断罪の石は、覚悟のある者だけが投げるべき
俺、ユウマ・クレイは「断罪結社」と呼ばれる秘密結社(?)の一員となった。
そのことをとても喜ばしく思って…………いない。まったく。というか、一刻も早く抜けたい。
「宰相直属の秘密結社である『断罪結社』を作ることを決めた。悪を正しく断罪するための組織だ。
ユウマ、君はその核となるメンバーの一人だ」
宰相ジークフリートは目を輝かせ、鍛冶屋見習いの平民の俺にそう告げた。
宰相直属って、公の組織なのか秘密の組織なのかわかりにくいのが気になる。
「秘密にする最大の理由は、平民のユウマが危険に晒されないようにするためだ」
たぶん宰相は俺をこき使って自分の手柄にしたいのだろう。
前世で、俺を残業代も休日手当も無しで死ぬまで働かせて納期と黒字を守り、それを自分の成果として、出世した上司が何人もいた。
ジークフリートはもう一人のメンバーとなる、公爵令嬢クローデリア・レーヴェンハイトのほうを向いた。
「武芸に堪能なクローデリア様は、なるべくユウマとともに行動し、彼を護衛してください」
公爵令嬢に護衛される平民が、どの異世界にいるんだ!
それだけで目立つでしょう?
っていうか武芸に堪能な公爵令嬢って何?
「ですが、目立たないように、ユウマはクローデリアの奴隷を装ってください」
奴隷!?
「つまり、私は奴隷を守る心優しい公爵令嬢でいればいいのね? 幸いレーヴェンハイト公爵家は違法な奴隷斡旋の疑惑があるし、ちょうどいいわね」
えぇ……
「ぐぅ」
どこからつっこんだらいいのか大混乱し、変な声が出た。
「Goodか。異国風の言葉でよくわからんが……おそらく良いということだな」
絶対にグッドではない。
異国どころか異世界の言葉だし。
「というわけで、次の断罪の話をしよう。その違法な奴隷斡旋疑惑について、レーヴェンハイト公爵家に容疑がかかっているのだが、私は冤罪だと考えている」
俺は断罪見物が趣味だ。奴隷斡旋事件は今世間を賑わせている事件で、早く容疑者が捕まって断罪が行われないかと、今か今かと待っているのだ。
「どうですか、クローデリア様」
「もちろん、レーヴェンハイト公爵家はそんなことしていないわ」
でも俺を奴隷役にすることには抵抗がないんでしょうか?
「そう、ではさっそくスキルを発動してくれ」
「え、あ、はい」
そう、俺(元社畜)は異世界転生し、そのときに女神からスキルを授かっていた。そのスキルを知ったためにジークフリートは俺を「断罪結社」のメンバーに引き入れたのだ。本当は趣味の断罪見物で有効活用するつもりだったのだが……
【スキル:断罪の石投げ】【効果:悪人に必中】
【スキル:断罪の罵声】【効果:悪人を的確に罵る】
俺は石袋から石を取り出し、手に取った。なぜそんなものを持っているかというと断罪見物が趣味で、悪人に石を投げるのが好きだから。
「じゃあ、やりますよ。『断罪の石投げ』!」
俺の手から離れた石が飛び出す。
ここ、王城前広場の周りに、石の飛翔を妨げるものはない。飛んでいく石を追えば、犯人にたどり着くはずだ。
石を追って走り出そうとすると、突然石が急カーブした。俺も慌てて急カーブしようとするが、石はぐいぐい回り、俺の方を向いた。
後ろか、と思って振り向くと、後頭部に鈍い痛みが……
思わず頭を抱えてうずくまると、足元に俺が投げた石が落ちていた。ブーメラン石!?
