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-BLACK MARIA-  作者: 高砂イサミ
7th episode
32/66

December 15 (Sat.) -8-


「黒井アンジュ……!」

 葉沼と棚戸がテーブルを飛び越え、アンジュと対峙した。ツカサは椅子にもたれたまま動かない。耶麻だけははそそくさと、ツカサの陰に退避した。

「まだ夜明けまでもう少し時間があるかしらね。こんばんは」

「なぜここがわかった」

「見つけるの、苦労したのよ?」

 アンジュはさらりと髪をかきあげ、挑発的に笑んだ。

「だけどこうしてあなたを見つけだしたのだから、私の勝ちでしょう?」

「ああ、そのようだ。――第一ラウンドはね」

 ツカサの目くばせと共にかすかな風斬り音がして、アンジュの首に何かが巻きついた。

 バチンッ、と火花が散った。

 アンジュの身体が小さく跳ね、棒のように硬直しながら前へ倒れ込む。首からほどけた金属のワイヤーは、蛇のようにくねりながら棚戸の手の中に収まった。

「これで、動けない」

 棚戸が抑揚なく言った。葉沼が用心深い足取りでアンジュに歩み寄っていく。アンジュがわずかに頭を動かした。

「電、気……」

「あなたはSPMではないようだ。体術さえ封じてしまえばそれで済む」

「……っ」

「黒井クリスはどこにいる?」

 充分な間合いを保って、葉沼が立ち止まる。

「彼女はSPMなのだろう」

「SPM、“師”が求めている。どこだ」

 棚戸も横に並んだ。そんな2人をアンジュが上目に見る。

「答えると、思う?」

「答えなかったとしても、直にその脳に聞くことができる」

「……できるかしら……?」

「2人とも。離れるんだ」

 急にツカサが強い声を上げ、椅子を立った。葉沼と芝がすばやく道を開ける。もう少し、アンジュが顔を上げた。

 視線がぶつかった。互いに探り合う。ふとツカサが眉をひそめ、そして。

「……君は、アンジュさんではないね」

 断言した。瞬間、別方向から声が飛んだ。

「あーあ残念。もうちょっとくらいごまかせるかと思ったのに」

 横長のテーブルの端にはいつの間にか、黒髪の幼い少女がちょこんと腰かけていた。足をぷらぷらさせながらツカサに顔を向け、にっと歯を見せる。

「でもまあ、“これ”があたしにもできるってわかったのは収穫かな?」

「黒井クリス――」

「いや」

 目をすがめつつ、ツカサが葉沼を遮った。


「黒井……マリアさん、でいいのかな」


 食堂の入り口近くに倒れていたはずのアンジュの姿はすでになく。マリアと呼ばれた黒髪の少女は、肯定も否定もなく、テーブルからひょいと飛び降りた。

「なるほど。こんなつっまんないゲーム仕掛けてきたのは、相川先生に接近して情報収集してやろうって魂胆もあったわけか。まあこっちもちょっとばかし同じコトさせてもらったけどねー」

 少女がくすくすと笑う。ツカサも苦い笑みを浮かべた。

「多少ならば読まれるのは覚悟の上だったよ。干渉が多人数になるほど、どうしても精神の“壁”は薄くなる」

「お互い様だけどね」

「それでもまさか、ついでのごとく技を盗まれるとは思わなかったよ」

「精神干渉による視覚の惑乱。なかなかおもしろかったよ。おかげで他のお仲間とやり合わなくてすんだし」

「そういうことでもなかったら、見張りに立っているはずのリョウとアシヤを疑ってしまうな」

「で?」

 少女がじっとツカサを見据える。――金色の瞳。同じ“M”の血統である証だ。

 しかし少女の視線に友好の色は微塵も見受けられない。

「ボーナスゲームも乗り切ったわけだけど? あたし達にだけ負けたらペナルティなんてずるいじゃない。そっちも何か、罰ゲームをしてよ」

「……。もっともだね。仕方ないな」

 抗議するような葉沼の目配せを無視して、ツカサは肩をすくめた。

「それでは。我々についての情報をひとつ、君にあげようか」



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