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-BLACK MARIA-  作者: 高砂イサミ
3rd episode
13/66

December 1 (Sat.) pm. -2-


 車は診療所の裏手のコインパークに停めてある。

 そこへ向かう途中、見張るように後ろから歩いてきていたアンジュが、1歩前に出てアズマに並んだ。

「ところで、あなたはこれからどうするつもりなの、アズマ君。どこかにたよるアテはあるのかしら?」

 ない、と確信している尋ね方だった。詩織達もふり返る。全員の視線が集中する中、アズマは足を止めた。

「アズマ君?」

「お兄さん、おうち帰れないの? どうして?」

 クリスがぱっと詩織を見上げ、絆創膏を巻いた指でそでをつかんだ。

「あのね、シオリちゃん……」

「ん。いいよ」

 言いたいことはすぐにわかった。だからすぐにそう答えた。

 クリスの顔がぱあっと輝く。向こうからアンジュの声が落ちた。

「いいの?」

「はい」

「詩織ちゃんは本当に……“いい子”、ね」

 そしてクリスが、もう1度アズマを見上げた。

「お兄さん。シオリちゃんのおうちで、一緒に住もうよ!」


 ――――――――――――――長く、沈黙があった。


「え……そんなにイヤ……?」

 クリスがさすがに不安そうな顔をする。と、アズマがようやく口を開いた。

「あいつらが――」

「彼らがまた仕掛けてくるリスクは、あなたがいてもいなくてもさほど変わらないわ。それならいっそ、一緒にいてくれた方がこちらとしても助かるの。人手は多い方がいいもの」

 間髪入れずに言って、アンジュはさらりと髪を耳にかける。アズマが目だけをアンジュに向けた。

「本気か」

「あなたの力を借りたいの。あなたも、自分の身を守るために私達を利用してくれればいいわ。これは対等な“取引”。……どうかしら?」

「……」

 アズマがふっと息を吐いた。アンジュが満足げに目を細めてうなずいた。

 はらはらと見守っていた詩織にも、それで“取引”が成立したのだとわかった。

「ありがとう。――ああ、こちらの自己紹介がまだだったかしらね。私はアンジュ。黒井杏樹よ。そしてこっちが」

「妹の、黒井玖璃須です!」

「いい名前でしょう? 天使に救世主。“黒井”なんて名字で台無しだけれど。そしてこちらが、私達の雇い主。相川詩織さん」

 詩織はあわててぺこりと頭を下げた。すると、アズマがやっと顔を上げた。

「“相川”」

「相川先生の娘さんよ」

「? お父さんのこと、知ってるんですか?」

「その話は、車で、ね」

 貴島が車のドアを開けた。来たときと同じく詩織は助手席に。アズマをバックシートに押し込んでから姉妹も乗り込んだ。

 すぐに、アンジュが口火を切った。

「貴島さん。かまいませんよね?」

 自分と詩織のシートベルトを締めながら、貴島は珍しく、気乗りしない様子でうなずいた。

「ある程度であればと、旦那様もおっしゃっておりましたが」

「え? シオリちゃんに話すの?」

 クリスが、びっくり、といった声を上げた。

「必要になってしまったのよ」

「あ、あの……?」

「詩織ちゃん」

 アンジュの冷然とした声音に、詩織は思わず居住まいを正した。

「はい……っ」

「SPP、というのを聞いたことあるかしら?」

「エスピーピー?」

「surphysical phenomenon。超物理学的現象。そしてそれを発現する人間がSPM――surphysical materializer」

「しゅ、しゅーるふぃじかる、まてぃ……」

「ニホン語では、“超能力者”になるのかしらね」

 さらりと流れた言葉が詩織には驚きだった。アンジュのことは、幻想や超常現象のたぐいに興味のないタイプと思っていた。そして妙と言えばクリスもそうで、普段なら目を輝かせて加わってきそうな話だというのに、バックミラーの中では神妙な顔をしている。詩織は内心でうろたえた。

「詩織ちゃん? 続けても大丈夫かしら?」

「! は、はいっ」

「そう。では、ここからが本題」

 アンジュが微笑した。その両側で、アズマはともかく、クリスもやはり黙っている。

「SPPの国際研究機関があるの。ニホンでの認知度は低いけれど、それなりにきちんとしたところよ。その機関が、約50年前……ニホンに初めて支部を置いたわ」



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