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アルビス 自由なる魔法使い  作者: ぼん@ぼおやっじ


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03-13 人材育成を考える話

第13話 人材育成を考える話



「孤児院を作るの?」


 アルビスはレムニアを捕まえて、身寄りのない子供たちのための施設が必要だと説いた。

 いきなりで面食らったレムニアだったが実は…


「それですか…それも、確かに何とかしないといけない問題ではあるのですよね…」


 と、一緒に捕まえたマイア女史が言う。

 そう、これもスクードの懸案事項ではあったのだ。


「これもあのバカのせいよね、ほんと、油断していたとはいえ、たった数年でよくここまで問題を発生させられたわね…本当に油断していたわ…」


 昔はここまで孤児の生活が困窮するような事はなかったのだ。

 というか孤児が大量発生するようなことがなかったのだ。


 ユマやキュールは親に捨てられてスラムで暮らしていたことが聞き取りでわかっている。

 あんな年端もいかない子供を捨てるなんて人殺しと大して変わらない。

 矯正側としては捨てた親のこともちゃんと調べたいが、詳しい話はこれからだし、はっきり言って手が回っていない。

 それよりも救済が先なのだ。


「神殿に対する支援も随分やってましたし、神殿の抱える孤児院は大きいんですよ。それでうまく回っていたんですけど」


 この町には神殿が管理する孤児院がある。というか孤児を面倒見るのは基本的に神殿の役目だ。

 もちろん行政が責任放棄をしているわけではなく、相応の補助金を出してはいるのだが、ノウハウの問題で神殿に任せた方が効率がいいのだ。


 だがアグニアがというかその部下が補助金を着服するようになり、アグニアがそれに無関心だったために状況が悪化した。


 さらに冒険者ギルドがいい加減になったせいで冒険者の死亡率が上がって孤児も増えた。


 さらにさらに町全体が貧乏になったせいで子供を捨てる親が増えてしまった。

 育てられなくてもやることやったら子供はできるし、生まれれば捨てるしかない。そんなのが増えてしまったのだ。


 借金奴隷とかあるこの国だけど、人身売買は禁止されている。

 借金奴隷というのはある程度分別が付くようになってからのことで、働いて借金を返しますという契約奴隷だ。分別が付かないということは契約もできないということであり、親が代わりにというのは認められていない。つまり人身売買にカテゴライズされるのだ。

 もしばれたらかなり厳しく罰せられる。なので子供を捨てる親が増えてしまった。他に選択肢がないのだ。


 資金が減って許容量が減ったのに、孤児は逆に増えていく。

 神殿の孤児院の許容量はすでに限界で、それでもスラムで炊き出しなどしてせめて食べ物だけでも…というのは神殿の人たち頑張っていると思う。


 でも、だからこれは喫緊の課題なんだと思える。


「神殿への支援を増やして子供の保護を強化するべきでしょうか…」


 実は現在、補助金などは元に戻って、さらに上積みまでされている。時間が断てば改善するはずなのだ。


 しかしアルビスは『それではだめ』と声を上げた。


「施設も人手も限界なのにお金を出すからもっとというのは悪手だよ。管理できなくなれば事態は悪化しちゃうよ。

 ここは余裕のあるところが孤児院を作るべきだよ」


 そう、一度あふれてしまったのだからそこにさらに詰め込むのは悪手だろう。であれば余裕のあるところが孤児院を増やすしかない。


「しかしアルくん、現在(スクード)もいろいろ立て直しの途中なんですよ。アルくんのお家の塩事業のおかげで、来年以降はかなり余裕が出てくると思いますけど、人件費や諸々考えると…」


 そう言えばエレウテリア家への年金はちゃんと支払われていた。

 来年以降は莫大な利益が見込めるはずだが現在は無理をしているのかもしれない。


「大丈夫、大丈夫。今現在余裕のあるところがあるじゃない。例えばうちとか、家とか」


 アルビスはもともとそれを考えていたのだ。


 スクード家には現在お金はないかもしれない。資産はある。本当にたくさんある。だが現金がなくて首が回らないという状況なのだ。地球にいたときそんな理由で倒産する会社もあった。

