03-15 暗躍《《したい》》者たち
第15話 暗躍《《したい》》者たち
「さて、困ったのう…せっかくアファナシアにつけた首輪、何とかならんか?」
ここは王城の一角、『本殿』と呼ばれる場所の一角である。
この竜凱城は三つの区画で出来ていたりする。
一つ目は一番奥にある『内殿』と呼ばれるところ。ここは王様の家族が暮らすエリアでまあ、言ってみれば後宮みたいな存在?
みたいというのは王様の子供達、王子や王女の生活スペースでもある。ということだ。当然関係者以外立ち入り禁止だ。
その周りにあるのが『本殿』と呼ばれるところで、ここは王様のプライベートエリアと王国の偉い人達の職務エリアがある。
言ってみれば国会と各大臣の執務エリアというところだ。
王妃や王の子供たちの執務エリアもここにある。
といっても子供たちはまだ小さいし、王妃の片方は真面に仕事をしていないので、そちらはほとんど機能していないといっていい。
まあ、王族と外の人が接触できるエリアでもあるので機能はしていなくても使われてはいる。
実家の親類と会ったり、友人と会合したり、商人をよんだりする場所なので、本来の使い方から外れているとはいいがたいのだ。
そこできらびやかな椅子にふんぞり返って偉そうにしているのがアファナシア王国の第一王妃イライザだったりする。
なかなかの美女。と言っていい女だが、服は派手でやたら宝飾品が多いのであまり品はよく見えない。
もともとの美貌がデコレーションされすぎて台無しになっている感じだろうか。はっきり言ってデコトラの方が優雅に見える。
デコトラはかっこいいと思う。うん。
さて、そのイライザ妃の前には数人の男が膝まずいていて、実は皆この国のそれなりの貴族だったりする。
「恐れ入りましてございます。しかしスクード家は王家の分家のような家、貴族家とは言っても実質は王眷属の扱いです。
誰が見ても文句のつけようのない瑕疵があればともかく、他の貴族家のように難癖をつけてどうこうしようとすればこちらの首が危ないということになりかねません」
と、中年の貴族。それに老齢の貴族が応える。
「そうじゃの、あそこは武闘派だ。
時代は文治じゃというのにあそこはいまだに腕っぷしで勝負しとる。難癖をつければあちらは武力で攻撃してきよる。
野蛮人じゃ」
そうだそうだと集まった貴族家の当主たちが口々に悪口を言う。まあ、確かに脳筋なところのある土地なのだ。
「ふーむ、そうじゃ、スクードの当主、あの女、しばらく王都におったのは怪我をして思うに任せぬからではなかったかの?
そこらへんはどうなのじゃ」
「それですが、良い治療師が見つかって完治したと報告がありましたよし、あの怪我が完治など、俄かには信じられぬことですが」
「どちらにせよあそこは王国の時代遅れの記念碑のような存在。
山に住む霊獣との契約で必ずアファナシア王家の血を引くものが治めると決まっておる。
言ってみれば第二王家のような存在。
しかも外に対して働きかけるような事もありませぬ」
「あの弟、レムニアの健康に瑕疵があるからと代理になったあやつ。あれはよかった。
バカであったし、しかも王家の血が薄い。
あれがおとなしく跡目を取っておればやり様はあったのじゃ」
「まあ、バカすぎましたな。
こうなれば我らから圧力をかける理由がありますまい」
みんな跪いたまま話しているので大変そうだ。
「困ったのう、塩を握るのはこの国の生命線を握ることじゃ、じゃによってこの国はわが祖国『ド・アーク帝国』に頭が上がらなかったのじゃ。
我が王子の力の源でもある。
何とか塩の専売をこちらの手にとどめ置く方法はないのかの?」
以上の発言から分かるように、イザベラ妃は政治的な配慮でこの国に嫁いできたアーク帝国の皇女だったりする。
