

 マリアはそう言いながら片方の眉を上げた。腕を解き、重心を落とす。ツカサも半身を引き、それを合図に葉沼と棚戸が身構える。

「そんなことはないよ」

「へー」

「そんなうさんくさい目で見ないでほしいな」

「あんたのことは根本的に信用してないし」

「それは仕方がないと思うよ。だけどそれにしては、あっさり認めたね。君達の出自について」

「あなたには隠す意味ないじゃない」

 少し不機嫌そうになったマリアに、ツカサは挑むような視線を向ける。

「それなら。もう少し質問してもいいかな」

「やだ」

「代わりにこちらも、同じ数だけ質問に答えるよ」

 いよいよマリアの目つきはうろんげになったが、ツカサは知らぬ顔で受け流す。

「こちらは君達を勧誘したいと思っているんだよ。君達のことを知りたいし、君達にこちらのことを知ってほしい。何かおかしいかな」

「……」

「答える気がある部分だけでかまわないよ」

 ツカサは勝手に話を進めていく。それを、マリアも止めようとはしない。

「1つ目。マリアさん、本当の年齢は。10歳程度に見えるけれど、本当はもっと上なんじゃないか」

 変なことを聞かれたとばかりに、マリアは眉をひそめた。

「はあ?」

「さしあたって10代後半か、それ以上かな。となると、本当はアンジュさんの方が妹さんという推測も成り立つね」

「……。まあ、ねぇ」

「身体が正常に育たなかったのは、なんらかの遺伝子異常といったところかな」

 マリアはわずかに唇を歪めた。

 泣きたいのか笑いたいのか、はたからでは判別できない。

「それでも命があるだけマシだったけど。実際あたしとアンジュ以外の子は全滅だったからねー。機関の方で手は尽くしてたみたいだけど、やっぱり技術的に無理があったんでしょ。だからこそ道半ばにして予算もなくなっちゃったわけだし」

 つかの間、ツカサが沈黙する。マリアは顎を上げて嗤った。

「他に聞きたいことは?」

 気を取り直すように、ツカサは口を開いた。

「じゃあお言葉に甘えさせてもらおうかな。2つ目。“黒井クリス”というのは何者なのか」

「それ聞きたいの?」

「純粋な興味だね」

「……あたし、面倒くさかったのね」

「何がかな」

「機関では実験やら検査やら以外にやることなくてね。でもあたしには、研究員を通して“外”の様子が少しわかる。なんであたし達だけ……っていうの、あなたにもわかるでしょ?」

「ああ。それは、とてもよくわかるよ」

「だから、SPMじゃないあたしなら、そんなことしなくてもいいのかなと思ってね」

 マリアは肩をすくめた。


「自己暗示で、自分の疑似人格を作ったの。それが“クリス”」


 絶句したのはツカサだけではなかった。棚戸らも「信じられない」という表情になっている。

「……それは、さすがに……予想外だったかな」

「まだ聞きたいことがある?」

「……では、次を最後に」

「粘るなあ」

 あきれ顔のマリアを、ツカサが改めて見据えた。

「相川氏。彼は国際機関と国内機関、両方に携わっていた。それで合っているのかな」

 マリアはわざとらしく、大きくため息をついた。

「そうだよ。ていうかクリスのこと以外、わざわざあたしに聞かなくてもわかってたんじゃないの?」

「それはそちらからの質問、1つ目かな」

「む」

 意地の悪そうなツカサの表情に、一瞬、マリアの頬がふくらんだ。

「待ってよ。じゃあこっちの質問を先にする。――“ヘクセ”の次の標的は?」

「決めていないな」

 ツカサは即答した。それからふっと表情をやわらげる。

「君達姉妹が協力してくれるというのなら、明日にも議事堂を襲撃しようと考えているけれどね」

「ヘーナニソレスゴーイ」

「片仮名で言われてもね」

「でもそれ、答えになってないし」

「『決まっていない』。それが答えだ」

「最初からさっさと中枢狙えばいいのに。あたし達がいなくたってあんた達の能力的には可能でしょうよ」

「それでは、いい“宣伝”にならないからね」

 そこでツカサは言葉を句切る。

「君こそ意地が悪いな。僕達の目的くらいはもうつかんでいるんじゃないのかい。……というのが答えの2つ目だ」

「うーわー」

 「性格悪!」とマリアが言外に訴えた。

 が、次の瞬間すっと表情が消える。ツカサがさりげなく半歩退がる。

「そろそろ気付いたかな」

「あー……そういうこと……?」

「さっき君は、『隠す意味がない』と言ったね。僕達にはそうかもしれない……けれど相川詩織さんにとってはどうだろう。一連の事実を、彼女には隠しておきたかったんだろう」

「……」

「君達は他の人間とあまりに違う。僕達と同じように。いや、それ以上に」

 勝ち誇るような笑みを、マリアがきっと睨みつける。

「最初から、詩織ちゃんに聞かせるための質問だった?」

「それと――時間稼ぎかな」

 マリアがぴくりと顔を横に向ける。同時に扉の陰から男が2人現れた。皮肉っぽく「ハジメマシテ」とつぶやいてから、マリアは強い声を上げる。

「で。このまま帰さないっていうこと、これは?」

「できることならね」

「――あたしとやる気?」

 葉沼と棚戸も動いた。

 じりじりと、輪は狭まっていった。



            * * * * *



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