03-19 迷宮探訪と懐かしの我が家?
第19話 迷宮探訪と懐かしの我が家?
アルビスは現在ものすごい後悔にさいなまれていた。
(あああ・・・あっ、あれは一時の気の迷いだ…あれは俺じゃない。俺じゃないんだ…)
迷宮に行くか行かないかで『いく』とは言ったものの、そんなもの当然許可が下りるはずがない。
いや、魔境をふらふらしていて、それを容認している大人たちなら許可を出したかもしれないが、この場には外からやって来たがゆえに(常識的な人)がいたりするのだ。
いや、王様のくせにふらふらしているのだから非常識かもしれないが、まあ、子供を迷宮だの魔境だので好きなようにさせるほどではなかったのだ。
王様の『ダメ(普通の対応)』をみてレムニアたちは非常識に染まっていた自分たちに気が付いて衝撃を受けたりしたのだ。困ったものである。
なので多勢に無勢なのだが、アルビスはどうしても迷宮に行きたかった。
だって今まで迷宮に入るような機会はなかったのだ。
そしてここはファンタジー世界なのだ。行ってみたいだろ? 普通。
それでちょっと感情が暴走してしまったのだ。
場所も悪かった。故郷に帰ったことでちょっと子供のころのことを思い出してしまった。
なので。
『やだやだやだもん、いくんだもん』とかじたばたしてしまったのだ。
その後双子がアルビスの真似をしてイヤイヤ星人と化したことでアルビスはひどい自己嫌悪におそわれたというわけだ。
まあ、おかげで同行が許可されたけど。
クダチ男爵が…
『まあ、いいのではないですか?
一階層はかなり安全な魔物しか出ません。
子供でも心配はないレベルですよ』
と、口添えしてくれたので、絶対に前に出ないという条件で許可された。
クダチ男爵、オヤクダチな人である。
ちなみに許可を出したのは王様で、レムニアやベアトリスは微妙に目が泳いでいたのは…まあ、仕方ないよね。
そんなわけでアルビスはひどい自己嫌悪を引きずりながら迷宮を進んでいるのであった。
ちなみに双子は楽し気に走り回っている。
つかまって宙づりになってる。
ものすごく喜んでる。
さて、一行の先頭を進むのはレムニアである。偉い人なのでそれが先陣を切るってどうなのよ? という向きはあるのだが、その表情は実に楽し気であった。
「ご機嫌ですね姉上」
「あら、ほほほっ、迷宮は久しぶりですから」
その〝たはは〟な笑顔をみて国王イロスは苦笑する。
そう言えば迷宮とか大好きな人だったな。なんて思いだすのだ。
そもそもレムニアが怪我をしたのは王都にいるとき賊の襲撃を受けた国王をかばったことが原因だった。
大規模な襲撃で、多勢に無勢という状況で、レムニアも無傷では済まないほどの攻撃だったのだ。
もちろんイロスは無事だった。レムニアの功績といっていい。
昔から姉のように思っていたレムニアの怪我なので、イロスも八方手を尽くした。
水神流はもちろん、宗教勢力も含めて治療を試み、それでも治せなかったのだ。
それが今、元気に敵を斬りまくっている。
自慢のレイピアが唸っているのだ。
まあ、シチュエーションは微妙なわけだが、イロスにしてみれば実にありがたい光景だった。
そしてその光景をもたらした存在。
ちらりとアルビスを見る。
アルビスはどんよりしていて時折頭を抱えて、「あー」「うー」とか言っていたりする。とても普通の子供に見える。のだが…
(まさかこのような子供がナンナ以上の回復魔法の使い手だとは…)
驚愕であった。
そしてアルビスのことを内緒にしようというレムニアの意見にむべなるかなと賛同もする。
幼い子供が超級の回復魔法の使い手となれば蠢動する者たちは枚挙にいとまがないだろう。
貴族はもちろんのこと、宗教勢力もあるかもしれない。
回復魔法と言えば水属性が有名だが、回復属性魔法というのもある。主に宗教勢力などがこれをよくするのだ。
完全な形は生命属性なのだが、普通は不完全なので回復属性と呼ばれる。
そしてアルビスのそれも回復属性だと思われている。
となると宗教勢力なんかも黙っていない可能性がある。
ならば秘するが花だ。
イロスはアルビスが大人になるまでこのことは極力秘密にしようと考えた。幸いアルビスの詳しい話を聞いたのは自分だけだから。
それに王様という立場で考えれば、アルビスのような人材はぜひ味方に引き入れたい。
部位欠損まで治せる回復魔法士。
王国のいや、国王直属でもいいから配下に置ければどれほど頼もしいだろうか。
(ふむ。いっそのこと娘を嫁に出すか? 伯爵家だ不可能ではない。まあ、成り上がりとは言われようが、この実力なら有象無象を黙らせることは難しくないだろうしな…)
イロス君はレムニアたちがアルビスを好きにさせているのが『アルビス=さわるな危険』という認識のせいだとは考えていないのだ。まだアルビス君をよく知らないから。
さて、このようにシュパシュパ魔物を斬りつつ(主にレムニアが)迷宮を進む一行だが、ここで迷宮の魔物について解説しよう。
迷宮の魔物というのは魔物であって魔物ではない。
厳密には生き物ではないのだ。
魔境の魔物はちゃんと生きている。生きて生態系を形作り。繁殖して増えたり減ったりしている。
だが迷宮の魔物は『生えて』くるのだ。
例えば迷宮の床とか壁とか天井とかから。
たとえ魔物が生き物型で、生き物と変わりない、例えば狼のような魔物だとしても、それは生まれてきたのではなく生えてきたのだ。
そして魔境の魔物は倒すと丸ごと素材として遺体が残るのだが、迷宮の魔物は魔石とドロップアイテムを残して崩れてしまう。
土くれのように。
そしてもう一つ。迷宮の魔物は環境に左右される。
例えばこのコンラート塩迷宮であれば素材は塩、つまり倒すと崩れて塩の塊になってしまうのだ。
そしてさらに出でくる魔物はこの魔境で普通に出る魔物に限定されていたりする。
「それ!」
今レムニアが切ったのは芋虫型の魔物である。つまりクリームキャタピラーのそっくりさん。
だがあの美味しい芋虫ではないのだ。その証拠に切り捨てるとぼろぼろと崩れ、塩の山になってしまうから。
こういう魔物を『迷宮傀儡』とか『迷宮魔獣』とか言う。呼び方は『ゴレム』ね。ゴレムと言ったら迷宮で出くるいろいろな魔物のこと。そこんとこよろしくね。
これが迷宮の法則である。
まあ、それだけではない不思議現象がいろいろあるのだけど、これが基本構造だろうかね。
迷宮の記憶であるとか、魔力の淀みであるとか、いろいろ言われているが本当のところは分かっていない。
迷宮とはこのような不思議空間なのだ。
◇・◇・◇・◇
そんなこんなで初めての迷宮探索は無事終わった。
「結構広くて快適だったね」
「しろくてあかるくて素敵だった」
一階層だけなのでまあ、ほぼ観光である。
視察としては奴隷たちが洞窟の壁面をどんどん削って塩を斬りだしているのを確認し、その切りだせる量に感心し、安心し、そしてほどほどの所で外に出てきた。
もう少しすると日が陰ってくるような時間帯。
そこにながれる空気になにか思い出すものがあったのか、双子が言い出した。
「ねえ、兄さま、おうちいこ」
「にいちゃま、私たちのお家が心配だよ」
双子がアルビスの手を引っ張って懇願を始めたのだ。
もちろん『秘密基地』のことである。