そしてここに集まっているのはアーク帝国寄りの貴族たちだ。
「そう心配はいらんのではないですか?」
そのうちの一人、まだ若い貴族が声を上げた。全員が『?』と言った顔をする。
「塩ギルドはこの国の塩の流通を一手に担ってきた組織です。
田舎者が国中に塩を売ろうとしたところでギルドを無視しては何事もなりますまい。
ギルドを使うのであれば今までと大して変わらぬ話。
ギルドを使わぬなら…」
「使わぬなら?」
「塩を扱う商店などが協力するとは思えません」
彼はにやりと笑った。
もちろん圧力とか嫌がらせとか妨害とかあるのだ。
「おお、確かにそうじゃな。
商人など卑しい物、安い塩より儲けの出る塩だ。田舎者が安く塩を供給しようとて利益にならねば相手にするまい」
「うむ、ましてギルドに歯向かうようでは商売もなるまいしな」
その場にいる貴族たちは言われてみればその通りだと少し肩の荷を下ろした。
確かに流通システムも現在のところ塩ギルドと呼ばれる組織が掌握っているのだ。
「じゃが、長い目で見れば我が祖国の不利益になること。
そのほうら、何とかせよ」
何とかせよといわれてもふつうは困るのだが、ここに集まっている貴族たちは違う。
「お任せください。必ずや御意に沿う結果をご覧に入れましょう」
簡単に安請け合いした。
もちろん何か策があるわけではない。
(ギルドのやつらに命じておけばよかろう)
必殺技、安請け合いからの丸投げがさく裂。
クズ上司の見本である。
◇・◇・◇・◇
「これではスクードの山猿の力が強くなるばかり、どうしたものか」
「まったくです。たまたま塩を手に入れただけで……あの山猿はやたら口うるさいのに」
また別のとこでも集まった貴族が口々に文句を垂れ流している。
場所は王都の貴族街。その奥のひと際大きく瀟洒なお屋敷の中だ。
そして垂れ流される貴族の文句に応える男。
「その通りだな、あの野蛮人めはやれ武術が大事だの、体を鍛えろだの口うるさいことばかり言いおって、しかも俺の提言にはことごとく反対しやがる。
俺になにか恨みでもあるのか?」
そういったのはこの館の主で現在公爵の地位にあるダーメンだった。
『ダーメン・スカ・アファナシア公爵』
名前から分かると思うがアファナシア王家の人間。現国王の弟だ。
黒髪黒目は国王と同じだが、鍛え抜かれてスマートな国王と違い、椅子にだらしなく座る姿はトドのようにふくよか…つまりデブである。
運動が苦手でしかも怠惰。昔から従弟であるレムニアに会うと無理矢理しごかれることが多く、今でもかなり恨んでいる。
ちなみにこの国、公爵というのは国王が我が子に与える一代限りの爵位である。領地無しの年金貴族。
つまりダーメンに公爵位を与えたのは先代の国王なのだ。
国王には他にも弟妹がいるが、他は嫁に行ったり、婿に入ったりでどこかしらに片付いている。
公爵位は本人が死ねばなくなる爵位なのでその子供には引き継がれない。つまりダーメンの子供はダーメンが死んだ時点で爵位なしの半端貴族になるしかない。
騎士になるとか文官になるとかで生きていくしかないわけだ。
なので普通の王族はそれを嫌がって、ちゃんとした貴族家に縁付いて伯爵とか、侯爵とか嫁に行ったり婿に行ったりして落ち着くのだ。
上級貴族は余分な爵位を持っていたりするし、王家との血縁はいろいろ役に立つ。それなりの能力があれば大体収まるように収まる。
しかし例外というのは出るもので、怠惰でしかも戦闘能力のないダーメンを欲しがる貴族家はなかったということなのだ。しかも身分の低い貴族家に入って現在の年金を、つまり贅沢な暮らしを失うのが嫌なダーメンというしょうもない組み合わせで彼は公爵家を立てることになったわけである。
現在他に公爵家はないのだ。
後の事とかまったく考えてない。いや、なかったというべきか。
