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お父さんへ
11月になってから、ずっと寒いですね。
かぜひかないように気をつけてください。
来月もお仕事忙しいですか?
25日にお母さんに会いに行くときは、できればいっしょに行きたいです。
もし予定があいてたら教えてください。
返事、待ってます。
詩織
'57.11.30(Fri.) PM6:02
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打ち込みを終えたちょうどその時、部屋のドアがコンコンと音を立てた。続いて、落ち着いた大人の女性の声がする。
「詩織ちゃん? お迎えが来たみたいよ」
「あ。はいっ」
詩織はぱたんとe-phoneを閉じ、ダウンジャケットを手に椅子を立った。
玄関に出ると、黒髪の姉妹に迎えられた。ワインレッドのレザーコートが19歳の姉、白いダッフル姿は7歳の妹。
年は離れているのに、いつ見ても感心するくらいよく似ている。しかも2人そろってかなりの美人だ。ニホン人形を現代人好みにすればこんな感じではないかと詩織は思っている。
「準備はできた?」
「はい、アンジュさん」
「待ってたんだよシオリちゃん! 早く行こう!」
妹娘が無邪気な笑顔で詩織に飛びついてくる。それを見たアンジュが苦笑した。
「少し落ち着きなさいクリス。……外は寒いそうよ。ちゃんと暖かくした?」
アンジュがクリスと詩織を順に見る。クリスが「はーい!」と手を上げて答え、詩織もこくりとうなずいた。
「そう。では、出かけましょうか」
言って、アンジュはパネル式ドアロックを解除した。
「わ――雪だぁ!」
1歩外へ出るなり、クリスが歓声を上げた。詩織も暗い空を見上げて目を見張る。
「雪だ……」
「すごーい! 妖精さんが踊ってるみたい!」
「妖精?」
「キレイなものには妖精さんが住んでるって、ウェブ番組で言ってた人がいたよ?」
「……雪の妖精ってどんなかな?」
「きっと羽があるよ! 妖精さんだもん! それで白いドレスを着てて……」
「飛び回るのに邪魔そうだから、短いドレスかも……?」
「かもね!」
「2人とも。口だけじゃなく足も動かしなさいね」
「また始まった」とばかりにアンジュが苦笑して、詩織とクリスも、顔を見合わせて笑った。
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