03-09 魔境の魔物見物ツアー
第9話 魔境の魔物見物ツアー
「あっ、ねえねえねえ、あれ、何?」
ディアーネが地上を蠢く魔物を見て無邪気に声を上げた。
「あれはオークですね」
「ええ!? あれがオークなの?」
魔境の魔物について勉強に余念がないカナリアがそう答えるとアルビスはびっくりして声を上げる。
アルビスが想像していたオークとは全然違うものだったからだ。
「まるっきり獣だね」
「いえ、油断してはいけませんよ。
前足は手のように器用に動きますし、武器を使ったりもするそうです。
あんななりでもわりと頭が良くて、とても性格が悪いんです。
特に人類種族の女の人を嬲る性質が邪悪で、オークにつかまった女性は巣に連れ込まれて、なぶりものにされて簡単に殺してももらえないって…
あばば…」
最後のアババはエドワードとのディアーネが『なぶ?』と不思議そうにしていたからだ。
カナリアはアルビスのことを子供だとは思っていないらしく、普通の子供に対する気づかいなどは全くしない。
だからこんな話も平気でしちゃうんだけど、子供は他にもいたのである。
それをスルーしてアルビスは改めて『オーク』と呼ばれた魔物を見た。
スタイルは両手をついて歩いているゴリラに似ている。後ろ脚が短く、前足が長く、そして左右に張り出している。後ろ脚には蹄があるが、前足は手の様で握りこぶしで歩いている。
顔はイノシシを狂暴にした感じで、全身が長い毛で覆われている。毛がないのは胸から下腹部にかけてだ。
体長は2m前後というのが一番多く、中には大きいのもいる。上位種だろう。
『ボゲーーーーーーッ』
『ブギ――――――っ』
「あっ、喧嘩してる」
怒った個体が直立して殴りあいをしている。器用に腕を武器に使って。地面を掠るような攻撃もあるが地面の方がえぐれてオークの方は気にもとめていない。
そのうち石をもって投げ出したり、こん棒を振り回したりするのも出てくる。大乱闘である。
カナリアの言う通りかなり器用な手を持っているようだ。
実は魔物の中には人間を餌としか認識しない奴もいればおもちゃとして嬲り殺すやつもいるのだ。
オークは邪悪な魔物の代表格だったりする。
人間を攻撃して泣きわめくのを喜ぶ性癖があるのだ。
特に女性をいたぶるのが好きという性癖がかなり嫌われている。
これは割と知能の高い魔物に見られる傾向で、知能が高いと人間と争わない方向に行くか邪悪に積極的にかかわるかのどちらかだったりする。
「ただこのオークはとてもおいしい魔物なんですよね。
魔角の性能もいいですし、お肉は美味だそうです。
あとあの長い毛は防刃性能が高くて、あれで織った服は刃物をはじくそうですよ。
仕留めればいいお金になります。
どうします?」
「いや、いいかな。おいしいって言ってもこの間の蛇ほどじゃないだろうし、それにあんなの狩って帰ったら騒ぎになるよ」
アルビスのパーティーはカナリアが中心人物だと思われているのだけど。
最近は『カナリア嬢かなり優秀』とうわさが立っているのだけれど。
それでもオークを持ち込んだりすればかなりの騒ぎになるだろう。
こいつは結構ランクが高い魔物なのだ。はっきり言うと単体ならDクラス。でも大概、群で行動するのでその場合は『C』クラス。上位個体がいたり、群れが大きかったりすると『B』もありうるという感じ。
子供たちがそんなものを狩ってきたら大騒ぎである。
アルビスたちはオークをスルーして下に向かった。
「でも今年はオークが多いような気がします」
「そうなの?」
「はい、私も勉強して覚えただけなのではっきりしたことは…でも、この辺りでこんな規模の群れに出くわすなんて、たぶんないです」
「へー、そうなんだー」
アルビス君は自分には関係ない話だと思ってます。
◇・◇・◇・◇
その少し前ごろのことになる。
「よし、やっといい場所に来たんだな。ここなら安心してキャンプを張れるんだな」
子豚公子ことゼント・ダッツはふかふかの草地となだらかな起伏で作られた山の中腹の花畑で満足げに頷いた。
