03-23 手ごわい魔物
第23話 手ごわい魔物
アルビスの前に現れたのは白い饅頭のような魔物だった。
《〝コゴス〟でありますな。ちょっと強いタイプであります。こいつはどこにでも出るでありますよ》
〝精霊ペディア〟によるとこの〝コゴス〟と呼ばれる魔物は別名『這い寄る者』と呼ばれていて、スライムとよく混同されたりする魔物だ。
這いまわって何でも食べるというところは同じなのだが、スライムが基本的に人畜無害なのに対してコゴスは危険生物だ。
形としてはスライムが半透明でお饅頭のような外見をしているのに対して、コゴスは不透明で真ん中が大きく盛り上がった甘食のような形の生き物だ。
確かにおとなしくしていれば一見似ているといえるだろう。
だがおとなしくしていないときを見れば一目瞭然で、コゴスはその体表に無数の小さな眼球が浮かんだり沈んだりしているし、時折裂けるように牙の並んだ口のような器官が開いたり閉じたりする。
おまけに前進するときに無数の触手のような器官を前面から生やし、地面を掻きながらかなりのスピードで走れたりする。
直視すればかなり正気を疑うような魔物だったりする。
おとなしくしていると見た目がプルンとして可愛いから近づくとパックリ。見たいなトラップでもある。
かなり正気度を直撃する魔物だったりするのだ。
救いなのはこの魔物、世界中のどこにでも出るかわりに魔力の薄い地区では弱いスライムと大差ない戦闘力しか持たないということだろうか。
つまり人間の生活圏だと弱い奴しか出ない。昆虫とか小動物とか食べる程度。だから平和。
なので弱小魔物なんて勘違いもされるのだが、ちょっと大きくなると格段に強く、狂暴になるのもこのコゴスの特徴だ。
「ひょっとしてどこかにとんでもないものがいたりして?」
《・・・・・・》
なぜ黙る。
今アルビスの前にいるのは高さが150cm、幅は通路いっぱいで2メートル強というところだろうか。
そして色は真っ白だ。
そして前述のとおり、たくさんの眼球をギョロギョロと動かし、亀裂のような口をがちがち噛み鳴らし、無数の触手を地面に伸ばして這いずって、かなりの速さで進んでくる。
双子マジ吃驚。
コゴスはアルビスと対峙すると即座に戦闘行動に移行した。
目がいくつか開き、次の瞬間数本の触手が勢いよく撃ちだされたのだ。
「バリア!」
アルビスは即座にバリアを展開してそれを受け止める。
「おお、強い。こいつつおいぞ!」
アルビスが前面に展開したバリアから強い衝撃が伝わってきた。そしてズゴンズゴンと音が響く。
触手の威力はかなりのものだったようだ。
だがアルビスのバリアも強かった。
「うむ、無属性に空間属性を合わせたのがよかったな」
ここら辺も修業の成果だ。
「くらえ!」
そして速やかな反撃。アルビスが力場で作った刃をふるってその触手を切り落とす。
すると触手は地面に落ちてそのまま崩れてしまった。
「あれ? 塩?」
それは確かに塩に見えた。ひび割れて砕けた石像のような欠片、その細かいところは普通の塩に見えた。
しかしそれだけでは終わらない。
塩の山はズゾゾと動いて再びコゴスに合流してしまったのだ。
「むむっ、切っても意味なし…じゃあ銃は?」
当然無効でした。
「「兄さま」」
「うーん、ちょっと離れてて、こいつ強いや」
「「はい」」
元気に返事をする子供達、信頼感がすごい。
まあ、アルビスの方は『ダメなら転移で逃げちゃお』とか思っているから気楽なものなのだ。
「さて、こうなると風も土も駄目か…火は…危なくて使えない…となると水か? なんか塩っぽいし、うん、水じゃなくてお湯をぶっかけてみよう」
アルビスは創水の権能で水を作り出す。細かく砕かれた水がアルビスの前で渦を巻き、少しだけ加熱される。
そしてそれは津波のようにコゴスに押し寄せた。
ザーザーザー。ダダダダダと豪雨のような音が響き、周辺の湿度が上がっていく。
湯気が立ち込め途端に周囲が見えなくなるが、アルビスは天眼で視えているので問題ない。
思った通り、というほど計画的ではなかったが、荒れ狂う水の渦はコゴスを溶かし、その体積をどんどん減らしていった。すごく効果的だ。