 だが現状、余裕のあるところがある。


 それがエレウテリア家。


 取り立てて大金持ちというわけではない。現状ではね。だがエレウテリア家、逆に支出がない。

 本当にない。


 家屋敷はお城の一角にある館をもらっちゃったし、館の改造はアルビスの自前と建築ギルドの協力でお金がかからなかった。

 支出は使用人の給料ぐらいだ。

 それだって必要最低限しかいないのだ。

 いや、実際は足りていない。でも住んでいるのが基本おおらかなので『手が回らないところは後回しでいいや』みたいな感じで運営されている。


 アルビスも慣れっこである。何といっても元現代人。『掃除なんて週に一回やれば十分』みたいな感覚がある。

 アルビスから見るとこの世界のメイドさんたちの『毎日毎日ピカピカになるまで』というのはついていけないまであるのだ。


 そんな状況で前述の通り子爵家待遇の年金は支払われているし、塩の売却益は確実に入ってきている。それに加えてアルビスの特許料的なお金も建築ギルド他から着実に入ってきているのだ。


 もう少し人を雇って孤児院を運営するぐらい余裕である。

 もちろんベアトリスには…全く話を通していない。うん。


(建物は雨風しのげるレベルなら、たぶんフリーマさんに頼めば何とかなるよね)


 建築ギルドを当てにしてます。


「うーん、でもこれは家でやんないといけないことなのよねー」


「でもうちはもともとが小規模だし、お金を使う用事もないし、子供の保護と育成に力を入れるぐらいでちょうどいいのでは?」


 レムニアとマイアはアルビスを見た。

 そして思う。


(そういえばこの子も一時期孤児として苦労をしていたのだわ)


 と。

 間違いではない。状況的には。ただ苦労をしていたかは異論がある。と思う。


 そしてレムニアたちはここでも一つ勘違いをしている。


 アルビスが孤児院を作ろうといっているのは、子供たちのためというのもないとは言わないが、自分の利益もきっちり考えていたりするのだ。


 アルビスはどんな人間でもちゃんと教育すればそれなりの能力を手に入れられることを理解しているのだ。

 さらにすべての人間に向き不向きがあり、適材適所を考えてやればすごい力になることも知っているのだ。

 元現代人だから。


 小さいころから良い環境で生活し、栄養バランスのとれた食事をとっていれば肉体はよく育つし、順を追って勉強すれば知性も身につく。

 この国のように下層の人間が読み書きもできないというのはアルビス的にはあり得ないことだったりする。


 倉廩そうりんつればすなわち礼節を知り、衣食足れば則ち栄辱を知るのである。


(重要なのはそれが許される環境で育つことだよね)


 三つ子の魂百までも。そうして育った子供はしっかりとした倫理観を持つようになるだろう。まあ、ある程度。


 もちろん地球の道徳をそのまま持ち込むつもりはないが、知力体力的に高い水準の人間を大量に育てられるチャンスなのだ。見逃す手はないのである。


 それにこの世界、忠義だの忠誠だのが美徳とされる世界だ。

 おまけに職業選択の自由とか、基本的人権の尊重とか、住居移転の自由とかは制限されているのである。


 優秀な人材を育てれば間違いなく囲い込める。きっと利益になるのである。

 全部でなくてもいいのだ。

 半分がエレウテリアに就職し、その半分が真摯に仕えてくれて、さらに半分が有用な人材であれば大儲けなのである。


(ぶっちゃけ子供を助けるのはやりたいこと、やらねばならない事だもんね、やらねばならないのなら利益が出る方がいいに決まっている)


「とりあえず雨風しのげるところを用意して、食事だけでもちゃんとあればスタートできると思うよ。あと、警備とか、人手とかは冒険者を使えばいいと思う」


 そしてあわよくばそのトップにアネモネを配置できればいいと思っていたりする。

 子育て中の彼女だけど、監督として冒険者をこき使うだけならできるだろうし、彼女なら子供の育成に気を使うだろう。


 そして過保護になる可能性は否めないのだけど、この世界は子供の人権に配慮などしないから、少し、いや、かなり過保護でちょうどいいのではないか?