どういうわけか最近は自分の派閥を作り、王国内で発言権の強化などに力を入れている。
先が見えて不安になったのかもしれない。
「しかしあの野蛮人は王家の人間だ。しかも兄者とは仲がいい。脳筋同士気が合うのか…
今回もきっと兄者と協力姿勢で塩の鉱脈を利用しようとするはず。
そうなれば兄者の権力基盤は盤石だ。
いい感じに足を引っ張ってくれていたアーク帝国の犬どもも何もできなくなるかもしれん。
アーク帝国寄りの派閥がなくなれば我が派閥も必然的に存在価値が下がる」
「さようでございますな。
塩という戦略物資を独占するあいつらを押さえておれるのは国王派と王弟殿下派の我々が歩調を合わせているからと言えましょう。
奴らが弱体化すると…」
「まあそういうことだ。だから我らも力をつけねばならない。
というわけで客人に起こし願ったのだ。
入られよ」
ふんすふんすと、どこか自慢げな太っちょ公爵。そのダーメン公爵の言葉を受けて部屋の扉があき、控えの間から三人の人間が入ってくる。
〝人間〟なのはローブを深くかぶり、顔も体型もわからないからそうとしか言いようがなかったのだ。
頭からすっぽりかぶるローブで、濃いグレーの生地にいろいろな文様が書き込まれている。
その場にいた貴族たちは見た目の異様さもさることながら、その三人から吹き付ける圧力にたじろいだ。
この三人は故意に魔力を垂れ流していたりする。アルビスもたまにやるが強い魔力は威圧的に周囲を染め上げる。強大な魔物がそうであるように周囲の存在に畏怖とか恐怖とかを感じさせることができるのだ。
貴族たちのたじろぎ様を見て満足した公爵は誇らしげに告げる。
ちなみに太っちょが平気なのは慣れたから。
ただの魔力なので自分に害がないと認識して感触になれると平気になったりする。
「こちらは賢者の塔よりお招きした高位魔導士の方々。つまり賢者様方だ。
この度お互いに協力しあえる部分が見つかってな。
お招きすることがかなったのだよ」
先頭に立つローブが軽く頭を下げる。
「この度は吾輩たちの研究が、貴国のために役だつる、その機会に、恵まれたことに、大変に感謝しておる。
そして、貴国が、魔導の発展のために、最大限の、協力を、してくださると、申してくれたことを、大変に、喜ばしく思っておる。この度、我々が、貴君らに提供する、その技術は」
そこまで言ってローブの男は顔を太っちょ公爵に向けた。公爵は(本人的には)鷹揚に頷き会話を吐き継ぐ。
そして…
「勇者だ!」
「「「「「「勇者!?」」」」」」
公爵が誇らしげに吠え、居並ぶ貴族たちが困惑した。
「そう、彼らは勇者の、勇者たる条件を解き明かしたのだ。
彼らの協力があれば、我らが任意に勇者を作り出すことができる。
それが可能となったのだ。信じられるかね? 夢の技術だ。さすれば勇者を擁する我々が、王国において、最大の力を持つ勢力となりうるのは間違いない。
王国の差配をすることも夢ではないのだ」
公爵大興奮。
しかし貴族たちの困惑は続く。
「そんな…、勇者を選ぶのは神器ではないのか?」
「本当に勇者を作り出せるのか?」
「いや、しかし勇者が我らの旗印であれば、国王とて我らの力を…」
貴族たちもざわめきだす。
ローブの男は。
「勇者候補を、教育し、育て、必ず勇者を、御身の御許にお届けいたしましょう。
すでに、ふさわしい候補、が、見いだされ、ている。
我ら、の手で、王国に、魔導の栄光をもたらしましょう」
彼の言葉は強い説得力を持ってその場にいる貴族たちを魅了した。
威圧にはこういう使い方もある。
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注 太っちょ公爵は鷹揚に頷いた…つもりだったが、顎のお肉がプルンプルンしただけだったりする。