「ぷっ」と見ていたジークフリートとクローデリアが同時に吹き出し、大笑いを始めた。
「……はっ、はっ……いや、ユウマのスキルを検証したくて投げてもらったんだが……自分に当たるとは……ぷっ……予想はしていたが、愉快なものだな」
「……どういうことですか?」
「そうだな。今の検証結果からわかったことを整理しよう。まず、スキルの効果範囲はユウマの視野に入る範囲内だろう。そして、『悪人』にあたる者がいなければ、自らに返ってくるわけだ。人を無闇に疑い攻撃しようとした罰のようなものだな。ユウマは奴隷商でないことは明らかだからな。……そうだよな?」
「もちろん違いますよ! 奴隷がいること自体知らなかったですし」
「ではそういうことにしておこう。それから『悪人』が何を指すかという点だが……」
「そもそも『悪人』って何ですかね?」
「悪いやつに決まっているでしょう」
クローデリアが俺の問いに即答するが、「だから『悪い』ってどういうことなんだよ!?」とつっこみたいところをぐっと堪えた。相手は武闘派の公爵令嬢だから、機嫌を損ねたくない。
「そう、そこだ。多かれ少なかれ、誰でも悪いことをしているはずだ。絶対的な『悪さ』はそもそも神にしか定義できないだろう」
神もできないと思う、と俺は思った。俺の転生受付の女神は恐ろしく適当だったのだ。
「そこで、おそらく『悪い』の定義は、ユウマが思い浮かべた断罪の罪状の持ち主ではないかと思うのだ」
「……なるほど。確かに先ほどは奴隷商に当たれと思っていました」
「では試しに、私がひとこと言った後に、嘘つきを思い浮かべてスキル発動してみてくれ」
「わかりました」
「この国の宰相はかっこわるくて頭が悪い」
「断罪の石投げ!」
石は一直線にジークフリートに向かって飛んでいく。
「痛い!」
ジークフリートが頭を抱えてうずくまった。
「くっ……防御力の低い私で試すのは間違っていたか……」
俺のスキルは攻撃スキルじゃないですよ?
「しかし想定どおりだな。嘘をついた私に石が飛んできた」
ジークフリート様、頭から血が出てますよ?
「あとは複数犯の場合だが……ユウマのスキルは単体攻撃だからな……試すか……クローデリア様も何か嘘をついてもらえますか?」
クローデリアは頷いた。
「クローデリア・レーヴェンハイトは醜いですわ」
俺はスキルを発動する。
「断罪の石投げ!」
石は……クローデリアに飛んでいき、勢いよく額に当たった。
「……」
「えっ? 痛くないんですか?」
ジークフリートが驚いたように尋ねた。
「はい、防御力は高いほうなので」
いや、だから攻撃スキルじゃないんで……
「ユウマは私とクローデリア様、どちらがより深刻な嘘をついていると思ったのだ?」
「いや、どちらも冗談みたいな感じなので……」
「冗談?」
血をダラダラ流しながら、ジークフリートが睨んでくる。
「クローデリア様です」
「ほう、気に食わんな……」
怖い。
「えっと、じゃあ、ユウマは私がすごく美しいと思っているってことかしら」
やめてください、クローデリア様。
「ほう……」
ほら、もっと機嫌悪くなった。
クローデリア様の方が嫌味っぽいと思っただけです。
「まあ、いいでしょう。おそらく罪がより重い者、もしくは主犯に石が飛ぶのだろう。ユウマの倫理観や価値観で決まりそうだな。おそらく罵声スキルの対象も同様でしょう」
痛みは伴ったが、俺のスキルの仕様がわかったのはよかった。
「では、さっそく『断罪結社』出動だ。ユウマ、とりあえず王都中歩き回って石を投げてきてくれ」
「?」
ジークフリートの指示の意図がよくわからず、固まってしまった。
「うん? 返事は?」
「あの……王都って広いですよね?」
「広いな。それがどうかしたか?」
「王都中を歩き回るなんてことができると思います?」
「私は無理だな。ステータス的に知力に全振りだから」
「俺はそもそもステータスの基礎値が低いですよ」
「気合いでステータスを覆すのだ」
ジークフリートが冷たく言い放った。
根に持つタイプか。
※
準備がしたいとクローデリアが言うので、ひとまずレーヴェンハイト公爵家の屋敷に行き、俺は屋敷の前で待っていた。
クローデリアが「奴隷っぽくしておこう」と、首に縄をつけられ、門の柵に括りつけられた。
人が通るたびに不審者を見るような目で見て、避けるように通り過ぎていく。
恥ずかしい。
ついには巡回中の騎士に職務質問みたいなことをされ、「奴隷ごっこです」と答えたところ、騎士が気持ち悪い目で見ながら、「連行する」と首の縄を解こうとした。
「うちの奴隷に何をしてらっしゃるの?」
クローデリアの声が響いた。
「奴隷」って言っちゃったよ。
「……本当に奴隷ごっこされていらっしゃるのですか?」
騎士が戸惑ったようにクローデリアに尋ねた。
「ごっこ……? とにかく公爵家の所有物に手を出すのはやめてくださいますか?」
「失礼いたしましたっ!」と騎士は足早に去っていった。
クローデリアは丈の短いスカートのドレスに着替え、マントを羽織り、腰には騎士が持つような実戦的な剣を下げていた。
冒険者パーティーの前衛にしか見えない。
「何か?」
「……なんか冒険者みたいだと思いまして」
「そうよ。私は冒険者ギルドに登録している正規のAランク冒険者よ。もう少し実績を積めばSランクね」
ガチじゃん……
「じゃあ冒険者パーティーとか所属しているんですか?」
「いいえ、ソロよ」
聞いてはいけないやつだった。
「パーティー組みたいの?」
「嫌です」
クローデリアがむっとして気まずい空気が流れたが、冒険者なんて絶対嫌だ。
話題を変えよう。
「あの、王都の中を歩くだけですよね?」
「そうね、まるで魑魅魍魎の跋扈するダンジョンのような王都をこれから歩くのよ」
王都ってそんな危ないんだっけ?