「うーん、そうねえ、どうせやるならちゃんとした建物が欲しいわね…」


「ああ、それならあそこはどうですか? アグニア卿の騎士たちの宿舎」


「ああ、そういえばあったわね、どうせ使ってないし、あれ使っちゃうか」


 おっ、なんかよさげなものがあるらしい。


◇・◇・◇・◇


 翌日、案内されたそれはかなり大きな建物だった。


「ここはあのアグニア卿の私設騎士団が宿舎として使っていた屋敷なんですよ」


 案内してくれたマイアが言う。他にベアトリスやアネモネもいる。当然いつものメンバーも。


「ものすごいですね…高級ホテルかなんかかと…」


 アネモネが呆れたようにこぼした。それはアルビスも同感だった。

 四階建ての立派な建物で、ヨーロッパにあるようなアパートである。《《出来立てのレトロ》》な昔の高級アパートである。


 中に入ってさらに吃驚、外観にふさわしい調度品の数々が…なかった。全くなかった。それどころか所々破壊の後が…

 立派なのは外面だけだった。

 いや、裏に回ると壁に穴が開いていたりもするので外面というより表向きだけ?


「なして?」


「これなんですけどね…ここに住んでいたやつらがやったんですよ…」


 マイアがそう言って頭を振った。


 ここにいたのはアグニア元子爵の子飼いの騎士たちで、かなり金をかけた良い暮らしをしていたらしい。調度品も芸術といっていいほどの工芸品ばかりで飾り立て、はっきり言って金目の物ばかり。


 騎士団はアグニア卿が降格処分を受け、開拓地に飛ばされたときに当然ついていくように命令を受けたのだが…


「誰も忠義という言葉を理解していなかったみたいでしてね、彼に付き従うより退職を選んだんですよね。ただその際に館から金目のものを収奪して逃げることにしたみたいで」


 なので調度品がほとんど残っていないのだ。

 いすやテーブルはもちろんベッドはおろか箪笥まで持ち出されている。

 ここは北国で家の中にいる時間が長いので、家具には金をかける習慣があるのだ。なのででかい箪笥とかでも売れる。


 その際に邪魔になった壁やドアを壊していったらしい。

 ただ…


「その割にはうれしそう?」


 な顔をマイア女史はしていた。


「はい、大量の犯罪奴隷が確保できましたし、犯罪者の資産は没収ですから」


 没収とされた家具はお金になるのである。


(おおーっ、やりてだ、やり手がいる)


 アルくん感動。

 ろくでなしも有効活用するその姿勢が素晴らしい。


「しかし、これ、思ったよりひどいわ。これを直すのも結構かかるんじゃない? お金も時間も、特に壁の穴とかひどいよ…

 あらら、直っていく」


「うん、直せるよ」


 変成と築城の合わせ技だ。壁の補修などお手の物。


「うん、行けますね。あとはフラーマ様の協力があれば」


「家具は普通程度のものならうちで問題なく用意できますね」


 高級家具を売り払って普通の家具を大量購入。


「うん、お風呂とか水道とか作って、うん、楽しそうだね」


 アルくんは基本的に自前。というか自作?


「ここが子供たちでいっぱいになるのね…」


 そんな感じでみんなだんだんやる気になってきた。

 まあ、時間はちょっとかかりそうだけどね。


 こうしてアルビスの計画の一つが始動したのだった。


□ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □


 6月アルビス7さい9か月。双子5歳5か月



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