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-BLACK MARIA-  作者: 高砂イサミ
6th episode
28/66

December 15 (Sat.) -4-


 アンジュの言葉が合図となったように、警備員達が殺到してきた。

 手の届くぎりぎりの位置まで引きつけてから、跳ぶ。先頭の男の頭を手をついて勢いをつける。

 立て続けに鈍い音が響いた。空中で回転させたアンジュの両脚は、それぞれ1人ずつを蹴り倒していた。床には降りない。手近な男の肩を踏み台に再び跳躍する。3人目の顔面に膝蹴りを極めて、アンジュは叫んだ。

「マリア!」

「大丈夫だよ」

「あなたは省エネでね」

「はーいっ!」

 今度はほとんど伏せるように両手両足で床に触れる。バネのように真上にはじける。掌底が4人目の顎をとらえた。少し力の加減を間違えたか、骨の割れる感触があった。

「おっとっ」

 マリアの声に続き、「ぱかん」と固いものどうしのぶつかる音がした。

 目を向けると、男がマリアの前で顔をおさえてうめいていた。マリアの手には警棒がある。相手から奪ったのだろう。問題はなさそうだ。

 認識も思考も一瞬で済ませる。残る3人を当て身で落とし、仕上げにマリアの前でうずくまっていた男にも手刀をくらわせた。

「ひとまず、こんなところかしら」

「お疲れー」

 後でまた襲ってこないよう、ネクタイとベルトで手足を縛っていく。その途中、マリアはぴくりとあさっての方を向いた。

「何かあった?」

「先生達の方……誰か接触してる」

「あら」

「あと西廊下。火、つけられたっぽい」

 アンジュはマリアをさっと小脇に抱いた。

「西廊下ね」

「ライターかな。まだそんなに燃えてないよ」

 即決で西廊下を目指す。屋敷ごと燃やされてはかなわない。相川氏の方は、アズマがなんとかしてくれるだろう。


「薄情者」


 腕の中でマリアが薄く笑った。

 アンジュもにっこりと笑い返す。

「まったくどうでもいいとは思っていないのよ?」

「後回しでいいとは思ってるくせに」

「……ふふ」

 向こうの壁の影から男が2人、こちらへ向かってくるのが見えた。

 はずみをつけて床を蹴る。一気に距離を詰めて1人目のこめかみにハイキックを見舞う。よろけた男にぶつかられたもう1人はのど元への鉄拳で仕留めた。

「あと何人だったかしら」

「まだけっこういるみたいだけどねー」

 何人いようと同じこと。邪魔するのであれば排除するだけ。

 マリアが望むのであれば躊躇はない。


 なぜなら彼女は、唯一の――


「ちょっと……止まって」

 不意にマリアが袖をひっぱった。急ブレーキを踏んでからのぞき込んだ顔は、血の気を失って青白い。

「マリア」

「頭痛きちゃった……」

 そっと床に下ろすと、マリアはその場で座り込み、壁にもたれて膝を抱えた。

 組んだ腕に顔をうずめる。その奥からくぐもった声が聞こえた。

「ごめん。動くのつらいかも。先に行ってくれる……?」

「あなたを置いてなんて!」

「お願い」

 ちらりと、有無を言わせぬ強い眼光がのぞいた。

「大丈夫。身を守るくらいのことできるよ」

「……」

 アンジュは深く息を吸い、吐いた。マリアのことだ。これ以上は何を言っても無駄だろう。ならばぐずぐずせずに先へ行かなければならない。

「それなら、“掃除”の済んだ部屋にいてくれるかしら。しばらくは安全なはずよ」

「ん」

「気をつけて」

「うん。アンジュもね」

 つかの間。アンジュは呼吸を止めた。

 マリアに名を呼ばれたことなど、いつ以来だったろうか。

「――ありがとう」

 急激に沸き立った気分をなだめつつ、アンジュはまた走り出す。


 そうだ。マリアさえ――ただ1人の家族がいてくれれば。他には何もいらない。


 だからこそ、今回の件ではツカサを許せなかった。


「必ず排除するわ。あなたが私とマリアの静かな生活を乱すのであれば。

 ……覚悟なさいな。神崎ツカサ」


 独白して、アンジュは微笑んだ。



            * * * * *



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