「あなたスキルと私の剣で、悪人どもを成敗しまくるわよ」
「一応、お伝えしておきますが、俺のは攻撃スキルではないですよ」
「……そうね。確かに火力が足りていないわ。……あなた鍛冶屋だったわよね。鉛の石を作って投げたら一気に火力が上がるんじゃないかしら」
死ぬわ。
真顔で言わないでください。
俺たちは王城前に戻り、王城から王都の入り口となる城門までまっすぐ続く大通りを歩くことにした。理由は人がたくさんいるから。
「さあ、行きましょう。歩きながら、スキルを発動してちょうだい」
クローデリアが促す。
俺は奴隷商を断罪することを念じて、目立たないよう小声でスキルを発動する。
「断罪の石投げ」
石が飛んでいき、宙でUターンし、戻ってきて俺を目がけて飛んでくる。痛いの嫌だな、と手で防ごうとした。
そのとき——鋭い剣の一閃が石を弾いた。
クローデリアは得意げな顔だ。
「私が護衛するって言ったでしょう?」
一区画ごとに進んでは石を投げ、クローデリアが剣で弾くというのを繰り返す。
これは痛くなくてありがたい。しかし、首に縄のついた男を連れながら剣を振り回す公爵令嬢は人目につきすぎて、秘密結社の所業とはとても思えないな。
石は一向に犯人を見つけてくれない。
ふと、道端に座る幼い子どもが目に入った。
目に入ったのは、俺と同じように首に縄をかけられていたからだ。
その子どもは泥に汚れた服を着て、痩せ細って、目がうつろだった。
——奴隷……本当にいるんだ。
歩きながら注意して見ていくと、子どもに限らず、そうした奴隷は少なからずいた。
奴隷は決まって貴族か金持ちそうな者が連れていた。
「意外と奴隷って多いんですかね。今まで気づかなかったです」
「『奴隷』とは公には言っていないわね。あくまで貴族の『奉公人』ということになっているわ。王国では表向きは禁止しているから。でも実態は奴隷と同等の扱いをする貴族も多いから……痛ましいわね」
あなたも人の首に縄をつけてますけれど。
「何か嫌になってきちゃった。お茶したいし、私、帰りますわ」
「え?」
「じゃあ、あとはよろしくお願いしますわ」
一人になってしまった。
首に縄を繋がれたまま。
城門まではまだまだ長い道のりだ。
それでも俺は石を投げる。——哀れな奴隷を今日も生み出している悪徳奴隷商を見つけ出すため。
「断罪の石投げ」
俺に向かってUターンして戻ってくる石を弾く者はいない。それでも向かってくることがわかっていれば防ぐだけだ。
俺は両手で頭を隠す。
石は両手の隙間を縫って、俺の額にヒットした。
額から血が流れてきた。
痛い。
帰ろう。
※
家に帰る前に、ジークフリートに報告しておこうと王城に戻った。
王城の門番に名乗ると、「ジークフリート様から宰相府に通すよう言われている」と、王城内に連れられていった。
生まれて初めて王城の敷地内に入れるという興奮は、ジークフリートと会う憂鬱さにより消し去られた。
宰相執務室のジークフリートは頭に過剰なほど包帯を巻いてターバンみたいになっていた。
俺への当てつけか、何かの冗談なのか……
「ジークフリート様、申し訳ありませんが、奴隷商は見つかりませんでした」
「まだ行っていないところ、あるんじゃないの?」
露骨に不満そうにジークフリートが言う。
「……だいたい行きました」
「そんなにすぐ王都中回れるわけないだろう。それに相手は人間なんだから移動しているのだ。一度行ったところにも何度も戻らないと」
そんなことしていたら一生終わらないじゃん。
「まあ、いい。頭の傷は侍医に治療させよう」
「嫌です」
ターバンにされるのは嫌だ。
「何?」
「いえ、つまり……失敗を戒めるために傷は見えるように残しておこうと思います」
ジークフリートは訝しそうな目で俺を見る。
「ああ、そういえば犯人は自白してきたからもういいよ。明日断罪する予定だ」
「は?」
「聞こえなかったか? 犯人が自白してきたのだ」