「でも、こんなところまで上がってきてしまって大丈夫ですか?」
世話役のメイドさんが心配そうに口にした。
彼女は戦闘力には全く自信がなかったので、魔境の奥に進むというのはそれ自体が恐怖なのだ。
何でこんなところまで来てしまったのかというとそれはゼント少年の『もっと広々したところでゆったりしたい』という謎のこだわりによるものだった。
ゼント少年が魔境に入ったのは先日アルビスに絡んだ直後からだ。
魔境というのは入り口付近でなければ日帰りなどは普通しない。移動に時間がかかるからだ。
山に入って探索しながら狩りをして十分な獲物を得る。ということを考えると普通、最低で数日、長ければ一か月以上というのもある。
壺中天や状態保存の結界箱があればそういう狩りの仕方ができるのだ。
なので最初から泊りを予定していたダッツ男爵家一行だったが…
「こんな固いところで寝られないんだな!」
「こんな保存食、食事じゃないんだな、ちゃんとしたものを用意するんだな」
「ぼくちんいじめられているんだな、お前らみんな首にするんだな」
若様ならぬバカ様のわがままでふらふらと移動を続け、ふかふかの草地の地面で、しかも広々とした見晴らしの良い場所まで登ってきてしまった。
魔境で見晴らしがよいとかアホである。
「まあ、この辺りは魔境といっても浅層を抜けて中層に入ったあたり、出る魔物はせいぜい『Dランク』までだ。心配はいらんよ」
「はあ」
「うむ、魔物狩りは隊長たちに任せるんだな。
貴族の義務なんだな」
この魔境行はレムニアが貴族の子弟は魔境で腕を磨くべし。と言ったことに端を発するのだが、ダッツ家では。
「貴族たるもの人の上に立って支配する存在であるから。ダッツ家の嫡男であれば兵を率いて魔物を討伐できればよい」
と、ちょっと見正しいような曲解をしていて、もちろんゼント少年も自分で魔物と戦うという発想はない。
護衛騎士にやらせて自分はその監督(ただ見てるだけ)をすればいいと思っていた。
彼は基本的にいるだけで、移動はドーリー、身の回りの世話はメイド。キャンプの準備は騎士と小間使い。本当にそこにいるだけなんだから、そりゃ豚にもなろうというもの。
お世話係は引き下がった。
この騎士隊長は昔冒険者として名をはせた。と自己主張している男で、その経歴を買われて今回の任務の隊長に選ばれたのだが、素人を連れて奥に来るあたり、なにを考えているのかわからないのである。
口先だけという可能性も…
その証拠にこの隊長。
「よーし、キャンプ地ができたらここを拠点にして狩りをするんだな。
でもその前にはらごしらえなんだな。
今、はやりのBBQとかやるんだな」
という若様の言葉に従ってそそくさとバーベキューの準備に取り掛かった。
獲物をしとめてその場で解体し、塩を振って食べるという食事形態は昔からあった。
かなり一般的と言っていい。
ただ最近妙においしい焼肉のタレとかが出回り始めていたのだ。そしてものすごく好評だった。
もちろん誰が大本かは考えるまでもない。
アルビスと料理長との研究の成果の一つで、とりあえず一種類のタレが売り出されていたりする。もちろん収益の一部はアルビスの懐に入るようになっている。
アルビスの展開する事業の一つだったりする。
さあ、想像してみよう。
炭火のバーベキュー台の上、金網の上で焼かれる串に刺したお肉や野菜。そして焼肉のタレ。
風に乗って流れる臭い。
昨日まで場所が悪くてできなかったので今日は盛大にやった。
いいにおいが食欲を刺激する。
騎士たちも、お世話係もよだれを垂らさんばかりだ。
もちろんその匂いに攻め立てられるのは人間だけではない。
周辺にいた魔獣たちが『ギュピーン』と顔を上げた。
彼らの目は欲望にギラギラと光っていたりするのだった。
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6月アルビス7さい9か月。双子5歳5か月




