03-25 ドラゴンをタコ殴る
第25話 ドラゴンをタコ殴る
さて、そうなるまでの経緯なのだが、アルビスたちはワクワクしながらドラゴンとみんなの戦いを見ていた。
そりゃもう、手に汗握る…というよりはヒーローショーのノリでわきゃわきゃしながら。
だけどだんだん様子がおかしいことに気が付いた。
弟妹はまだ幼いので本当にわかっていなかったのだが、アルビスは王様たちがちょっと押され気味なのを『良い流れだー』とか思ってみていた。
ヒーローはまずピンチになるものだから。
別に王様たちが三味線を弾いている。と思ったわけではない。ただ様子見の段階だからドラゴンが優勢に見えるのだ。みたいな感じで見ていた。
でも見ているとなんか変なのが分かる。わかってくる。
マジで危なそう?
え? マジで?
?
そんな折、レムニアがケツァルコアトルスもどきの尻尾の一撃でダメージを受けた。
事ここに至ってもアルビスは手を出していいのかどうか悩んでいた。想像力の豊かさは優柔不断につながるのだ。だが弟妹はためらわずに飛び出した。
「「おばちゃんが危ない!」」とか言って。
貴族だろうが領主さまだろうが子供にとってはただのおばちゃんである。
そして弟妹もアファナトスの弟子。
王様たちが重合剣と呼ぶ武術の原型を叩き込まれている。勿論こっちには名前はない。アファナトス喋らんし、『きゅっきゅっ』しか言わんから。
下手をするとこの闘法? 闘術? の名前も『きゅっきゅ闘法』とかになってしまうかもしれない。
(あっ、でもいいかも…重合闘術…わかりやすいよね)
アルビスは無難な方にひよった。
まあ、そんなわけで双子がそろってラ〇ダーキックをかましてケツァルコアトルスもどきは大きく吹っ飛んだのだ。
だが二人とも未熟者ではある。
「やったー」
「わーい」
ぴょんぴょん飛び跳ねる。
そんなことをしていてはいかんのですよ。
「なんであなたたちが!」
レーン様吃驚!
それはみんなの隙になった。
クルオォォォォォォォォォォォォォォォォォォォン!
初めて鳴き声を上げ、高速で突っ込んでくるケツァルコアトルスもどき。
「油断しすぎ!」
ゴーーーーン!
ケツァルコアトルスもどきはアルビスの展開したバリアにぶつかって顔面を大きくひしゃげさせた。
透明な板に顔面を押し付けた感じである。
笑える!
アルビスはそのままとんと地面に降りて『うりゃ』と顎下から頭を蹴り上げる。
ケツァルコアトルスもどきは一瞬〝変顔〟を披露してから勢いよく天井に吹っ飛んで行ってぶつかった。
『ブギュル!』
とか悲鳴がした。
しかしなぜ今まで無言だったのに急に声が?
「いかんな、だんだん本物に近づきつつある。大量の魔力を得て、魔核からドラゴンが再生しつつあるんだ」
解説ありがとう。
「よし、仕方ない。やっつけちゃおう」
「「! おおーーーーーっ」」
弟妹もやる気になっている。
それを大人たちは微妙な顔で見守っていた。まあ、さすがにね。
「何を言ってるの、危ないわ…たぶん」
レムニアが止めようとするけど、彼女はこの子たちが規格外なのを知ってますからね。
そしてディアーネが高らかに歌い上げる。
「じげんとう~っ!」
ディアーネのかわいい声にこたえるようにその手に不思議な剣が現れた。
流麗な曲線で作られた片手剣が二本。双子のようにうり二つの双刀である。
少し幅広で切っ先はなく丸くなっている片刃の剣。剣鉈というのだろうか。
コバルトブルーの刀身に金色のアラベスク。勿論サイズは子供サイズ。
横から見ると確かにあるのに縦に見ると見ることのできない二次元に近い双刀。
ディアーネが風を纏い、ケツァルコアトルスもどきに切りかかる。当然鋭い反撃が来るがそれは意味をなさなかった。
まるで宙に舞う羽毛のようにディアーネはその攻撃をふわりとかわして懐に飛び込んでいく。そしてしゅぱぱっと繰り出された斬撃はケツァルコアトルスもどきを、大人の騎士の剣すら跳ね返した羽毛をやすやすと切り裂いた。
頭を振って逃げようとする蛇。ディアーネはその蛇めがけて双刀を投げる。
投げられたそれはまるでみえない誰かがふるっているかのように動きケツァルコアトルスもどきを切り裂いていくのだ。
一方、エドワードだって負けていない。
「ほろびのつえ~っ!」
エドワードがそう口にするとエドワードの横に長い杖が現れる。
いや、杖というにはちょっとメカニカルで未来的なデザインの…
それは空間に固定されていて、エドワードが動かすときにだけ動く謎仕様。
エドワードはちっこいけどこの杖は4mもある。
ディアーネの剣が静かに存在しているとしたらこの杖は存在感を主張しまくってた。
それがケツァルコアトルスもどきの気を引いたのか、彼ののどの奥に光がともる。
「よけろ、ドラゴンブレスだ!」
「ドラゴンの火はこの世の何よりも熱いぞ!」
「クソ、こんなところで!」
周りの人たちパニック。
中にはエドワードを回収しようとする人もいたが、エドワードには近づけなかった。
そう、この状態のエドワードは空間的な防護膜に幾重にも覆われ、大体の攻撃が効かないのだ。
どんな攻撃もすり抜けてしまうディアーネとは違うコンセプトの防御システムなのだ。
先に動いたのはケツァルコアトルスもどき…いや、すでにドラゴンブレスが使えるならばケツァルコアトルスそのものだろう。
その口からあふれ出るように、こぼれ出るように吹きだす炎の奔流。赤黒いそれが迫ってくる。
だがエドワードはしっかりと立って…
「ふぁいえる~」
ドン!