「え? じゃあ、足が痙攣するまで歩きまくって自分の頭に石をぶつける必要はなかったんですか?」
不機嫌だったはずのジークフリートがにやりと笑みを浮かべた。
※
家に帰ると断罪見物が趣味の父が何やら興奮している様子だった。
俺もこの父親の影響で断罪見物好きになったのだ。
「ユウマ、帰ってきたか! 明日、話題の事件の断罪があるぞ」
知ってる。
※
翌日、王城前広場には多くの人々が集まっていた。
手に汗握る断罪が始まるのだ。
今日は世間を賑わせている「奴隷」案件というヘイトの高まりが期待できる案件なだけに、断罪台の周囲には異様な熱気があった。
だが……運悪く俺の前に、でかい司祭帽を被った神官風の男がおり、前が見にくい。
そしてなぜか隣にはクローデリア。公爵令嬢がこっち側にいるのは何か落ち着かない。
歓声が上がった。始まるか。
頑張って背伸びして、前の神官の司祭帽の横から、断罪台を覗き見る。
断罪台には若い貴族の美しい女性が出てきた。どこか冷たい目で、打算的な印象を与えた。
確かに、人を人とも思わず奴隷売買していたと言われれば納得のいく人相だ。
これは期待できる。
混じりっ気のない純粋な悪に、思う存分ヤジと石を投げさせてもらおう。
続けて、王太子レオンハルトと、ターバンを巻いた宰相ジークフリートが登場し、歓声がいっそう大きくなる。
歓声が静まるのを待ち、レオンハルトが口を開く。
「エリーゼ・リーベンタール、ここにおまえとの婚約を破棄する」
おお、婚約破棄からの入りだ。
リーベンタール侯爵家の令嬢とはなかなかの大物だな。
隣にいるクローデリアの歯ぎしりの音が聞こえた。
なお、レオンハルトはたぶん何度も婚約しては婚約破棄しており、クローデリアも最近婚約破棄された一人で、レオンハルトのことは大嫌いだ。
「そして、奴隷売買の罪により断罪する!」
エリーゼは冷酷そうな目をして、レオンハルトの顔を見た。
「申し訳ありません。反省しております」
ああ、反省しちゃうかぁ、ヘイトが高まらないから火に油を注ぐような言い訳をしてほしいんだけどな。
「でも仕方がなかったんです……」
お、言い訳か。見苦しいのを頼むよ。
「何が仕方なかったんですか?」
ジークフリートの尋問だ。今となっては嫌な上司ではあるが、断罪台上では成果を出す、俺の推しだ。
「奴隷を売れば侯爵家にとっても良いですし……他の貴族にとっても良いことだと思ったんです」
おお、奴隷売買を全肯定……しかも自分の家や貴族のためだと!? 俺たち平民はそんな選民思想が大嫌いだと知らないのか?
そもそもおまえの奴隷売買のせいで……王都中(一部誇張)を歩かされて俺は足が痛いし、怪我もしたんだ!
今こそ全力で石を投げてやる。
「断罪の石投げ!」
俺の手から放たれた石が断罪台に向かって勢いよく飛び立ち、急カーブして、こちらに向かってくる。
うわぁ、自分に当たるパターンだ。なぜ!?
と、石が前の司祭帽の人に当たってしまった。
なんか、ごめんなさい。でもそんなでかい帽子かぶって人の視界を遮るのが悪いんだと思います。
「ちょっとどういうこと?」
クローデリアが石の軌道を見ていたようだ。
「石が戻ってきたってことは、エリーゼは奴隷商じゃないってことじゃないの?」
「そういうことになりますね。なぜかはわかりませんが」
「大変じゃない。ジークフリート様に伝えないといけないじゃないの」
「俺の罵声スキルを聞かせれば気づきますかね」
俺には石投げだけでなく、悪人に的確なヤジを飛ばすスキルもあるのだ。エリーゼが犯人でないのであれば……おそらく自分を罵倒することになるが……冤罪を生むよりはいいか……
「やっておしまいなさい」
やっておしまいって……だから攻撃スキルじゃないんだって……
「断罪の罵声! 『悪徳神官の悪行を許すな!』」
「は?」
犯人が視野に入っていなければスキルは自分に向くはずでは?
