03-08 カレーはおいしいという話
第8話 カレーはおいしいという話
こうして修業尽くめの一日は暮れていく。
あっ、もちろん最初からお泊りの予定である。
もちろんベアトリスは反対したのだが、前にも言った通り、魔法の修業の第一人者はアルビスだったりする。
小神様、つまり大精霊の知識というのは貴重なのだ。それが今、アルビスによってもたらされようとしている。それはとてもすごいことで、アルビスが『それが必要なのだ』と言えばなかなか反対しづらいものがある。
だからと言って霊峰の最奥まで行きますと言って許可が出るわけもない。
なので現在アルビスたちは魔境の安全なエリアで魔法修業をしていることになっているわけである。
悪い子だなあ。
そんなわけで夕方。
「ふっふっふっ」
アルビスは意味ありげに笑う。
「今こそ昨日の名案を披露するときなのだー」
「「わーい」」
双子である。もちろんわかってない。
アファナトスは期待に満ちた目でアルビスを見つめている。
こっちはなんとなくわかっている。
そしてたぶん、アファナトスがアルビスたちを弟子にしたのはこれが理由だと思われる。つまり餌付けである。
さて、アルビスが用意したもの、その名はカレー。
そう、日本式のカレーなのだ。
と言ってもアルビスが作ったわけではない。
アルビスにそこまでの料理スキルはないのだ。
そして香辛料を集められるほど暇でもない。まあ、はんぶんは鑑定を使ってアルビスが集めたんだけどね。
ではだれがこれを完成させたか。それはエレウテリア家の料理長である。
いたのかそんなもの! という感じだがいたのである。
新年早々にエレウテリア家は子爵になって、スクード城に領域を与えられてそこに移り住んだ。
その際に新たに使用人を雇うことが求められたのだ。
それはお金持ちの義務なのである。
金持ちは使用人を雇ってバンバン給料を払いなさい。みたいな考え方があったりする。つまりお金持ちはお金を使う義務があるのだ。それによってお金は国中に回り、人々が豊かになる。
そしてそれは人の生活に役立つものであるほどいい。
つまり、貴族の義務なのである。
だが貴族家の使用人が誰でもいいのかというとそういうわけには行かないのだ。
教養とか実力とかが必要なのだ。
とりあえず騎士だの家令だの侍女だの合わせて20人ほど雇ったんだけど、ほとんどがスクード家の紹介になる。
ならざるを得ないのだ。
住んでいるところが領主城の中だから変なのは雇えない。
なのでスクード家から新人さんとか、引退間近の人とかに来てもらって、なんとか体裁を整えた。その中に料理長もいた。
というかスクード家の料理長だった人なのだ。
結構年配で、そろそろ引退を考えていた人だった。
後継の育成も終わっていて、あとはタイミングだけだったのだ。
「いやいや、お気になさらずに、ありがたいことに面倒を見ないといけない人数も少ない。
一線を退いて少しのんびりやるにはありがたい話です」
料理長のトーマス氏はそういったらしい。
本当にそのつもりだった。
この時は。
体力的にたくさんの料理人を指揮してたくさんの料理を毎日作る。それがしんどくなってきていたのだ。
だが…
「なんじゃこりゃーーーーーーーーっ」
料理長の絶叫が響き渡った。彼のおなかは真っ赤に染まっていたりする。
・・・・・・握りつぶしたトマトによって。
なぜこんなことになったかというとアルビスは家(住環境)にも食事にも手を抜くつもりはなかったのだ。
なのでアルビスはこの世界の料理ではなく、自分が食べなれた料理を、料理長に指示していくつか作らせたりした。
その結果がこれである。
アルビスが指示して作らせたいくつかの料理はトーマスを驚愕させた。そして感動させた。
香辛料の使い方とか揚げ物料理とか、粉ものとかである。醤油、味噌などである。唐揚げ、各種フライ。味噌汁。照り焼きなどである。
トーマスは今まで自分が狭い世界に閉じこもっていたことに気づき、慙愧の念で涙を流した。
井の中の蛙であることを知ったのだ。ちなみにこの世界では『水たまりのスライム』という。
その時から料理人トーマスは死んだ。そして料理研究家トーマスが生まれた。
というわけでターメリックや各種香辛料を見つけ出したアルビスはその配合によるとろみのあるスープ、つまりカレーの研究をトーマスに依頼した。
完成したのは先週だった。いや、形になったのはというべきか。
やはり日本のそれとは少し違うのだがおいしかった。だから合格。
そしてアルビスはアファナトスに対する秘密兵器としてこれを持ち込んだのだ。
さあ、勝負!
勝敗はアファナトスが垂れ流すよだれが物語っている。
そして実食。
「まあ、お米がまだ手に入らないのは残念だけど、ナンもおいしいよね」
そして。
「「「「!!!!」」」」
「おいしーーーーーっ」
「おにいちゃま、おいしいーー」
「アルさま…わたしわたし」
アルビスは満足げに頷いた。
そして当然アファナトスも衝撃的に感動した。
ステーキの感動が『天地開闢』だったとするならば、これはそれを通り越して『一にして全なるもの』に匹敵する驚愕だった。よくわからん。
ただ涙を流しながら無心にカレーを食べるアファナトスの姿はアルビスに勝利の充足感を与えたのだった。
何と戦っているのだろう?
◇・◇・◇・◇
翌日、昼を過ぎたころにアルビスたちは帰途に就く。
子供だからね、住み込みで修業とかはできないのだ。
アファナトスも自習するようにといい、そしてアルビスに監督を命じた。
そして別れ際にアルビスの手を握り熱い思いを伝えるのだった。
『わが友』
つまり〝まいんふろいん〟である。
意味はまたご飯作ってきてね。だったりする。
はたから見ると感動的なんだけどね。
ちなみにお昼の会食はカレーとステーキだった。人それを餌付けという。
というわけで再会を約束して帰宅。
「にゃーにゃーにゃーーーーー」
これはモップ。
修業がまだ全然なのでモップだけ居残りだそうだ。
みんなで『頑張ってね』と手を振って三人は空を飛んでふらふらと帰途に就いた。
「にいしゃま、せっかくだから魔境を探検したいです」
「アーネに賛成、どんな魔物がいるのか見てみたいよー」
「うーん、そういえばそうだね」
今度は下りだからすっ飛んで帰れば早いからね。
「よし分かった、魔境探索をしよう」
「「わーーーい」」
こいつら魔境を遊び場と間違っている。
□ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □
6月アルビス7さい9か月。双子5歳5か月