と。明るく輝く朱金の炎が杖の先端から打ち出された。
それは細く頼りなさげに見えた。だが…
ゴバッ!!
あまりの頼りなさに周りの大人たちが絶望にかられたその時に、その細い炎は瀑布のようなドラゴンの炎を貫き、吹き散らし、あまつさえ砕けた炎を焼き尽くしてしまったのだ。
これには見ていた大人たちも驚いた。
この〝次元刀〟と〝滅火の杖〟が双子の精霊武器である。
双子はアファナトスの所に通い始めたときから二人はアファナトスの指導で精霊武器の設計と構築を始めていたのだ。
そのうちにデザインや性能の問題でアルビスが巻き込まれ、まあ、その段階でちょっと方向性が変わったりしたのだが、そういった経緯で最近完成したばかりの新装備なのだった。
空間を切ることでその上に存在するものも一緒に切断する双刀【次元刀】そして極限まで加速された炎の力、つまりプラズマを高速で打ち出す長射程の火炎放射器【滅火の杖】どちらもアファナトスから教わった空間属性をして初めて実現された精霊武器なのだ。
ディアーネが攻撃をかわせるのは質量を操って、自分の質量を極限まで下げているからだし、炎が数百mの距離を駆け抜けるのは重力場でプラズマを導いているからだ。
火炎放射器とは言いながら打ち出すのは加速されたプラズマなので最高5000度といわれるドラゴンの炎を焼き滅ぼすほどの熱量だったりする。その熱さ1万度超え。
その性能はあまりに驚異的だが、当人たちはたただノリと勢いである。
おもしろければいいのだ。
いや、もちろんアファナトスも含めていろいろ検討したんだよ。アファナトスってばいろいろな神器を持っていて、それも参考にしたし。アルビスも知恵を絞ったしね。
ただ子供だからね、かっこいいとか奇麗とかが優先されるのは仕方がないのかなと。うん。
さあ、そうしていよいよ真打登場。
ディアーネとエドワードの圧力は強かったようで、さしものケツァルコアトルスも思わず逃げた。
蛇なので頭を大きく振って方向転換。
でもその先に、いきなりアルビスが現れた。
転移魔法だった。
だけど誰も注視していなかったので素早く移動したのと区別できませんでした。それに飛び散った炎が邪魔だったしね。
そして宙に浮かぶアルビスの手には金色に輝く槍が握られていた。鋭くそしてかっこいい槍である。
これはたぶんアルビスの願望とか反映されているね。
どんなアニメ作品に出しても恥ずかしくない奴だ。だんだんデザインが良くなっていく。
キエェェェェェェェェェェェェェェェェェッと甲高い鳴き声を上げて突っ込んでくるケツァルコアトルスを、アルビスはその槍をくるりと回して石突で殴り飛ばした。
ドゴンと音がしてケツァルコアトルスの頭が大きくはじかれる。胴体が蛇だから振り子のように。
しかし吹き飛んだその先にもアルビスはいた。
そしてまたどつき飛ばされるケツァルコアトルス。
これもアファナトスとの修業の成果だった。
自身の周囲の空間を制御することで慣性に干渉する。
慣性が低ければいきなり極限まで加速することも、加速状態からいきなり静止することもできるのだ。
慣性が普通だとたぶん大惨事です。
そして慣性を大きくすると打撃力は跳ね上がる。それは質量が増大することと同じだから。
これがアファナトスの力。アファナトスの恐ろしさ。
まだ直線的な力の使い方しかできないアルビスでもケツァルコアトルスを一方的にタコ殴れるのだ。
上級者のアファナトスなら本当に蝶のように舞い、隕石衝突のように殴るのだからおっかないのである。
まあ、でも現状でもちっこいケツァルコアトルスをボコるには十分。
ダメージでふらふらになり、地面に倒れたところにアルビスの槍が〝ぷすっ〟と。
脳天でした。
実体化していたことが仇になった。
それは生物としての弱点を持つということ。
そしてアルビスの槍は、槍の形はしていても〝雷霆〟の名の通り、莫大なプラズマの塊である。
わずかに解放されただけのエネルギーは、ケツァルコアトルスの頭の中を一瞬で焼き尽くし、炭化させる。
脳みそ消し炭である。
であるからケツァルコアトルスは、その短い生涯を閉じる以外の道がなかった。
ご臨終である。
ちーーーーん。