「え? 神官が犯人ってこと?」
クローデリアが言う。
前を見ると、ジークフリートがこっちを見ている。
(おまえか?)とジークフリートが顔で訴えてきた。何ですかそのスキル!?
とりあえず俺は頷く。
(取り押さえろ!)とジークフリートの顔が言う。
その瞬間、クローデリアが素早く神官の首に縄をかけた。
俺の首輪……
「エリーゼ様、奴隷は教会に売ったのですか?」
「はい、教会の孤児院です」
「他の貴族にも孤児院に奴隷を斡旋したんですね?」
「はい」
「その孤児院には、あの司祭がいますね?」
そう言って、ジークフリートがこちらを指差した。
(連れてこい)
クローデリアが縄を引っ張り、断罪台に神官を連れて行った。
「ああ、院長……」
エリーゼが呟くと、ジークフリートが薄ら笑いを浮かべた。
「さて、院長、お名前を伺いましょうか?」
「いかにも、聖教会孤児院の院長のグレゴールです。……なぜ私がこんな目に遭わされるのですか?」
「それをこれから伺うのですよ」
ジークフリートはいつにも増して自信満々だ。
「あなたは奴隷の子どもを貴族から買いましたね?」
「はい、孤児院ですから」
「孤児院が、なぜお金を払って奴隷の子どもを買うんです? 孤児院は無償で親のいない子どもを引き取るものだと思っていましたが」
「それは……貴族の方々は奴隷を財産と考えているからです」
「まどろっこしいことはやめましょう。あなたは安く奴隷の子どもを買い、その奴隷を高額で別の貴族に売り、あるいは金になる仕事をさせていた。あなたはエリーゼ様を利用して、リーベンタール侯爵家の奴隷だけではなく、他の貴族にも奴隷の子どもを孤児院に売るよう説得させたのです。お金を渡したのは、エリーゼ様や他の貴族に『奴隷売買』したという既成事実を作るためだったのでしょう」
「そんな……私は奴隷の子どもを解放したくて孤児院に預けたのに……子どもをしっかり育てるという話は嘘だったの?」
冷酷だったエリーゼの表情が悲しみの表情に変わった。
「う、嘘ではないです。ジークフリート様、なぜそんな言いがかりを?」
グレゴールが哀れみを誘うような声で言う。
「エリーゼ様!」
そのとき、子どもの声が広場に響いた。
すると、痩せた男児が断罪台に登ってきた。
「エリーゼ様のおうちに帰してください! グレゴール様はご飯もあまり食べさせてくれなくて、僕たちを悪い貴族のところに渡したり、辛いお仕事ばかりさせるんです」
「テオ!? なんてこと……」
エリーゼが子どもを愛おしそうに抱きしめた。
「ごめんなさい。あなたのためと思って、奴隷の身分から解放したかったのに、もっと酷い目に遭っていたのね。もう離さないから」
そうしてエリーゼは美しい涙を流し、観衆も奴隷の子どもを想う侯爵令嬢に感動し、啜り泣きする者までいた。
「おい、こら、買い戻しは倍額だぞ」
グレゴールの顔が険しくなり、その後ハッとして誤魔化すような笑いを浮かべた。
俺は改めて石を全力投球した。
※
断罪が終わり、観衆たちは散会していった。周囲は王城の役人や衛兵たちだけがまばらに残っていた。
「奴隷売買など人を人とも思わぬことが、なぜこうも横行するのだろうな」
断罪を終えたジークフリートが呟いた。
「まったくです。人を人とも思わず、無茶な指示をしたり無駄なことをさせるなんてあんまりですよ」
俺はそう答える。
「それってジークフリート様みたいですね!」
クローデリアが無邪気に笑って言った。
今だ!
「断罪の罵声! 『宰相の丸投げを許すな!』」
それを聞いた近くの役人や衛兵がくすくすと笑った。
ジークフリートが唖然とし、憮然とした顔をする。
「ふむ、気をつけるようにしよう」
ちょっとすっきりした。
最後までお読みいただき、ありがとうございます!
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改めて、ありがとうございました!




