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-BLACK MARIA-  作者: 高砂イサミ
7th episode
33/66

December 15 (Sat.) -9-


「情報ねぇ。それってこっちのリスクと見合うもの? あたし不公平って大っキライなんだけど」

 マリアは鼻を鳴らした。ツカサが余裕ありげに微笑する。

「それは聞いてから判断してほしいな」

「じゃあ聞くだけ聞いとくわ」

「――我々“ヘクセ”の本拠地は、国際SPM研究所の日本支部に置いている」

 しばし、沈黙。

「……ふーん? それだけ?」

 不満げに口をとがらせて、マリアは腕組みをした。

「ぜんぜん足りないんだけど」

「ひどいな。こちらにとっては内臓をさらすに等しい情報だよ」

「ホントかなぁ」

「君達がいたのとは、おそらく違う施設なんだろうね」

 反応を窺うようにツカサが続けた。するとマリアはあっさりうなずき、可愛らしい仕草で小首をかしげた。

「そーだよ。だから、あなた達第3世代といっしょにしないでほしいな。“M”の祖にもっと近いところにいるのがあたし達で、最も“近い”のがあたしなんだから」

 ツカサもうなずき返す。特に驚いた様子はなかった。

「言い得て妙といったところかな」

「ああ。そこはもうバレてるわけ」

「詳しいことまでは読み切れていないけれどね、今のところは」

「どの辺まで、とか聞いたら教えてくれるの?」

「かまわないよ」

 すっと、ツカサの目が細まった。

「黒井茉莉亜さん、杏樹さん。君達は国際研究所とは違う、ニホン独自のSPM研究所の産物……と、いうことでいいのかな」

「――“産物”!」

 マリアは噴きだした。そのままけたけたと声を上げ、腹を抱えて笑い続ける。それをツカサは無言で見守っていた。

「まー、そうだね! そう言われてもおかしくないか!」

 しばらくしてやっとそれだけ答えたものの、まだ余韻で息を切らせている。ツカサは小さく肩をすくめて見せた。

「そこまで笑うかな」

「そっちこそ、よくあたしの前でそんなこと口に出せるね。ちょっと感心しちゃった」

「では……やはり事実なのか」

 不意にツカサの声が揺れ、マリアは逆に胸を張って腰に手を当てた。

「今さら」

「そうか。君達は本当に」

 言いかけ、ツカサは小さくのどを鳴らした。


「祖たる、“黒川麻里”の――」



            * * * * *



 心拍数が上がる。金縛りにでもあったように、身体がうまく動かない。

「詩織ちゃん?」

「あ……、あの」

 口は動かせそうだった。詩織はなんとかアンジュに訴えようとする。が、この状況をどう説明すれば良いかわからず、口ごもる。

 アンジュが詩織に向き直った。

「ねえ。言いたいことがあるのなら言ってくれないと、こちらも困るのよ? わかっている?」

 少し怒っているように聞こえた。詩織は思わずびくりとした。

「ご、ごめんなさ――」

「あやまる必要はないの。ただ行動してくれればいいだけ」

「……黒井」

 アズマがたしなめるように口をはさんでくれた。しかしアンジュは取り合わない。なお厳しい表情で詩織の方へ身を乗り出す。

「黙ってやりすごそうとしないで。『何を考えているかわかりやすい』と言ったことはあるけれど、なぜ口に出してくれないの? 私達にならわかると甘えているの? それとも信用していないの?」

 アンジュは息を継いだ。

「私達はもともと、赤の他人ですものね」

「!」

 そういうわけじゃない、と返しかけて、詩織はそれを飲み込んだ。

 代わりに目を上げる。アンジュをじっと見返す。

「……だいじょうぶ、です」

 本当は人の顔を見るのが苦手だ。少し怖い。

 それでも。

「何が大丈夫なの?」


「あの。きっと、無事でいると思います。……クリスちゃん」


 すぐに目を伏せる。言ってしまったという思いだが、後悔ではない。アンジュがどれだけクリスを大切にしているかは知っている。だから言わずにいられなかった。

 ちらりと上目に見ると、アンジュはあっけにとられたような表情で静止していた。よけいに怒らせたわけではないようなので、詩織はほっとする。

 少しして、アンジュは深くため息をついた。

「本当に、どうかしているわね、私。ごめんなさい」

「あ……いえ……」

「それで」

 アズマが先を促した。詩織は視線を落とし、もう一度手指を動かしてみた。今度は動いた。しかし、違和感は拭えない。

「なんか、変なんです。身体……うまく動かないような気が、して」

 瞬間、アンジュとアズマが視線を交わした。詩織はぱちぱちとまたたいた。

「詩織ちゃん。それはいつから?」

「え、と、ついさっきから」


  ――では…………り、事実……――


「他に何か気になることは?」

「は、はい。……人の声が」

「声?」

「男の人の、声だと……思います」


  ――……か。君達は、本当に――


「なんと言っているの?」

「あ――……」


『祖たる、“黒川麻里”の……クローン体だというのか……!』


 詩織の口は勝手に動いていた。

 目の前で、3人の時間が止まった。



            * * * * *



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