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-BLACK MARIA-  作者: 高砂イサミ
4th episode
18/66

December 9 (Sun.) -2-


 公園近くの商店街にはさすがにちらほらと人影がある。その中でまっ先に目に入った自動販売機の前を、アンジュはちらりとも見ずに通りすぎた。クリスがつないだ手を引っぱって不思議そうな声を上げる。

「おねえちゃん? どこ行くの?」

「……クリス」

 立ち止まったアンジュは、クリスの耳元に顔を寄せた。一言、二言ささやいて、またすっと背筋を伸ばす。

「ねえ、あなた。もうそろそろこちらへいらっしゃい。そこまで堂々と来るからには、事を荒立てる気はないのでしょう?」

 歌うような呼びかけに答えが返る。

「人聞きが悪い」

 歩み寄ってきたのは黒い革コートの青年だった。表情に乏しいのと口が達者ではなさそうな辺りで、初見の印象はアズマと似ている。

 が、よく観察してみると、雰囲気はまったく違った。

 アズマは動と静のふれ幅が大きく、意識がどこに向いているのかわからないところがある。それにくらべて目の前の青年は、彼自身の確たる意志を持ってそこにいることがわかる。伝わってくる。

 アンジュはしっかりと彼に向き直った。

「はじめまして。今日は1人? 私達を『連れに』来たのでないなら、何のご用かしら?」

 彼の表情が、わずかに険しくなった。

「“師”のご命令で、確かめにきた。何者だお前達」

「どういう意味?」

 アンジュが微笑を貼りつけると、青年は鋭くアンジュを睨んだ。


「間違いなく“Mの系譜”。なのにSPMリストはもちろん、Mリストにさえ、お前達の名は載ってない。……なぜだ」


「……ふ」

 アンジュはこれ見よがしにため息をついた。そして一転、声を低くする。

「なぜ、というならこちらこそ。あなた達、なぜSPMリストまで把握しているの」

 軽くにらみつければ、青年は不機嫌そうに眉根を寄せた。

「“師”が知らないことなど、ない」

「……思ったよりも事態は深刻のようね」

「ごまかすな。答えろ」

 その時クリスが、軽くアンジュの手を握った。

「おねえちゃん、本命、あっちみたい」

 アンジュが一瞬だけクリスを見下ろすと、その瞳は金色に輝いていた。

 さっと青年の眼の色も変わった。しかしアンジュは、小さく両手を上げて見せた。

「待って。何もしないわ。こちらとしても、目立つようなことを避けたいのは同じよ。だから……もう失礼するわね」

「待て」

 機械的に呼び止められ、アンジュは表面上はおだやかに首を傾けた。

「まだ何かご用?」

「これだけは聞いてくるよう“師”に言われた」

「忠実なのね。まるで犬のよう」

 アンジュの皮肉は届かなかった様子で、青年は淡々と続けた。


「『お前達に、居場所はあるか?』――と」


 想定外の問いかけだった。アンジュは思わず笑みを忘れた。

 それを見た青年が、1つ、うなずいた。

「そうか」

「お姉ちゃんっ!」

 今度はかなり強く、クリスに手を引かれた。アンジュははっとして青年から目をそらす。

「ごめんなさい。行きましょう」

「早く、2人が!」

「ええ」

 アンジュはひょいと、小脇にクリスを抱えた。と思うやぐっと身体を沈め、跳んだ。

 1歩で青年の真横にならび、2歩目で後方へ置き去りにする。

 クリスが腕の中で揺さぶられながら苦言を呈した。

「おね、ちゃ、これ、かえ、て、目立っ、て」

「これくらいは仕方ないでしょう?」

 息1つ乱さず、アンジュは駆ける。しかしその表情は冴えない。

 姉の様子を上目に見て、クリスは「やれやれ」とばかりに首をすくめた。



            * * * * *



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