それでも、水に溶けて液体となってもコゴスの体は元に戻ろうと蠢いて波打つ。
「「おてつだいするのー」」
そんな時、バリアの陰から双子が魔法を撃ち始める。
「あっ!?」
双子はまだ水の属性を獲得していないので、水魔法の水はすぐに蒸発して元の塩が残るだけ…そう思ったのだが、二人の魔法は思いの他効果的だった。
エドワードの撃つ水弾はコゴスに着弾すると塩と同化して食塩水となるがその後一気に過熱して爆発を起こしてしまう。
高熱にさらされたせいか、はたまた広範囲に飛び散ったせいかその部位は蠢く気配を見せなかった。
ディアーネの水鉄砲は風の力で大きく加速してまるでカッターのようになってコゴスを切り開いていく。
アルビスの奔流も巻き込んでかなりの水量だ。
しかも切り開かれた所に水の流れが入り込んで再生を疎外している。
そして溶けていくコゴスの中から強く光る石が…
「ああっ! あれが魔核だ」
アルビスは確信した。
そして魔核は魔角とは違って失えば魔物は存在できなくなる。
完全に露出したそれをアルビスは隠者の手を伸ばしてつかむとそのままむしり取って回収する。
これが止めになった。
コゴスはそのまま崩れ、なんかびちゃびちゃで妙に固まった塩の塊となりはてたのだった。
ただそれも。
「ああ、やっぱり戻っていく…」
結構破壊された迷宮の通路だったが、ゆっくりと元の形を取り戻すべく変形していく。
コゴスの身体もそれに飲み込まれて消えていくのだ。
さすがにこの塩を回収する気にはなれなかったので、アルビスは魔核と魔角だけを回収した。
あとは先ほど逃げた二人組を捕まえること。
大した手間ではないのだった。
◇・◇・◇・◇
ちょうどそのころ。
「なんか成長速度が上がってない?」
レムニアが監視していたドラゴンの異変に気がついた。
じつのところドラゴンはほとんど動いていなかった。
「さてもさても、回復役が心許ないが仕方ないな」
「援軍を待ちますか? 騎士たちが集まればどうとでもなるかと」
「うむ」
いろいろ秘密な王様だが、事ここに至れば自然と指揮をする立場になる。
その王様の声が不意に途切れた。
ズズズズズという振動を感じたからだ。
時間はくしくもアルビスがコゴスを倒したときだった。
そしてその瞬間から、彼らの目の前のドラゴン、ケツァルコアトルスがググっと大きくなった。見た目でわかるほどに大きくなったのだ。
「これはまずいな。援軍が来ることを前提にして仕掛けるしかあるまい」
王様たち、実は手をこまねいてました。
というかドラゴンと戦うにしても回復役がいないのでは厳しいのだ。
一応水魔法の回復が使える騎士(騎士団所属の魔法士)はいるのだが、彼女は一属性でしかも騎士として活動しているので魔法自体は使えれば便利といったレベル。
強敵との戦いで回復を任せられるほどの実力はなかったのだ。
なのでここにいる高位の回復魔法士、ベアトリスと、あと不本意だがアルビスに協力を仰ぐ。さらに戦力として騎士を呼び寄せるために人を送っていたりするのだ。
行ったのは例のあの人、すでにパシリと化しつつあるね。
できれば彼らの到着を待ちたかったのだがこの調子でケツァルコアトルスが強くなると収拾がつかなくなる可能性がある。
ケツァルコアトルスは成長すると全長20mを軽く超えるドラゴンなのだ。
そんなのに暴れられたらそもそも天井が崩れてしまう。
まあ、それはケツァルコアトルスの動きを疎外する要素ではあるのだが。
「よし、では総員戦闘態勢。仕掛けるぞ」
「はい」
「「「「おおーーっっ」」」」
◇・◇・◇・◇
そんなところにアルビスが到着した。
みんなが気合を入れて突撃していくその後ろ姿が見えたりした。そんなタイミングだ。
その先にはよくわからない翼のある蛇(みたいな何か)。
「おお、あれがドラゴンか」
「「かっこいいー」」
「うん、なかなか見ごたえがあるね。
あんなのに突っ込んでいくんだから王…レムニア様達、やっぱり強いんだなあ…」
アルビスは颯爽とドラゴンに挑む王様たちを見てふんふんと感心している。
それ、誤解なんだけどね。




