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-BLACK MARIA-  作者: 高砂イサミ
5th episode
20/66

December 10 (Mon.) -1-


 - - <メール本文>- - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -


  お父さんへ


   いろいろ……知りたいことがあります。


   アンジュさんとクリスちゃんが少しだけ話してくれたけど。

   やっぱり、よくわかりません。

   2人のこと。アズマさんのこと。

   アズマさんや私達をおそってきた人達のこと。


   ……『Mの系譜』。


   お父さんは何を知ってるんですか?

   どれくらい、知ってるんですか……?

                                   詩織


   '57.12.10(Mun.) PM3:58


- - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -



            * * * * *



「あーいかーわさんっ!」

 ぽん、と肩をたたかれた。詩織はびくりとしてe-phoneを閉じた。

 授業はとっくに終わり、クラスメートのほとんどはいなくなっている。詩織もいつもなら教室を後にしている頃だが、今日はすぐ帰る気になれず、メール文とにらめっこをしていたところだ。

「何してるの?」

「え……と。お父さんに、メール」

「へー」

 話しかけてきたのはショートヘアの女子生徒だった。バレー部のエースで、面倒見がいいことでも有名な子だ。

「ていうか相川さん、今日はずっと元気なさそうだったね。何かあった?」

「……うん。ちょっとだけ」

 小さくうなずくと、女子生徒が身を乗り出す。

「相川さんのお父さんて、けっこう有名でいそがしくって、いっしょに暮らしてないって聞いたことあるけど。本当?」

「あ……うん……」

「その辺の悩み? よかったら、相談に乗るよ?」

「それは、だいじょうぶ。ありがとう」

「そう?」

「――ミサキ! 何してんのーっ」

 廊下の方から呼び声がして、女子生徒は「今行くー!」と叫び返した。

「じゃあね。何かあったら遠慮なく言ってね?」

 詩織がうなずく間に、もう相手は走り去っていた。

 見えてはいないだろうが手をふっておく。それからそっとため息をついた。

 悩みの種が他人に話していい内容でないことはよくわかっている。それに自分自身、まだ事態が呑みこめていない状態だ。うまく説明することもできないだろう。

「……。帰ろうかな」

 鞄を持ち上げながら、詩織はもう1度、アンジュ達との話を思い出した。



 『まあ、ほんとに下見だったんだろうね、今日のアレは』


 リビングのテーブルに頬杖をついて、クリスはけだるそうにため息をついた。

『姉さんがタナトってのに言ったとおり。“M”全員取り込むつもりだよ、あの男。ってわけであたし達にも仲間になれと』

『やはりそうなの』

 クリスのとなりに座ったアンジュは、いつになく冷ややかだった。怒っていたのか、思案していたのか。とにかくいつもとは様子が違った。しかしクリスはそれを完全無視だった。

『プラス、あの時伝えてきたのが一言。「行動で示してほしい」だってさ』

『行動……』

『ふざけてるよねえ。まあ言ったとおり、近いうちにまた接触してくるんじゃないの。知らないけど』

『注意が必要ね』

 アンジュは詩織を、その次に奥の部屋のドアを見た。

 家へ戻ってくるなり、アンジュはアズマを自室に押し込んだ。その後その部屋からは物音1つ聞こえていなかった。

『だいじょうぶ……なんでしょうか、アズマさん……』

『大丈夫でないのはあなたも同じよ、詩織ちゃん?』

 急に話をふられ、一瞬、詩織の思考は停止した。

 表情の欠落したアンジュのとなりで、クリスがくすくすと笑った。

『そーそー。ただでさえ“相川博士の娘”だもんね。どうしたって無関係ってわけにはいかなかったと思うよ? たまたまアズマ君と会っちゃったから時期が早まっただけっていうか?』

『……え』

『だから早いうちに、機密事項の“M”の話とかしちゃったわけだし。ね、おねーちゃん?』

『本当は最初の襲撃の日に、もう少し詳しく説明するつもりだったのだけど。あの時にはもう、よからぬ連中ということくらいはわかっていたから』

『詩織ちゃんが話聞かないから。ねー』

『す、すいません……』

『ともかく』

 アンジュががたりと立ち上がった。

『これでまた状況が変わったわ。明日からは貴島さんと一緒に、私も詩織ちゃんの学校の送迎につきあいます』

 そこまで、と詩織が思ったことはすぐにばれたのだろう。

 アンジュはキレイに微笑した。

『“ああいう人達”が相手ですもの。注意しすぎるということはないはずよ。窮屈かも知れないけれど、しばらく我慢してちょうだいね、詩織ちゃん』



 そこまで思い返した詩織は、ふと足を止めた。

「……あ、あれ?」

 あわてて辺りを見渡す。状況が把握できると、今度は困惑で立ちつくした。

 それを見計らったようにポケットのe-phoneが着信音を響かせた。通話口からは、せっぱ詰まった貴島の声。

『お嬢様、どちらにいらっしゃるのですか!?』

「す、すいません、もうウチの前です……ちょっと、ぼうっとしてたみたいで」

『マンションの前ということ、詩織ちゃん?』

 少し離れたところでアンジュの声もした。恐縮しながら「はい」と答えると、一呼吸分、間があって。

『すぐ中へ入って。クリスとアズマ君は残っているから。私達もすぐに引き返すわ』

『わかりました……』

『急いでね』

 ぷつ、と回線が切れた。

 と、すぐにまた着信音が鳴った。今度はメールだ。詩織は画面をのぞき込んだ。


 心臓が止まるかと思った。


 あやうくe-phoneを投げ出しそうになり、それを必死にこらえてから、詩織はもう1度メール内容を確認した。

 メールはたったの一文だった。



       ――五つの月の廻る後

           魔女は 相川宏行の生命を欲す――



 相川宏行。詩織の父の名前がそこにあった。



            * * * * *



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