03-11 モンスターパスはだめ。絶対。
第11話 モンスターパスはだめ。絶対。
「おねえちゃん!」
「ユマは隠れておいでなさい!」
「お嬢様はお逃げください」
「ダメよ。私が下がったらユマが…あっ!」
現在戦闘中。
ケイトたち三人は女の子、ユマを守ってオークと戦っていた。
オークは三匹だった。
他は脱落したか他を追っていったか。
ただ二頭は普通サイズだったが、一頭は明らかに大きく、3mを超えている個体だった。牙も立派だ。
現在戦線が維持できているのはその上位種と思しき一頭が戦闘に参加せずにいるからだった。
ミーメともう一人の騎士フラウが片手剣と盾でオークと対峙して、ケイトが魔法で後方支援という形で何とか戦っているのが現状だ。
だが敵に予備戦力がある以上、この戦線が維持できるのはオークが遊んでいるからでしかない。
護衛騎士たちは主人であるケイトを何とか逃がしたいと思っているが、ケイトは戦えないユマを置いていくことを良しとせず、踏みとどまって戦うことを選んだ。
ただ時折上位種が石を投げてケイトを攻撃したりするのでそれをかばうためにミーメが動き、そのたびに戦線に圧力がかかっていた。
今回の攻撃もミーメが盾で受け止めたがその隙を狙ってノーマルオークが攻撃を仕掛けてきたために右腕に浅くない傷を負うことになった。
これでケイトたちは圧倒的に不利になったわけだが、オークたちは勝負を急ぐつもりはないらしく、またちまちまとした戦闘を続けている。
オークというのは普通種でも最大2mぐらいあって、そして体に見合ってかなりの剛力だ。
曲がりなりにも渡り合っているのだから二人の女性騎士の腕はかなりいいといえるだろう。
だが。
「このままではだめ。私たちが囮になる。ケイトさまは子供を抱いて離脱する」
「し、しかしそれでは…」
「それしかありません、このままでは全滅です。
子供を助けるためですわ」
フラウはここにきて発想を切り替えた。
子供のためにケイトが残ったのではない。ケイトなら子供がいなくても誰かに守られて逃げるのには抵抗があっただろう。
だが同時に、人の上に立つものの義務も理解しているとも思っている。
ケイトが逃げる決断をするかどうかはかなりきわどい選択になる。
だが子供を助けるためであればケイトは逃げることにためらわないだろう。
すでに勝てる目はないのだから。
だがそこは邪悪で頭のいいオークたち。
状況の推移から遊ぶのはここまでと判断して行動を開始した。
ぶふおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!
動き出すオーク上位種。
その遠吠えはそれだけでケイトたちをすくませるだけの力があった。つまり威圧だ。
ズシンズシンと地響きを立てつつ近寄ってくるオーク。
「あっ・・・・」
「ひっ・・・・」
「ちょっとまずい?」
ミーメ君はちょっとずれているかもしれない。
だがオークがその暴威をふるう機会はやってこなかった。
『ぶぎぃぃぃぃぃいぃぃぃぃぃぃいぃぃぃぃぃぃ!』
横から飛んできた何かがオークの横っ腹を殴りつけ、その反動でオークは飛んだのだ。天高く飛んだのだ。
「間に合いました」
「すごいねそれ」
「はい、兎さんのプレゼントです」
オークを薙ぎ払ったのはカナリアだった。
その光景を見てアルビスはちょっとびっくり。
カナリアはいつもの大きな盾を持ち、右手にはチェーンソー……ではなく長い鉄棒を持っていたのだ。
金属でできたただの鉄の棒である。だから鉄棒。
なんでも修業をつけてもらっている時にアファナトスから渡された物らしい。カナリアの修業はこれを使う練習だったのだそうな。
見た目以上に(金属棒だから見た目もかなり重そうなんだけど)重いその棒は、当然空間属性の質量制御無くして振り回せるものではなく、そして振り回されたそれは破城槌のような威力を発揮した。
こうなると双子が何を教わっていたのかちょっと心配になる。
とりあえずカナリアとアルビスが降りてきたが、カナリアがブンブンと鉄棒を振り回すとその質量ゆえか竜巻のように風が唸り、オークはまるで破城槌の直撃を食らったように吹っ飛んで行くのである。
「まあ、任せて大丈夫だね」
アルビスは四人の怪我の治療を始める。幸い一番ひどい怪我をしていたのがミーメで、その怪我もアルビスならヒーリングで簡単に直せるレベルだった。
その間にオークの上位種もカナリアの鉄棒で蛸殴りにされて沈黙したのだった。紛う事なき撲殺である。
◇・◇・◇・◇
「それって魔物の擦り付けじゃないですか」
ゲームなんかでモンスターパスとかトレインとか言われるあれだ。
アルビス的にはその程度の認識であったのだが。
「その通りです。戦士として絶対に許されないものです」
アルビス以外の人たちの憤りは一様ではなかった。
やむを得ずそうなってしまうことはある。勝てないものは勝てないのだ。
だがそれでも最善を尽くすことは必要とされる。
ここは騎士道の国なのだ。
冒険者と言えどもわざと魔物を擦り付けるというのは見つかればかなりの重罪だし、極めて恥知らずな行為である。と考えられている。
「よいですかアルさま、よく聞いてください」
なんて前置きの後にカナリアにしっかり言い含められるアルビスだったりする。
(なるほど、言われてみればここはゲームの中じゃない。現実であればやはり極めて危険な犯罪だろうね)
いろいろ状況とか勘案されるが罪がなくなることはない。質の悪いものならば当然に極刑もありうるのだ。
「うーん、となると、すぐに話を通した方が速いかな?
よし、すぐ帰ろう」
「ええ、そうですね、こういうのはちゃんと冒険者ギルドに訴えないといけないのですわ」
それが正しい手続きというものだ。
でも。
「ただいまーーーーーーっ、ぼくだよーっ、あーけーてーーーーっ」
アルビスが返ってきたのは普段は閉じられているお城の方のゲートだった。
直接城内につながるためのここは普段は開くことがない。
ここを出入りできると貴族も便利なんだけど、そんな理由でここが開くことはないのだ。
ないはずなのだけど。
「あっ、あるくんおかえりーっ、どうしたの? 開けてほしいの?
うーん、いいか、待っててねー」
はい、奥から声が返ってきました。そして門の脇にある通用門が空きました。
城壁が厚いので、この通用門は一間ほどの大きさのトンネルになっている。
その入り口がギギギーーーと開いた。
アルビスたちは隠者の手が使えるため、アルビスがその気になると鍵が勝手に開いて、扉も自ら開いてしまうという現象が発生する。
つまりアルビスたちがここに来た以上、止めるのは無意味だったりするのだ。
だったらちゃんと開けて通してやるほうがいいのである。
つまり『アルくんだから仕方ないよね現象』と呼ばれている。
ちなみに開けてくれたのは近衛騎士団のおねにいさんである。つまりアルくんの弟子の一人だね、近衛騎士団はアルくんに魔力操作を習っているから。
どういう人かというと体が大きくて筋肉がすごくて、でもお化粧がきれいで所作が女らしい立派な漢女なのである。
そして近衛騎士だから当然強いのである。
こういう人が立派に働いているあたり近衛騎士団は懐が深い。
彼(彼女?)にただいまの挨拶をして、すぐに事情を説明する。
『んまっ!』
とかいってすぐに対処に走ってくれる漢女。お名前はエカテリーナさんだ。
本名かどうかは知らないが、エカテリーナなのである。
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6月アルビス7さい9か月。双子5歳5か月




