December 1 (Sat.) am. -5-
嵐が去った。残された詩織達は、少しの間緊張を持続させていた。
やがて空気を動かしたのはクリスのつぶやきだった。
「ほんと、失礼な連中」
「……あなたって人は」
「え、あたし!?」
クリスがさも驚いたように自分を指さした。アンジュが疲れたようにひたいを押さえる。
「窓。割ったのはあなたでしょう? 被害を大きくして……」
落ち着いてみれば室内はひどいありさまだった。天井を走る亀裂に、砕けて散らばるガラスのかけら。割れた窓と開きっぱなしのドアからは容赦なく風が吹き込んでくる。
「ひっどーい。あたしじゃなくて、これは“クリス”だよぉ」
「本当に?」
「まあ、普段の素行が悪いのは認めるけどー……」
クリスが口をとがらせ、アンジュがため息をついた。はっと我にかえった詩織は、様々な疑問がわき上がって脳内に氾濫してはいたものの、ひとまずすべてを脇へと押しやった。
「だいじょうぶ、ですか? えと……トオルさん」
膝をたててのろのろと座り直した青年に、おっかなびっくり歩み寄る。
つと、彼は目を上げた。
「アズマ」
「え」
「名前。“トール”じゃない」
「あ……はい……?」
まっすぐ黒い瞳に見据えられ、詩織は戸惑いながらうなずいた。そこへ真顔のアンジュが加わってくる。
「神崎雷君――で、間違いないかしら。SPMとして登録はされていないけれど、Mリストの1人よね?」
「エスピーエム?」
首をかしげた詩織に手を上げて見せてから、アンジュは続ける。
「それに、彼らも“M”なのでしょう? なぜ……こういうことに?」
青年は視線だけを床に落とした。
「さあ」
「それははぐらかし? それともあなたは蚊帳の外ということかしら?」
「……あんた達、ツカサに会ってないのか」
「ツカサ?」
アンジュが問い返すと、少し、間が空いた。
「“M”であいつを知らない奴がいると思わなかった」
「あたし達は別口だからね。お互いに知らないし知りようもなかったんだよ」
「別口……」
詩織は3人の話にまったくついていけない。それでおろおろしていると、玄関の方から物音が聞こえた。詩織の心臓が大きく跳ねる。が、アンジュ達はまるで動じなかった。
その理由は、あわてたような足音に続いて響いた声でわかった。
「ご無事ですかお嬢様! これは一体……!?」
貴島だった。詩織は思わず、その場にへなへなと座り込んでしまった。
震えるような風の中で。
それはまだ、始まりにすぎない。




