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-BLACK MARIA-  作者: 高砂イサミ
5th episode
21/66

December 10 (Mon.) -2-


「……なんなのかしら、これは」

 帰宅後、メールを一読したアンジュは、見たことがないほど渋い表情になった。詩織はぎゅっと胸を押さえた。

「アドレス……わ、わたし、頭の中、見られちゃったってことでしょうか」

「……。そうね」

「2人とも、それより先にメールの中身について考えなきゃでしょー」

 ひょいとクリスが割り込んできた。昨日の一件からずっと、クリスは詩織の知らないクリスのままだ。

「キザったらしい書き方だけどつまり土曜日ね。日付指定なんて気が利いてるよねー」

「笑いごとじゃないわ」

「深刻ぶって眉間にしわ寄せてる場合でもないでしょ、おねーちゃん」

 クリスが軽く机をたたいた。アンジュがはっと顔を上げる。

「そう……ね。本当にね」

「相川先生だったらさすがにほっとけないでしょ?」

「ええ。見も知らぬ昔の議員先生方ならともかく」

 さりげない毒舌に、クリスが噴いた。

「姉さんてば……」

「貴島さんか、先生に直接か。ともかく1度ご連絡しなければね」

 気を取り直したらしいアンジュは軽く頭を振ると、いつもの表情に戻った。詩織は力を込めてうなずいた。

「すぐ、貴島さんに連絡します」

「お願いね。相川先生はある程度の事情をご存じだから、議員先生方ほど無防備に襲われはしないはずよ。もっとも彼らが一体どんな手を使ってくるか、見当がつかないのだけど」

 それを聞いて、詩織はふと思う。

 これまで“彼ら”に襲撃を受けた人物は元議員ばかり。そして、昨日は気にする余裕がなかったのだが、Mは国に身分を預けているとクリスは言った。

 つまり、父は――

「あんまり深く考えない方がいいんじゃない? これ一応、“機密事項”なんだから」

 絶妙なタイミングだった。クリスと目が合うと、猫のような笑みを返された。

「大事な秘密ってことだからね? シオリちゃんはいー子だもんね。余計なこと知りたがったり、誰かに言ったりしないよね?」

「あ。……うん……」

「えらいえらい」

 クリスの横でアンジュが肩をすくめた。

「それで私達はどうするの。いくら彼らでも、襲撃の計画は極秘裏にしたいはず。わざわざ日時指定をしてきたということは――」


 ガンッ


 突然、部屋が揺れる勢いで奥のドアが開いた。アンジュの表情が硬くなる。が、クリスは無邪気に片手を上げた。

「おはよーアズマ君!」

「調子は……まだあまりよくなさそうね?」

 本当に今まで休んでいたのなら、これほどひどい顔色はしていないだろう。

 絶句する詩織の目の前でアズマはアンジュに詰め寄った。

「どこだ」

「何がかしら」

「あいつら、今度は何を」

「聞こえたの? まだ先の話よ。はい……座って」

 くるりと円を描くように、アンジュが自分とアズマの位置を入れ替えた。アズマはすぐに椅子を蹴ろうとしたが、その目の前にアンジュが指を突きつけた。

「言っているでしょう。やみくもに行動するだけならばただの無謀というものよ」

 と、横でクリスが首をかしげた。

「アズマ君てば。そーんなにお兄さん達のこと気になるんだ? せっかく、逃げてきたっていうのに?」

 詩織があっと思う早く、アズマが力いっぱい机を殴った。天板が割れたかというほど痛い音が響いた。

 伝わってくる激情が怖い。

 しかし詩織はそっと深呼吸して、なんとか自分を落ち着かせることができた。なぜだかよくわからないが、昨日顔を合わせただけのツカサの方が――

 思い返して、詩織は思わず震えた。ツカサの恐ろしさは得体が知れない。

「ふっふふ。ごめんごめん。怒った?」

 クリスがちろりと舌を出す。

 それから一転、真顔になった。

「ねえアズマ君。あいつらと戦えるようになりたい? 本気であいつらに勝ちたい?」

 アズマが目を上げ、アンジュが何事かという風に目を見開く。クリスはするりと椅子からすべり降りた。


「やり方。あたしが教えたげよっか?」


 なぜかギクリとした。これまで以上にクリスが遠く見えた。

 そんな詩織をよそに、クリスはとことこと歩いてアズマのかたわらに立った。

「ど?」

「……」

「おっけ。じゃあ屋上行こうか」

 クリスが一瞥すると、アンジュは1歩後ろへ下がった。クリスがアズマのそでを引く。アズマにも抵抗する気配はなかった。

「念のため詩織ちゃんもいっしょにね。早く上着着て」

「え、は、はい?」

「姉さん?」

「あなたが言うのなら協力するわ」

 詩織が戸惑っているうちに、話はまとまってしまった。



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